夢は奴隷
「ふぅ〜。」
「は〜。」
「あ〜。」
「おえっっ⁈」
「なによ。そんなに落ち込んでもムチはあげないわよ?」
「なんで俺にM属性をつけようとする⁉」
ぜひ、アメを、いや、自由を下さい!
「折角、私専属奴隷になったってのに、景気の悪い顔して。もっと喜びなさい。小学校からの夢だったのでしょ?」
「そんな邪まな煩悩まみれの小学生いたら、即刻仏教に強制入門だわ‼」
今は学校からの帰り道。
あの後暫らく固まっていたのだが、那由他の往復ビンタで現実に帰ってきた。(出来れば、帰ってきたくなかったが)
そして、帰ってきた直後に、見回りの警備員の人にせっつかれて、嫌々ながら那由他と二人連れ立って帰路についてるというわけだ。(いつの間にか、完全下校時間の19時になっていたらしい。)
「別に照れなくてもいいのよ。・・・全部、分かってるから。」
「むやみに変な間を開けんじゃねー!皆様に変な誤解を生むだろうが!」
「皆様って、私と一匹以外誰もいないわよ?」
「こっちの話だ、気にするな。それと、せめて俺を人間扱いしろ!」
念のため皆様が変な誤解をしないように言っときますけど、俺の小学校からの夢は那由他専属奴隷じゃないし、M属性も無いですよ。俺の小学校からの夢は那由他専属奴隷じゃないし、M属性も無いですよ。大事なことなので二回言いました。
「まぁいいわよ。あんたが変なこと言うのは前からだし。」
「おい。そのことはいいとして、返事をもらってないぞ?」
「なんのこと?」
「惚けるな!人間扱いするかどうかの返事だよ!」
「あー、そのことね。そんなこと、どうでもいいじゃない。」
「成り行きとはいえ、これから一週間お前の奴隷になっちまった俺からしたら大事なことなんだよ!モチベーションに関わる。」
よし!さりげなく奴隷の期間を決めてやったぜ。先手を打たないと、あいつの場合末代までとか言いだしそうだしな。
「・・・分かった。そこまで言うなら人間扱いするわ。」
「感謝の極み‼」
やったー‼人間だー‼・・・ってあれ?なんか違うぞ。なんで人間扱いされただけで、"感謝の極み"とか言ってんだ俺?危ない、危ない、少しでも気を抜くと飼いならされちまうな。
「その代わり、期限は一ヶ月よ。」
「ふぇっ⁉」
「当たり前でしょ?あんた、いとなまめいたる私のおパンティスを見ておいて、バックアップまでとっておいて一週間はいくらなんでも虫が良すぎるんじゃなくて?」
確かにそうかもしれないな・・・。ん?
「確かに俺はお前のおパンティスを見てしまったかも知れないが、あれはお前が勝手に見せたんだろ?不可抗力だ!それにお前はそこまでなまめいてないぞ?」
「・・・そう。そういうこと言うの?分かった。分かりました。承知しました。あんたがそうくるなら仕方ない。出すとこを出しましょう。」
「・・・・・・。」
出すとこを出す?嫌な予感しかしないな・・・。
「よし。」
そう言って、那由他は赤のリボンを外し、夏服の第一ボタンからやおら外し始める。
(よし、じゃねーよ!マジか⁉完全に常軌を逸してやがる。なにしてんだよコイツ⁉さすがの壇蜜さんでもやらねーぞ⁉)
「いきなり、脱ぎだすんじゃねー‼」
そう。道でいきなり脱ぎだすのは、脱ぎだしていいのは、江頭2:50さんか変質者ぐらいである。
「だって、おパンティスだけじゃ不服なんでしょ?そしたら、必然的に全部見せて完全に服従させるしかないじゃない。」
「どうやったら、そういう考えに至るんだ?そういう考えにしか至らなくなるんだ?お前、そのまま大人になっちまうと、"人間国害"という新しい不名誉極まりない称号もらっちまうぞ⁉」
「あら、それは重畳ね。ワシントン条約かなんかで保護してもらえるのかしら?今から楽しみだわ。」
恐ろしい奴だな。くわばら、くわばら。ここが、車は通らない小路で俺たち以外誰もいないからいいものの(いいのか?)万が一誰かが見たら、捕まるのってどっちかって言うと俺だよな?(多分、この状況、他からみたら主従関係あきらかに逆だもんな。)
プチッ、プチッ。
「ふー、そろそろやめろよな。早くボタンを留めろ。」
「・・・・・・。」
プチッ、プチッ。
「おい、無視して、黙々とボタンを外す
のではない。」
「・・・・・・。」
プチッ。プチッ。今ちょうど那由他はすべてのボタンを外し終えた。ここまでくると、夏服の下から着けていたブ、ブ、ブラ、ブラジャ、ブラジャーが‼ブラジャーがー‼
見えない。今日が夏真っ盛りならともかく、今は新学期始まって一ヶ月。まだ少し肌寒く、中からインナーを着けていた。着けていやがった。しかし、このままだとすぐにでもインナーを脱ぐだろうが。
「あのー、那由他さん。那由他さーん。そろそろ本気でヤバイですよー。」
さすがにねー。
「・・・さっきから煩いわよ。私の許可なく視界に入ってこないでくれる?命令よ。」
夏服を、郷ひろみよろしく半分脱ぎかけながら、気だるそうに言う那由他。キマっている。
「はい、御主人様。この水樹、全力で従わせて頂きます。」
と言い、視界に入らないために走りだす俺。
ヤッホー!
