東風平(こちんだ)と読みます
「あの、おはようございます那由他様!今日も大変麗しゅうございますね!」
今那由他に挨拶してきたのは見たことない娘だから、一年か二年の生徒かな?
もじもじと挨拶してきたことから察するに那由他ファンクラブには加入したばかりなのだろう。
那由他ファンクラブに入って長い奴は、
「那由他様ーー!!どうか俺のことを罵ってください!!」
「いえ、私を罵倒してください!!」
こんな感じで、挨拶なんて二の次だと言わんばかりに、那由他の”お言葉”を欲しがる。
そう!那由他ファンクラブの主な活動は那由他の親衛隊を務めることと、那由他ゾーンのパトロール。それと、那由他からお言葉という名の蔑みの言葉を頂戴することである。
…こいつらはどうしようもない変態集団なんだ。
「・・・おはよう、えっと、」
那由他は後からやってきた二人の那由他ファンの上級者をガン無視し、最初に挨拶をしてきた女の子に話しかける。
「さ、彩子です!」
「そう。おはよう、彩子さん。今日も朝から部活動お疲れ様。」
「あ、あばばばばばば」
彩子という女の子は那由他に話しかけられたことに対して感動しすぎて、心のキャパシティがオーバーしたのだろう。
とても幸せそうな顔をしながら、白目をむいて立ちながらにして気絶している。
那由他はクズの見本みたいな性格をしているが、案外キチッとしている一面も持っている。
歪んだことが嫌いなのだ。
だから、後から出てきた二人を無視し、最初に挨拶してきた女の子を優先して相手をした。
あの優しさを一ミリだけでいいから、俺にも向けてほしいもんだ。
「あ、あぁ、那由他様から完全無視!これはこれで、エクスタスィー!!」
「視界にすら入ってない感じ!さすが那由他様!!」
何がさすがなのかは分からないが、どうやらこの二人はかなりの上級者らしい。
放置プレイでも喜びを感じるほどだからな。
「話の途中だったのだけど、」
「分かってる。行ってこいよ」
「返事はまた今度聞かせてもらうわ」
そう言い残し、那由他はいつの間にか殺到してきたファンクラブの波の中に消えていった。
「あいつも大変だなー。」
俺は嵐が過ぎ去るのを待ってから、学校へ向かう。
まだ時間には余裕がある。
少しくらいゆっくり登校しても遅刻にはならないだろう・・・。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「すいません!!遅れました!!」
「水樹!最近多いぞ!気をつけろ!それとも気をつけさせられたいか?」
「個人的には気をつけさせられたいですが、それはまたの機会にお願いします!」
「それなら次から遅刻するなよ!」
「はいっ!急いで席につきます!」
結局あの後、ゆっくり登校しすぎて遅刻するはめになってしまった。
一月まえから、つまり、ブレイドさんの夢を見始めてから遅刻を連発しているので、完全に先生に要注意人物としてマークされてしまった。
でも、こんな美人な先生にマークされるのは正直なところ嬉しいというのが本当のところである。
東風平楓
我が三年三組の担任にして、生徒指導も務める、ゴリゴリの体育系女子。
もちろん専門は体育だ。
これだけの説明だと、ゴリラのような、ジャイ子のような容姿を思い描いてしまうと思うが、安心されたし。
この楓先生は、那由他がいなければ、ほぼ間違いなく我が与勝第三中学校のマドンナになっていたと皆に言わしめる程の美人である。
いつも髪型は高い位置からのポニーテール。
目元はキリッとし、眉もくっきりとしていて、印象としては勝気な顔立ちとでも言おうか。
そして、その顔立ちに引っ張られるように性格のほうも体育会系のノリで、根性とか、気合いとかが大好きだ。
みんなのアイドルというよりは、みんなの姉御と言ったほうがしっくりくるか。
あっ、最後にこれだけは言っておきたい。
服装はいつもジャージだ。