チャツネ
「…チャツネ‼」
ハッとして目覚める。
目を開けた先には見慣れた天井。可愛らしい動物の描かれた天井。うん、ここ、私の部屋だ。念のため周りも見渡す。やっぱり私の部屋だ。いつの間に寝たのかしら?
ん?
そういえば、と思い自分の胸に手をあてる。なんともない。自己主張の少ない、ささやかな胸があるだけだ。
ん?
ささやかな胸?
てか、なんともない?
てか、ここ家⁉
「てか、あんた誰⁉」
びっくりして、大声をあげる。
その声にびっくりした、部屋の床に可愛らしく体育座りしている人?
は、自分の足をより大事そうに抱える。
その仕草に私は、私は、イラつきしか覚えない!なぜかって?そいつが巨乳だからよ!おっぱいの自己主張が激し過ぎるのよ!膝抱えた暁には、おっぱい溢れるんじゃないかってほど巨乳なのよ!恨めしい。おっぱいの主張が凄すぎて、腰の羽やら尻尾やらはまったく気にならないわ。
「こんにちは。はじめまして、ではないよね?ボクはリリー。これからよろしくね〜。」
気を取り直して、律儀に挨拶をしてくるリリーと名乗る女。上目遣い。ボクっ子。まぁ悪くないわね。
「私は那由他よ。よろしくお願い…するわけあるかい!あんた、なんで私の部屋に居るのよ⁉どっから入ったの?腰の羽は本物?そのおっぱいは本物?尻尾は?いいえ、羽と尻尾は本物だとしても、おっぱいは偽物でしょ!絶対そうに決まってるわ!」
ここ一ヶ月毎日夢に出てきては、何かを話し(その間私は金縛り状態よ)、通じてないとみるや、指をぱちっとやって、強制的に目覚めさせる。(最近はスキンシップをとるようになったけど)私にとっては悩みのタネであった、女性。その人が今目の前に居る。
巨乳。
羽。
ボクっ子。
ブルマ。
尻尾。
悪魔?
属性付けすぎ?
「なにいってんのさ、那由他。夢の中であんなにちちくり合ったじゃないか!あんなことや、こんなことまでしておいて…。本物だよ!このおっぱいは!」
そう言って、自分でおっぱいを持ち上げるリリー。
体操着の上からでも分かる豊満なバストを、バインという効果音が似合う仕草でもって、持ち上げる。
…一度絞めとこうかしら。
「なに吐かしてんのよ!ちちくってたのはアンタだけでしょ!私は金縛りの所為で動けなかったのよ!ちちくれなかったのよ!据え膳が目の前にあったのに!乳が目の前にあったのに!連日屈辱で枕を濡らしたわ!」
ここでハッキリさせたいことは、私は守りより攻めが好きってことよ。
「ふ〜ん、そうだったんだー。それで、濡らしたのは枕だけ?」
上目遣いのまま、体育座りのまま、あくまで自然に、しかし悪魔的に、対象年齢をグンと引き上げる発言をするリリー。
ブルマ。
体育座り。
目線が上に下に反復横跳び。いえ、反復上下飛び。
…これは完全にアウトね。
「一応言っておくと、この話は対象年齢十二歳以上を目指して頑張ってるのよ。それに私は一応中学生って設定なの!これ以上話を変な方向に持っていくようなら、今すぐ語り部辞めて好き勝手するわよ!」
語り部を失った物語なんて、馬の糞が尻尾までたっぷり入った、たい焼きみたいなもんよ。
「ごめんね〜。でも設定の話をするとー、ボクは一応悪魔は悪魔でも、18禁が専門のサキュバスの王女って設定だったりするんだよねー。だから設定上、痴女発言しないとキャラ立ちしないんだよねー。」
顎に手を当てて考える。
なるほど、なるほど。分かったわ。全部分かったわ。
悪いのは完全に作者ね!目標対象年齢とキャラ設定を完全に間違えてるわ!12歳以上を対象にしときながら、痴女キャラを出すなんて愚の骨頂だわ!間抜けもここまでいくと、逆に天才だわ!
ん?
なんか、最後のはイマイチ、ディスれてなかったわね。修正が入ったのかしら?これだから作者は嫌いなのよ。
「設定の話をされると、流石に文句は言えないわね。わかったわ。取り敢えずこの章が終わるまでは、語り部を続けることにしましょう。」
「うん。助かるー」
「それで話は変わるけど、」
「ナニ?」
「貴方、本当に王女様なの?その、サキュバスの」
いくら設定上王女様と言われても、服装がブルマでは疑いたくもなるというものよ。それに今だ詳しい容姿の説明が無いのも、作者の段取りの悪さが露顕してるわ。本当に使えないのね、うちの作者は。これじゃ、読者のリリーへのイメージが、巨乳、ボクっ娘、ブルマ、王女、サキュバス=エロゲによくいる痴女キャラになってしまうわ!これだけは断固として回避しなければ!
