シュトゥルム・ウント・ドラング
「ふんっ!どうせ時が止まってた時に、作者にでも頼んで出来るようにしてもらったんでしょ?」
むむ、告げ口したなナレーションの野郎。
「そ、そ、それはどうかな〜。あはは。」
「まぁ、そんなことはどうでもいい。魔法が使えるなら、それを考慮して闘えばいいだけだし。」
渚が薙刀を下段に構える。
「構えなさい!」
またしても渚が視界から消える。
気付けば目の前。
剣先で地面を抉りながら下段からの斬撃を繰り出す。
さっきはこの攻撃で腕を持っていかれたが、今度は辛うじて反応。
この日本刀よく折れないなと感心しつつ、斬撃を受け止める。
しかし、渚は一撃では止まらない。
受けられたと見るや、その勢いのまま回転。
恐ろしい勢いで、胴を狙う。
その攻撃を水樹はバックステップでなんとか躱す。
ここで台詞を入れようとしたが、渚の攻撃は流れるように続く。
水樹も語り部の役目を忘れ、何度も渚相手に斬り結ぶ。
一合。
二合。
三合。
四合。
渚の方が圧倒的有利。
水樹は所々斬り傷を負いながらも、辛うじて致命傷は負っていないという状況だ。
このままではいずれ押し切られてしまう。
なにか、なにか、流れを変える何かはないのか!
水樹は必死に頭を巡らせ、考えていた。
だが、良い案は浮かばない。
しかし、気付く。
ん?太陽なんて出てたっけ?
それにこんなに黒かったっけ?
現在午後7時すぎ。
季節は春。
はい。とっくに日は落ちてる時間帯です。
ということは?
「おいっ!後ろ見てみろ!なんかやべーぞ!」
「あんた、バカ?見え見えの嘘、しかもとびきり雑な嘘に引っかかると思ってんのかい!」
薙刀の石突きで思いっきり腹を突かれ、本日何度目か分からないが、吹っ飛ぶ。
しかし、水樹はもはや吹っ飛びのプロ。
突かれた瞬間、自ら後ろに飛び、ダメージを減らす。
だが、
渚の追撃からの猛攻は続く。
シュトゥルム・ウント・ドラング。
疾風迅雷。
それでいて、舞のように美しい。
水の如く流れる様な攻撃は間断無く、受ける側は防御で手一杯となる。
「いやいや、闘ってる場合じゃないって!黒い太陽が落ちてきてるよ!この目を見て!信じてよ!」
水樹の目とは思えない、曇りなき瞳。
その目は切実に恐怖を訴えている。
そして、何よりさっきから急に暗くなった。
「…これは死んだ。間違いなく死んだ。」
水樹の曇りなき眼を信じ、後ろを振り向く。
・・・渚は落ちてくる黒い太陽(さっきルシファールが投げ捨てたデスボール)を見て、死を悟った。
そう!
さっきルシファールが適当に投げ捨てたデスボールは、水樹達のいるグラウンドに向かって飛んできていたのだ!
「確かにこれはダメだな…」
なんだよこのデスボールは!
どっから飛んで来やがった!
俺に恨みでもあんのか、コンチクショー!
これでもし生き残れたら、絶対復讐してやる!
まぁこの方角からして、那由他絡みなのは間違いない。
そうですよね?ナレーションさん。
はい!その通りです!
やはりな。全部あの女が悪い。
靴裏で頭を踏まれたことも、もちろん忘れてはいない。
この恨み、はらさでおくべきか。