バカめ!この状況でこんな命令をするなんて!なんて僥倖!と思いながら、駆けていると、
「キャーー‼誰か助けてー!変質者よ〜(笑)」
あれ?おかしいな。後ろからなんとも楽しい声が聞こえるよ。
ウソだろっ⁉なにが、カッコ笑いだ‼常軌を逸した遊びも大概にしやがれ。下手したら、俺の人生、振り出しどころじゃすまねーぞ⁉
「ちょっと那由他様、どうかお静かに。お静かにー!」
急いで那由他の元に戻り、土下座の姿勢をとる。へへ〜である。
「あら、どうして戻ってきたのかしら?私の命令が聞こえなかったの?」
俺の頭を靴で踏みながら、わざとらしく訊いてくる那由他。今まで感じたことのない屈辱感に耐えながらも、どうにか返答する。
「・・・すいません。始めは命令通りに消えようとしましたが・・・奴隷たるもの主人に付き従うものだと思い直し、その許しを貰いに戻った次第で御座います。」
(絶対に後で泣かす。いや、もうそれだけじゃ済まさねー。俺と同程度の屈辱感を、恥辱感を味合わせてやる。じっくりとな〜)
「ふーん、そうなんだ。じゃー完全服従ってことでオッケー?」
「もちのろんで御座います!」
「・・・そう。分かってもらえてよかったわ。」
そう言って、郷ひろみの様にバッっと半分脱ぎかけていた夏服を着る那由他。どうやら、少なからず郷ひろみを意識していたらしい。
んっ⁉今頭少し上げたらパンツ見えるんじゃね?
「ちなみに、今少しでも動いたらアーチーチーだけじゃ済まないわよ?」
足はそのまま頭に乗せ、ボタンを留めながら、なんの感情も感じさせない口調で言う那由他。怖すぎる。
「はい。動きません。」
今は堪えろ。堪えるんだ俺。
「いい子ね。」
そう言って一回グッと踏み付け、つけなくてもいい勢いをつけ、足を頭から下ろす。その時もちろん、俺の額はアスファルトとハードに喧嘩し負けている。俺、なんでこんなことになってんだろ?もうお家に帰りたい。帰って早く眠りたい。
「話しは変わるんだけどさ、そういえば静かじゃね?」
土下座の姿勢を解きながら、疑問に思っていたことを口にする(露骨にフラグ設置完了!)。
いくら完全下校時間だからと言って、俺たち以外誰もいないのはおかしい。おかしいよね。部活終わりの人は今が帰宅時間のはずである。それなのに誰もいない。それどころか、なにも聞こえない。
聞こえるのは俺たちの声だけ。そういえば、ここは小路だが、住宅街。路の左右は大小様々な家が並んでいる。何時もなら五月蝿い程に団欒した声が聞こえるはずである。しかし、今は聞こえないし、明かりすら点いていない。
どう考えても異常だ。
「確かに静かね。ここまで静かだと、私たち以外は時間が止まっているみたい。」
なんとも那由他らしくない、ロマンチックな台詞である。ゲロ、ゲロ。
「あながち間違えてはおらんぞ。しかし、正しくはお前たちと、我々以外だが。」