御命頂戴っ‼︎
まだか。
心臓が早鐘のように打つ。
手がにわかに汗ばむ。
腕を斬られた痛みが脳にフラッシュバックする。
もちろん、その痛みは幻覚だ。
しかし、ビビらずにはいられない。
相手は魔力で強化された、俺の目にも見えない速さで動く。
ブレイドさんには見えていたみたいだけど。俺にはいきなり攻撃が来たようにしか見えなかった、
やれるのか?俺に。
失敗したら、今度こそ。
殺される。
恐い、怖い。
震える剣先。
震源は俺の手だ。
情けない、とは思わない。
だって、俺はまだ中学生だ。
いきなり殺されかけ、人を殺せと言われてやれる訳がない。そんな環境で育っていない。
正直言って、キツいっ!
《水樹!恐いのは分かる。言葉だけではなくね。なんせ精神的に繋がっているから。でも、やれるよ!水樹なら!なんたって、君は ー 》
違和感。
この違和感はもう馴染みすらある。
魔法が解けた合図。
止まっていた時が、空間が、動き始める。
今までと違わぬ速度で。
にしても、何時もこの魔法いいとこで効果切れるよな。
話の腰を折るっていうか。
「っ⁉︎またなのっ!」
ペットボトルロケットさながらの勢いで俺がさっきまでいた位置に突っ込む渚。
もちろん、俺は移動した後。
渚の薙刀での突きは虚しく空を斬る。
「いくぞ、ブレイドさん!」
《僕も出来るだけサポートするから、思い切りいって!》
渚は後数秒で着地する。
…3
…2
…1
「今だっ!」
足に力を込める。
タイミングはドンピシャ。
水樹は今だかつて味わったことのない加速感を感じながら、着地体勢をとっている無防備な渚に斬りかかる。
「覚悟っ‼︎」
律儀にも攻撃の合図をする水樹。
恐らく最近観た時代劇の影響だろう。
「汚なっ⁉︎」
寸でのところで渚が反応する。
薙刀の柄で水樹の斬撃をガード。
しかし、着地の瞬間を狙われたため、踏ん張りが利かず、体育館の屋根上からグラウンドまで吹っ飛ぶ。
「くそっ!あのガキ汚ないことしやがって!お天道様はいつも見てるんだぞっ⁉︎」
体勢を立て直そうと、立ち上がりかけたところに水樹の追撃がくる。
「御命頂戴っ‼︎」
体育館屋根から渚に向かって一直線に跳ぶ水樹。
さっきまでビビりまくっていたくせに、いざ本番になると逆に動けるタイプらしい。
「こっちは何度も時間止められて時差ボケしてるのよっ!」
渚も今度は吹き飛ばず、吹き飛ぶどころか、地に根をはったが如く、軽々と水樹の突進を受け止める。
「なにっ⁉︎」
流石に受け止められるとは思ってなかった。
あんなにスピードだして突っ込んだのに。
どんだけムキムキなんだこのハゲ尼は。
…ここからどうしよう?
勢いで突っ込んだはいいけど、斬り合いなんて俺に出来るのか?
剣さばきなんて、時代劇の殺陣くらいでしか観たことないぞ。
「やっとヤル気になったの?だったら、愉しませてもらうわっ!」
薙刀を横に振り、水樹の体ごと吹っ飛ばす。
そして、すぐさま水樹を追撃。
普通はあり得ないことだが、高速で迫りながら、空中で縦回転。
推進力と遠心力の両方を乗せた一撃を繰り出す。
「さぁ!受け止めてみせて!」
この時水樹は思った。
これは仮に受け止められたとしても、地面に埋まるなと。
となると、避けるしかないなと。
あっ!でも俺今吹っ飛んでる最中だ!
「どどんっ‼︎」
水樹は咄嗟の判断で渚に向かって魔法を放つ。
すでに攻撃モーションに入っていた渚は避けようがなく直撃。
しかし、水樹の魔法は大した威力はない。
勢いが少し削がれたが、攻撃はそのまま水樹に向かう。
水樹は空中で魔法を放つことで、かめはめ波のように少し空を飛ぶ(反動で)ことを期待していたが、水樹の貧弱な魔法ではそれまでには至らず、モロに渚の攻撃を受けることとなった。
「あがっ‼︎」
「なんでっ‼︎」
水樹は攻撃を受けた反動でバウンドしながらさらに吹っ飛ぶ。
渚も殆どダメージはないが、魔法を受けたため念のため様子を見る。
「あんた!さっき魔法は使えないって言ってなかった?この腐れ嘘つきん玉野郎!」
「ま、まぁ、俺レベルになると、闘いの最中に成長しちゃうのよ。」
なぁ、一つみんなに教えて欲しいんだけども、腐れ嘘つきん玉野郎って年齢制限的にセーフなのかな?
それとも倫理的にアウト?
・・アウトだよねー。




