給食のカレー
「自ら殺されにくるとは。熱心なことだね!」
ブレイドさんはタイミングを合わせて、袈裟斬り。
渚を仕留めにいく。
「強化系舐んなっ!!!」
渚は刀の射程圏内に入った瞬間、スピードのギアを変え、ブレイドさんが振り切る前に懐に潜り込む。
「はっ!」
拳を鳩尾に添え、体の内側を衝撃で攻撃。
見た所、チャイニーズ拳法の通背拳に近い。
というか、通背拳だな。
「ぐっ⁉︎」
その場で跪くブレイドさん。
攻撃の最中。
カウンターで貰った一撃。
渚の足元の地面にはものすごいひび割れ。
でも、ブレイドさんの体は一ミリも吹っ飛んでいない。
考えられるのは、地面がひび割れるほどの衝撃が全部体の内側を襲ったということ。
あっ、ゲロった。
「ぶぅうぇぇえぇ。
ぶぅうぇぇえぇ。
ぼぅえぇええぁ。」
三回に分けてゲロった。
俺の今日食べた給食が全部でた。
胃液の後にくるスパイシーな香り。
なんで給食のカレーはあんなに美味しいんだろうな。
ついつい食べすぎてしまう。
食事中の人はすいませんです。
「強化系だから遠距離攻撃はないという考えは正解よ。だけど、強化系は接近戦が得意なの。武器が無かったら無手でも闘う修行くらいしてるわ。」
うずくまって、嘔吐しているブレイドさんを見下ろす渚。
「げぅええぇええ。」
とまらない嘔吐。
吐けるのは殆ど吐き尽くし、今はなにも出ないけど、嗚咽が止まらないという感じだ。
そういえば、今更だけどブレイドさんの嘔吐シーンはキラキラ編集を施してますので、リアルに想像しないでください。ちゃんとキラキラさせてね。
ドカッ!
渚がトドメとばかりにブレイドさんの脇腹を蹴り上げる。
ブレイドさんの体は綺麗な弧を描きながら、グラウンドの端まで吹っ飛ぶ。
「グボゥア!」
吐血し、力なく横たわるブレイドさん。
今Aボタンで調べられたら、”返事がない。ただの屍のようだ”と表示されることだろう。
《ブレイドさん。今の内に回復魔法を》
「そ、そうだね、べ、ベホマ!」
効果は劇的だった。
さすが王道RPGだ。
さっきまで死に体だったブレイドさんは、何事もなかったかのように立ち上がる。
「回復魔法…。そうね、制覇者が攻撃魔法だけしか使えない訳ないか…。」
「オン!ハリバラダンソワカ!」
この呪文は、えーと、そうだ、あれだ!
幽体のブレイドさんを斬るために唱えたやつだ!
今度は薙刀の代わりに両手が光ってるな。
でも、幽体を斬るための呪文のはず。
ただのハッタリか、良くて少し攻撃力が上がる程度だろう。
と考えていたのだが、ブレイドさんの心は冷や汗ダラダラだ。
《もしかして、あれヤバいの?》
「ヤバいもなにも、あれで攻撃されたら、暫くは回復魔法でも回復できなくなるよ。」
《マジか⁉︎幽体じゃないのに危ないの?》
「あの攻撃は恐らく、幽体自体を攻撃する技だ。幽体と肉体は二つで一つ。表裏一体、とは少し違うけど、幽体が受けたダメージはそのまま肉体へと還る。そして、回復魔法で回復できるのは肉体のダメージだけ。つまり幽体自体を攻撃されてしまったら、いくら回復魔法で肉体を回復しても、幽体自体が回復しない限り、治ったそばからすぐにダメージが復元されてしまう。」
《なる程。これはあれだな、ピンチだな。》
だから、あの変態が降参って言ってた時に、闘いを終わっておけばよかったんだ。
手負いの獣は危険ってやつだ。
「水樹が六合の終を使えば一発なんだけど。」
《ダメだ!殺し反対は俺のマニフェストだ。変えることは出来ない。支持者が減ってしまう。》
そもそも居るのかそんな人?とか言わない!
「これでもかい?」
ブレイドさんが奥に引っ込む。
すると、当然ながら主導権が体の主である俺に渡される。
この状況で。
「ブレイドてめー!散々敵を煽っておいて、俺にパスとか大した漢気だな、おい!それでも、ちんこついてんのかっ!」
《やだなー水樹。そんなに僕のちんこがみたいのかい?だったら、この闘いに勝つことが出来たら見せてあげるよ。》
「なんで、お前のちんこが勝利報酬みたいになってんだよ!俺がお前のちんこ見たさにやる気だすと思ってんのか!お前の粗チンなんか見たくないんだよ!この、アホ魔王!」
《あっ、水樹、渚さんが来たよ(笑)》
「ブレイド、てめー後であの黒い剣で叩き斬ってやるから、逃げるんじゃあないぞ!」
渚が間も無く刀の射程圏内に入る。
俺が変態尼に勝つには、常に俺の間合いで闘うことだ。
奴は無手。
こっちは刀。
身体能力はほぼ互角・・・なはず。
だとしたら、落ち着いて闘えば、勝つのは俺の筈だ!