教訓その2
「・・致し方ない。お茶で腹膨らますか。」
水樹はペットボトルの蓋を開け、コップは使わず、そのまま器用に口を付けずにお茶を飲む。
「ふいー、寝ますかー。」
取り敢えずお腹の減り具合をお茶で誤魔化した水樹は、自室へ戻る。
そしてそのまま眠り、朝となる。
起きなさい。さもないと、お姉さんが君にイタズラしちゃうぞ♡
「うーん、駄目だよ、駄目だよお姉さん!!」
ガバッと跳ね起きる水樹。
頭の上にいつも通り置いてある、お尻型の目覚まし時計(美尻)をみる。
朝の7時。
なるほど。
どうやら、タイマーのおかげでいつも通りの時間に起きれられたようだ。
ちなみにこのお姉さんの声で優しく起こしてくれる美尻時計は、エロ本をいつも買っている行きつけのアダルトショップで衝動買いしてしまったものである。
無論、後悔はない。
ぐ〜〜。ぐ、ぐ〜〜。
ぐーぺこだ。
もういい加減腹が減った。
今すぐ朝食にありつきたい。
ありつきたいのだが!
水樹は階段を駆け下り、リビングへ、と思いきやリビングには入らず、洗面所に向かう。
そして、歯を磨く。
そう。水樹は意外にもいい子。
朝起きたらすぐに歯を磨き、虫歯にならないようきちんと予防している。
それが、前日の夜に歯磨きを怠ったのなら、なおさらだ、
「完璧!」
歯を磨きおわり、鏡で自分の歯の白さを確認し、満を持してリビングへ向かう。
成る程。
今日はベーコンのカリカリ焼きと、目玉焼き。それに、シーザーサラダと、このほのかに甘い匂いは、コシヒカリ!
ムムッ!味噌汁は白味噌のネギ入りか!
分かっている。
分かってらっしゃる。
そうそう、朝飯と言えばこのメニューですよね母上!
「おはようございます!メシをください!!」
いよいよご飯が食べられると思い、自然と声が大きくなる水樹。
さっきも言ったが、いい加減ぐーぺこなのだ。
それに、こんないい匂い嗅いだら、嗅がされたら、堪らなくなるってもんだ。
お腹もさっきから、五月蝿いくらいに鳴っている。
「・・水樹、ここに座りなさい。」
農家の朝は早い。
よって、水樹が起きてくる朝の7時には父親はすでに畑にでている。
しかし、今日は何故か母さんと隣合って座り、食卓についている。
こう言っちゃなんだが、なんだか異様だ。
隣合って座っているのもそうだが、二人の前に出されているご飯からは、湯気が出ておらず、長い時間そのまま手を付けずに置かれているようだった。
うん。異様だ。
「おう?どうしたの父さん?今日は腰でも痛い ー 」
「座りなさいっ!」
「えっ!あっ、はい!」
母さんがいきなり大声を出し、思わず素直に従い、二人の正面に腰掛ける。
一体、どうしたのだろうか?
一方は怒っているような、もう一方は戸惑っているような、微妙な顔をして。
もしかして、昨日ご飯も食べずに寝たことを諫めようとしているのかな?
それとも、風呂も入らずに寝たこと?
いや、どれも二人を、父さんに関しては、仕事時間を削るほどのことのとことは言えない。
はっ!!
渚との戦いで制服をボロボロにしたことかっ!
そうだ、そうに違いない!
あちゃー、やっちまったぜ!
昨日の内に上手い言い訳しとくんだった。
確かにあのボロボロさは只事ではないもんな。
下手すると、俺が虐められていると思わせてしまったかもしれない。
あぁ、そうに違いない。
だって、あの二人の顔を御覧よ?
なんと複雑な、珍妙な顔だ!
きっと、虐められた我が子にどんな言葉をかければいいんだと、戸惑っているに違いない。
これは、早いとこ誤解を解いたほうが良さそうだな。
さて、なんて言い訳するかな。