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晴天で辟易

さっきまでの緊縛した空気は何処へやら。

気を取り直すように、勢いよく立ち上がると、母さんが俺の朝食を作るため、台所へ向かう。

俺は母さんが台所へ行った後、朝食が出来るまで暇を潰そうと、テレビのスイッチを入れる。

すると、父さんが顔を寄せ、台所の母さんに聴こえないよう、小声で話しかけてくる。


「水樹、その、大丈夫か?」

「心配してくれて、ありがとう父さん。俺は大丈夫だよ。逆に気分が良いくらいさ。」

「本当か?」


父さんは俺が本当は無理をして強ががってるのではと、考えているようだ。


「本当さ。もしかしたら、新しい扉を開いてしまったかも知れない。」


数秒の沈黙の後。


「ふふ、父さんが思っているより、水樹は強くなったんだな…。」


父さんは力なく笑う。

その笑顔になにを思うのか。

残念ながらそれを俺に知る術はない。

だから、ここは素直に息子の成長を喜んだのだと思うことにしよう。


父さんとの会話はこれで途切れ、母さんが俺の朝食を作り終わるまでは、テレビを観て時間を潰す。

父さんは既に用意されていた朝食を食べていた。


「出来たわよ。水樹は昨日の夕飯食べ損ねてお腹空いてるだろうと思って、ご飯山盛りよ!」


「・・・・・。」


・・母よ、本当は俺の告白を受け止められてないんじゃないか?

そう思わせるには十分な程、ご飯は盛られていた。

その盛られようは、渚の乳パットなど、まだまだ可愛いもので、成人式で気合を入れて盛りに盛ったキャバ嬢の髪型並みであった。

オラ、ワクワクすっぞ!


「いただきます!」


俺は母さんの動揺など気にする余裕が無かった。

本当は母さんの心のケアをするべきなんだろうけど、もういい加減限界だ。

喰らう。

カッ喰らう。

美味い。

美味すぎる。

やっぱりベーコンはカリカリに限る!

目玉焼きも程よい焼き具合で・・とか今はどうでも良いわ!

正直、今は何を食べても美味しい自信がある。

あれだ、空腹は最高のスパイスってやつだ。

一口ひとくちが、今までにない甘美な響きを脳に運んでくる。

この飢餓感、癖になりそうだ。

イスラム教徒がラマダンの時期に断食するのは、食へのありがたみを再認識するためなのかも知れない。

そんな宗教観をも考えてしまうほど、空腹は最高のスパイスとなっていた。


「ご馳走さま!」


「御粗末っ‼︎」


ふー、食った、食った。

おっ、そろそろ学校に行く時間となっているぞ。

部屋で着替えてくるか。


俺は制服に着替えるため、部屋に向かおうとする。

しかし、その途中で大事なことを思い出し、母さんに向かって振り返る。


「そういえばなんで制服がボロボロだったのかはいいの?」


普通自分の子供が制服ボロボロにさせて帰ってきたら家族会議もんだ。


「あっ、いい、いい、思いっきりヘッドスライディングしたんでしょ?それなら、母さんは怒らないわ。でも、次からはきちんとユニフォームに着替えてからやるのよ?」

「・・あっ、はいっ。」


普通は家族会議だよね。

でも、うちの家族は残念なことに普通じゃない。

特に母さんが変なのだ。

父さんが常識人なので、母さんが変人で丁度いいのかも知れない。

とにかく母さんが変なのは、もう皆様薄々気付いていることと思う。

普通だったら息子のエロ本見つけたら、黙っとくか、注意くらいで終わらすだろ?

でも、ウチはエロ本の内容にまで入って話をしてくる。

それに母さんは俺の話した事を疑うってことを知らない。

昔、そういったことを父さんに相談したは、「母さんのそういった純粋で素直なところがとても愛しいんだ」と全力で惚気られた。

俺の中で、父さんはアテにならないという評価がついた。

おめでとう。


「そいじゃ、着替えてきます。」


母さんがそれでいいなら、俺は何も言うまい。

俺は部屋に戻り、制服に着替える。

着替え終わり、学校に行く前に。

何となく窓を見る。

窓の向こうに見えるお隣さんの窓のカーテンは閉まっていた。

よって、お隣さんの様子をうかがい知ることは出来なかった。

今日に限って。

そんな予感がする。

まあ、確率は6分の1くらいだ。

昨日の今日というのはあまりにも出来すぎている。

そんな訳はない。

杞憂だ。

そう思い、家を出る。



・・・・・。



家に入る。


『神様本当アテにならねー!!なんで、なんで、今日に限って那由他が俺と同じタイミングで家から出て来るんだよ!嫌がらせかっ!あれかっ?俺が悪いのか?すぐ返事しなかったのが駄目なのか!でもでも、あの時は気持ちの整理ができてなかったというか、心が追いついてなかったというか ー 』

「おはよう、水樹。一緒のタイミングで家を出るとは奇遇ね。」

「うおっ⁉︎」


びっくりしたってか近い!

いつの間にか、那由他は水樹の背後に立っていた。

チャイムやノックの音はしなかった。

不法侵入だ。



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