羞恥心
「…ねえ、坊や。あれ何とかできないのかい?」
「あんたこそ、その薙刀で真っ二つに出来ないのかよ?」
「ちょっとあのデカさは無理だねー。それに、込められている魔力が軽く私の魔力量を越えちゃってるから、斬りにいっても弾かれる可能性が高いね。」
「俺は魔力云々の前に、魔法はさっきのビームしか出来ないからなー。こうなったら果報は寝て待て作戦で行くか!」
「なんだい?その作戦は。」
ふっ!聞いて驚くな?
「どこか物陰に隠れて、あれをやり過ごすんだ!」
「……。」
余りの策士っぷりに言葉もでないか。
まあ、凡人なら仕方ないかな。
《いや、あんまりの愚策士っぷりに絶句してるだけだと思うよ。》
「はぁ?意味わかんねーし。絶対いい作戦だし。何言ってんの?ブレイドさん。」
《だって考えてもみてよ。あの大きさだよ?校舎よりもでっかいんだよ?しかもあのタイプは当たったら爆発するタイプだよ?物陰ごと消滅してしまうよ。」
「そうなのか⁉︎じゃ、どうすんだよ!後15秒もないぞ!」
《六合の終を使えば、あのボールを斬ることが出来るよ。》
あの触れただけで、腕が吹っ飛ぶツンデレ剣のことか。
「ブレイドさん。俺は二本しかない腕を3回も無くしたくはないよ。」
《あれは僕が触れたからだよ。正統の持ち主である、水樹が触れれば大丈夫さ!》
「そんなの信じられるわけ ー 」
「おいっ!坊や!やるなら早くしとくれ!もう時間が無いよっ!」
デスボール襲来まであと10秒。
「うぇあい!ヤケクソだ!やってやる!ブレイドさん!まずは何をすればいい?」
《あいよ!まずは六合の終を呼ぶんだ。あの剣は、呼べば主人の元へ転移する力を備えている。僕が始めに叫んだ台詞を大声で言うんだ!》
ブレイドさんが始めに叫んだ台詞。
あの中二臭い台詞をか?
確かに俺は設定では中二病を拗らせているよ。
拗らせているけど、流石にあの台詞には羞恥を覚える。
隣に変態尼僧もいることだし。
結論!
絶対嫌だ!
「ブレイドさん。ブレイドさんや。俺にあの台詞は言えないよ。激しい脳内葛藤の結果、あんな恥ずかしい台詞叫ぶくらいなら、死を選ぶことになったからね。」
《ここにきて、君は一体何を言ってるんだい!一丁前に恥ずかしがって!君はいつからそんなに意気地なしになったんだい!この負け犬!》
「だって ー 」
《だっても、明後日もあるかいっ‼︎今すぐ言うんだ!アンダースタン?》
「い、イエス。言えばいいんでしょ、言えば。」
ブレイドさんの気迫におされ、思わず了承してしまう水樹。
《大きなか声で言わなきゃ来ないからね。》
読者の皆様はどうか俺の痴態を見ないで下さい。
「いくぞ!世界の理から外れ、幾星霜の彼方よりその任を果たせし時を待ちし御神刀よ!主人たる我が命を聞き、その役目を果たせ!ここに顕現せよ!”六合の終”‼︎」
水樹がこっぱずかしい台詞を叫んだ瞬間、一瞬にして目の前に不可視の剣、六合の終が、その異様な姿を現わす。
《うわっ、本当に言ったよこの人。最近の中学生は羞恥心ってものがないのかね(笑)》
「ブレイド!てめー‼︎嵌めやがったな!今すぐ俺の中から出てきやがれ!ぶん殴ってやるっ!」
《ぷふふ、そ、そんなことより、あはは、早くあのボールを斬らないと死んじゃうよ。ぶはは!》
デスボールはもう着陸態勢に入っている。
「おぼえてろよ!」
水樹は恐る恐る剣に触れようとしたが、恐る恐るをやる時間もない。
よって、ついさっき騙されたばかりのブレイドさんの言葉を信じ、思いきって剣を握る。
その瞬間、水樹は理解した。
なぜこの剣が主を選ぶのかを。
《水樹!》
「ああ、分かってるさ。」
妙に落ち着いた声。
水樹はデスボールに向かって駆け出し、飛ぶ。
「シッ!」
そして、一振り。
それだけで。
それだけで、さっきまで空の大部分を占領していたボールが消えた。
いや、ボールどころではない。
ボールの後ろに漂っていただろう雲も。
消えていた。
空が不自然な模様をしているのが、その証拠。
その光景は余りにも。
不自然。
歪。
超然。
《…水樹?大丈夫かい?》
「あ、ああ、大丈夫だよ。なんで?」
《いや、大丈夫ならいいんだ。まだ大丈夫なら。》
「なんだよ、その含みのある言い方はって⁉︎嘘だろっ⁉︎」
たまげただ!オラ空飛んじまってるだ!
「俺、飛んでる…」
《うん。やっぱり水樹は主人公のようだね。教えてもないのに空を飛んじゃうんだから。しかも、難易度の高い概念飛行で。》
なんだ、このこそばゆい感じ。
褒めて!俺をもっと褒めてくれ!
褒めると伸びるタイプなんです。
「そんなの、俺レベルになると軽いよね。軽井沢だよね。」
水樹は照れ隠しに、俺イズムを発動させる。
この照れ屋さんめ。
《すぐ調子に乗るよね、水樹は。でも》
「分かってる。さて、危機は去ったし、後は。」
下にいる渚のほうなの首を巡らす。
続きを始めるつもりで。
しかし、
「降参。降参よ。」
薙刀を置き、両手を挙げて、戦意のないことをアピールする渚。
「降参?今確かに降参と言ったか?」
そんな訳ないよな?
だってさっきまで間違いなく、攻勢だったし。
「えぇ、降参よ。あんなの見せられたら流石にね。
私は確かに組織の人間だけど、それは何もあの方の考えに陶酔したからではないの。ただ私は組織に入れば滾るような、濡らしてくれるような相手と戦えると思ったから入っただけ。でも闘うって命あってのことでしょ?だから降参するの。」
ということは俺の勝ち?
デビュー戦を見事白星?
なはなはは!やった!やったぞ!
《いや、まだだよ。》