パンイチ紳士
「本当にとれたよ!それはもう派手に!片方は10メートルくらい吹っ飛んで、もう片方なんかはホームランレベルでぶっ飛んだぜ!」
思い出すと、あの六合の終とか言う剣、神が創ったとかブレイドさんが言ってたよな。
これ、あれだな、フラグだな。
「じゃ、なんで腕に傷痕とかが見当たらないの?こっちは心配して聞いてるんだから、真剣に答えなさい。」
シンパイ?
しんパイ?
もしかして、心配のこと?
な、那由他が俺のことを心配してるだとっ⁉︎
嘘だろっ⁉︎
今日はとんでもな日になりそうだぜ!
…あっ、もう既になってるか。
兎に角、これは異常事態、エマージェンシーだぜ!
今まで、鞭は貰ったことはあっても、飴は一つもくれなかった那由他が。
心配してるだと!
俺のことを!
なんだ!なにが目的なんだ!
なにを企んでやがる!
ちくしょう、勝手に身体が震えてきやがる!
《ごめん水樹、少しいいかな?》
先程まで、沈黙を決め込んでいた人見知りの制覇者ブレイドさんが、那由他に何か話があるらしく、表に出てくる。
「やぁ、お取込み中のところ、申し訳ない。僕はブレイド。君のことはリリーから聞いているよ、那由他さん。話の通りとても美人さんだね。」
不意にブレイドさんは跪く。
そこに何故か俯き、顔を見せないようにしながら片手を差し出す那由他。
その差し出された片手を、とても大切なものを扱うようにとり、手の甲にキスをするブレイドさん。
・・・パンイチだ。
《あの、ブレイドさん。身体が俺のまんまなんですけど。》
俺の口で那由他の手の甲に、キ、キッスだと!
ドクター!消毒液をジョッキでください!
「これは失礼した。」
ブレイドさんが急いで俺との融合を解き、霊体として身体の外にでる。
体の自由が戻ると、俺はいそいそと服を着る。
「それでは、改めてましてよろしく、那由他さん。」
今度は、ブレイドさん本人の身体で那由他の手の甲にキッスをプレゼントする。
俺は那由他の顔を見た。
どうせ、汚物を見るような目で見てるんだろうと。
しかし、予想は大きく外れていて。
那由他の目は顔の半分を占めるほど大きく、顔は少女マンガのヒロインのように煌めいていた。
もちろん背景は様々なお花でいっぱいだ。
「こ、こちらこそよろしくお願いしましょうか。」
今日は何かがおかしい。
那由他が、赤面してモジモジしているだと!
あの那由他が!
もう一度言おう。
あの那由他が!
クラスの大半の男子をことごとく振り倒し、百合疑惑まででたあの那由他が!
那由他に告ってない男子はホモだとまで言わせた(俺は告ってないぞ!もちろんホモでもないぞ!)あの那由他が!
給食でプリンが出た時は、クラスの男子に貢がせるあの那由他が!
貢いでくれた男子への御礼が、ビンタというあの那由他が!
こんな話がいくらでもある、あの那由他が!
乙女してるだとっ!!
照れているだとっ!!
俺は今日、チュパカブラを目撃しても、驚かない自信があるぜ!