学級長
あれの時間。
とは何か?
それは、朝の会が終わり、一時間目が始まるまでの空白の時間。
先生が読書を勧めた時間。
先生が職員室でコーヒーブレイクと洒落込む時間のことである。
本来なら先生の言う通りに読書でもして、一時間目担当(ちなみに今日の一時間目は数学だ)の先生が来るまで読書に勤しむべきだろう。
だがしかし、
俺らの教室で先生が来るまで大人しく読書をするお利口さんは殆どいない。
その殆どいないお利口さんに俺は入っているけど。
まあいない!
では何をしているか!
・・本当なにしてるんだろ?
別に煙に巻くわけではない。
わけではないが、俺には理解できないのだ。
免疫がないとも言えるかもしれない。
いや、逆に免疫があるのか。
こいつらみたいにならずに済んでいるのだから。
「一同!起立ぅ!!」
この声は学級長ね。
名前はまだ考えてないから、今のとこはとりあえず学級長で。
学級長の号令と同時に那由他ファンクラブ一同は寸分の違いもなく立ち上がる。
さながら北朝鮮の軍隊のようだ。
「一同!回れぇ、みぎぃゃ!!」
「「イチ!二!!サン!!!」」
これまた見事な揃いようで、回れ右をする。
何故後ろを向くのかというと、那由他の席が一番後ろだからだ。
(因みに、俺は一番後ろの角になるから、その隣に那由他がいるということになる。)
「一同!!いつにも増して、艶めいているぅ、那由他様に礼ぃぁ!!」
「「那由他様!!おはようございます!!」」
念のため書いておくが、学級長の声もそうだし、その他一同の声もそうだが、凄く腹から出してるからね。
つまり、学校中とはいかなくても、隣の教室には余裕で届いているような声で行っている、ということを認識しててほしい。
「・・おはよう皆さん。今日も無駄に声がデカくて朝からとても不愉快だわ。」
「「・・・・・・。」」
「ちょっとそこの、えーと、誰だったかしら。」
「学級長です!」
「そう、学級長。学級長、ちょっと私の前に来なさい。」
「ふぁい!」
名前がまだ決まっていない学級長は、おずおずと、というよりは、むしろ堂々と、誇らしげに、勝ち誇ったように那由他の前に向かう。
「学級長、私、朝は低血圧だから弱いって知ってた?」
「すいません!そのようなことは今初めて知りました!このことはファンクラブの会員全員に周知させるようSNSにも書き込んでおきます!」
「そう、よろしくね。でも、次から気をつけますで通ったら、世の中警察とか軍隊とかお化けとかいらないと思わない?」
ん?お化け?
「まったくその通りです!」
「そうよね?ではどうする?」
「罪には罰を!」
「「罪には罰を!!」」
はい、始まりました、罪には罰を。
いつもの茶番の始まりです。
那由他も凄いよな。
毎日毎日いちゃもんつけるんだから。
昨日はなんだったかな?
確か、「あんた達の所為で髪の毛完全に乾いてないじゃない!」だったな。
「歯を食いしばりなさい!」
「ふぁい!!」
「足はシコ立ち!」
「ふぁい!!」
学級長は空手でよく見られるシコ立ちの姿勢をとる。
あれ慣れないと足辛いんだよな。
「そのまま待機!」
「ふぁい!!」
「他の皆んなは席に着いて授業の準備!因みに数学よ!」
「「ふぁい!!」」
学級長以外は皆席に着き、数学の準備を始める。
各々予習をしたり、復習をしたりしている。
俺もこの茶番が一山を超えると、読書を辞め、授業の準備を始めた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
五分後。
ガラッ。
教室のドアが開き、数学の先生が授業をするべく入ってくる。
「おはよう皆さん、今日はいい天気ですね、というわけで出席とりまーす。」
「学級長!」
「ふ、ふぁい!!」
「・・・・・・。」
学級長は那由他ファンクラブの中でも幹部クラスで、いわば模範生ともいうべき存在だ。
そんな人が、那由他の言いつけを先生如きが来たところで破るだろうか?
答えは否だ。
その証拠に学級長は先生が入ってきて、出席をとっているというのに、依然那由他の目の前でシコ立ちをキープし続けている。
学級長の足は誰の目から見ても限界を迎えていて、プルプルどころか、ブルンブルンと震えている。
それでも学級長の顔は誇らしげで、幸せそうである。
俺からすると、酷い病気を拗らせたとしか言いようがないが。
「学級長!」
「ふぁい!!」
「・・君は一体何をしとるんだね?」
作者さん。
この頑張り屋さんの学級長に、せめて名前を付けてあげて下さい。
でないと、こいつは報われねぇ!
その後、何度呼んでも振り返らずシコ立ちを続ける学級長は、先生の逆鱗に触れ、廊下に立たされたというのは普通すぎるオチだろうか?