なにをそこまで危惧しているのか、ですって?
だって、私とちょっとキャラ被ってるじゃない‼︎痴女キャラが!このままでは、公然猥褻がヤりにくくなるわ!
(今のうちに軽く容姿の説明しとくと、ロン毛のアーモンドみたいな目をした、まぁ、私には劣るけど可愛子ちゃんよ。)
「あー、この格好だと見えないかー、やっぱり。じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言いながら、立ち上がりその場で華麗…でもない、ターンをしてみせる。すると、プリキュアの変身シーンよろしく光とともに衣装がブルマから、漆黒のドレス姿になる。もちろん効果音つきだ。凄く豪奢な造りで、煌びやかな装飾品が所々に施されている。しかし、注目すべきところは装飾品などではない。そう!装飾品などではないのだ!ならば、何処に注目すべきか?ふふふ、それはやっぱり、おっぱ ー 、
「ナレーションの分際で、出過ぎた真似するんじゃないわよ!この、バックオーライ禿げ頭!」
ちょっと役目を与えると、すぐ暴走するんだからこの作者は。なんで私が次元を超えてツンでらないといけないのよ。あっ、でも、次元を超えたツンデレって新しくて、カッコいいわね!
「どうしたの?いきなり叫んで。生理?」
「いえ、なんでもないわ。生理はまだ先だもの。ちょっと語り部ならではのやり取りってやつだから気にしないで。」
「そう。ならいいけどー。それよりどう?ボク、お姫様に見える?」
はにかみながらも、ドレスの感想を聞いてくる、リリー。仕草がいちいち可愛い。
あぁ、可愛いわね。
「そうね。見えなくはないわ。」
「可愛いい?」
「まあ、私には劣るけどそこそこには可愛いわね。」
「ありがとう♡」
「…どういたしまして。」
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
なんなのよ!このやり取りは!
恋人関係か!
ちょっとドキッとしちゃったじゃない!
はっ!
もしかして、これがサキュバスの力なの⁉︎
嘘でしょ⁉︎性別関係なしなの?思ってたよりやばいわねって、近い!近い!近い!
那由他が思考している間に、リリーの顔がいつの間にか目前に迫っていた。
鼻先がもう少しで、触れ合う程の距離だ。袖口触れ合うも多少の縁というけど、鼻先触れ合えば多大な縁よね。
ん?この子なんだかとってもいい匂いがするわ、
頭がぼーっとする。
「どうしたの?那由他?」
「な、な、なんでもないわよ…。」
なんだろう?この気持ち。初めてだわ。こんな気持ちになったのは。
「顔が赤いよ?もしかして…」
「な、なによ!別にドキドキなんかしてないんだから!」
「生理?」
「ん?」
「だから生理?」
「えい♡」
リリーの鼻に指を勢いよく突っ込む。顔と顔が近かったせいで、思わぬ死角からの攻撃となった。
今度水樹にもお見舞いしてやろう。
「いやん♡なひすんのは〜?」
念の為訳すと、いやん♡なにすんのさーである。これもナレーションの務め。
「いや、あの、自分でも水樹にならまだしも、なんで女の子の鼻に指突っ込んだのかと聞かれるとわからないわ。わからないけど、こうでもしないと、自分を保てなかったのだけはわかる。わかるの。」
危なかった。今のはとても危なかった。危うくリリーにキスしたい衝動に屈するところだったわ。こいつに近づくのは危険ね。
「ふぁーん?なんはよふわからなひけほ、そういふ、ぷへーではなひのね?」
通訳します。
ふーん?なんかよく分からないけど、そういう、プレーではないのね?だそうです!依然、鼻には指がインしております。
「私はそんな、危なノーマルの性癖は持っていないわ。でも、貴方は持っているようね。」
だって、この人なんか、はぁはぁ言ってるんだもの。
「うふふ。ぼふのせひはんはいはかはだじゅうにあふのは!」
まあ、訳すと、うふふ。ボクの性感帯は身体中にあるのさ!だってさ。ナレーション兼作者も少し引くわー。この展開。収集つかないよね、ぶっちゃけ。
「もっほ!もっほ!おくまへ!ほしほししへ〜♡」
流石にもう訳さないよ。もう付き合ってられないよね!後はよろしく!那由他ちゃん♡以上、ナレーション兼作者でした!