四面楚歌アァ
「あんたなにしてたのよ?一緒に登校したのに、あんただけ遅刻して。電柱にマーキングでもしてたの?」
「よく分かったな。男は縄張り争いが大変なんだよ。」
「ふーん。どうりで小便臭いわけね。」
「えっ!匂うの?」
「ええ、匂うと思えば匂うわ。人間万事塞翁が馬って本当なのね。」
「うん、那由他、取り敢えず辞書でその言葉の意味を調べようか。今の会話の流れを考えると、絶対出てこない言葉だからなそれ。」
「あら、そうなの。これはまさに棚からぼた餅ってやつね。」
「はい!それもおかしいよ!適当に使っちゃダメ!頭悪い子と思われてしまうよ。」
「と言われても、私はよく分からないことを言うキャラなのだから、まともなことは滅多なことがない限り言えないのよね。」
「キャラとかやめて!現実味が損なわれるから!」
「いや、現実味とか言われてもこの世界は作者の妄想の爆発を ー 」
「やめて!本当にやめて!お前メタ発言とか何処で仕込まれたんだよ!前まではそんな悪い子じゃなかったのに!」
「前までとか言われても ー 」
「シャラップ!シャーットゥ、アップ!もうこの話は終わろう!今すぐ終わろう!駆け足で終わろう!これ以上続けても誰にも得はない。あるのはカタストロフだけだから!」
さすが主人公水樹。
又の名を俺の中の自制心。
「ということで、今日の朝の会は終わるわけだが、何かみんなに言っておきたいことがあるのか水樹?」
東風平楓先生、以下東風平先生、いや、楓先生が後ろのほうで憚ることなくお喋りに興じていた水樹に、戒めの意味を込めた問いを投げかける。
怒られる主人公。
しかも、先生に。
「えっ、えっと、すいません、特にないです。はい。」
みんなの前で怒られて、恥ずかしさに顔を真っ赤にする水樹。
これでも主人公。
「それなら、他の先生が喋っている時ならともかく、私が喋っている時には私語を慎むように。」
「はい、肝に銘じておきます。」
肝に銘じるだけでなく、タトゥーも彫ったほうがいいのでは?
おつむが悪そうだからね、うちの主人公は。
「うむ。それでは一時間目が始まるまでは、読書して待ってることを勧めて、先生は職員室に戻るとします。」
そう言い残し、東風平先生、じゃなくて楓先生は教室を後にする。
うん?
冷静に考えるよ?
冷静に考えると、那由他も喋ってたよね?
それなのに、何故俺だけお咎めを?
これあれだな。
差別だな。
「差別だよな那由他?」
横に座る那由他に不満をぶつける。
「ええ、そうね。差別ね。」
「お、おう。良くないよね、差別は。差別はよくない…」
まさか同意されるとは思わなかった水樹は威勢を削がれてしまった。
てっきり、「私とあんたには世界と世界の間ぐらいの差があるのだから、あんまり考えると作者のようにハゲるわよ?」とでも言われると思っていたのに。
もしかして今、デレた⁉︎
「でも、私という存在だけは例外ね。だって私には誰しも敬ってしまうもの。私と比べたらあまねく生命すべてが自分の小ささに嘆き、悲しむわ。だから、私と比べて差別されたと考えるのはよしなさい。不毛以外の何物でもないわ。」
「傲岸不遜も甚だしいわ!!」
やはりこいつはデレない。
俺の勘違いだった。
まさか差別に対しての返しがこれとは…
多分こいつのことだから、本気でそう思っているんだろうな、怖いことに。
そして、もっと怖いのが、あまねく生命は誇張表現すぎるが、那由他ファンクラブの連中はこいつの言う通り、那由他をどうしようもなく寿いでいる。
崇め奉っている。
つまり、殆ど神扱いだ。
この教室で、俺たちの話を耳を澄ませて聞いている殆どの連中が、那由他ファンクラブの会員だ。
他の言い方をすれば、那由他の奴隷だ。
(俺も昨日の一件で奴隷になっちまったが、心までは捧げてないので他の連中とは差別化させてもらうぜ。)
こいつの一言で、ファンクラブの連中は何でもするだろう。
俺を襲えと言えば、なんの躊躇いもなく。
何も考えずに。
・・あぁ四面楚歌ぁぁ。
「あら、そうでもないわよ。証拠を見せましょうか?」
「いや、結構だ。てか俺から話しかけといてあれだけど、俺なんかと話してていいのか?今の時間はほら、あれの時間だろ?」