主人公補正
( 念のため説明すると、この話は水樹と渚の闘いの続きです。)
《これでラストだよ!》
また、
三たび、
時が、
空間が止まる。
停止する。
凍りつく。
「今のは危なかった〜。」
渚の刃は俺の制服を斬り、後数ミリで身体に届くところまで迫っていた。
…闘いの途中で余所見をするのはやめよう。
《全く、余所見なんて余裕があるんですね、水樹さん》
「悪い、本当に助かったよ。でも見るだろ!いきなりビームが飛んできたら。」
ビームだぜ!ビーム!
《そんなにビームが珍しいのかい?》
「珍しいどころの話じゃないぜよ!ビームは男の夢。男のロマン。男なら誰しも一回は思うものさ。かめはめ波が撃ちたいと!」
ビームと言ったらかめはめ波。
スペシウム光線も可。
《ふ〜ん、撃ってみる?》
着地した後、
男の夢といえばおっぱいでしょ!
ふ〜ん、触ってみる?
みたいなノリで、なんでもないという口調で、俺にしてみれば宝くじが当たるより嬉しい提案をしてくるブレイドさん。
いや、ブレイド様。
「マジで!俺も撃てるの?」
ヤバい!
口元がだらしなく歪んでいるのが分かる。
ニヤニヤが止まらない!
《そのはずだよ。今僕と水樹は精神的に一つだ。だから、僕が一回水樹の体でやった技は、威力まではそのまんまではないかも知れないけど、出来るはずだよ。》
そうなのかっ!仕組みとかこの際どうでもいい。そんなもの設定公開のページにでも書いときな!
それより今は、
「それなら、是非ビームを撃ってくれ!そして、撃たせてくれ!」
俺の心はビームでいっぱい、おっぱいだ。ワクワクが止まらん。堪らん。
俺は舞空術よりかめはめ波タイプだったからな。
染み染み思う。魔法っていいな。
《合点承知!はあっ‼︎》
ブレイドさんが手の平を空に向け、ビームを放つ。
ブレイドさんが放ったビームは、遥か上空に漂っていた雲に当たって消える。
「うおぉー‼︎ビームが俺の手からでたー!」
お母さん、俺、夢が叶ったよ。
男、近藤水樹は遂に、かめはめ波を撃てるようになりました。
こんなに立派に育ててくれてありがとう。
あれ?
何言ってんだろ?
興奮しすぎて、意味不明なこと言ってたな。
反省、反省。
《次は自分で撃ってみなよ。》
そう言うとブレイドさんが引っ込む。
すると、口だけでなく、身体全ての支配権が水樹に帰ってくる。
実は少しだけ、身体を支配されていたことに恐怖していた小心者の水樹は、無事支配権が戻ってきたことに安堵していた。
「いくぜー!おりゃー!」
手の平をブレイドさんと同じように空に向け、気合いを入れる水樹。
・・・。
「はぁぁあ!」
・・・・・・。
「そりぁ!ていっ!やっ!えいしゃらー!」
・・・・・・。
《…出ないね。》
何故だ!何故出ない!
ブレイドさんの説明では俺もビームを撃てるはずだ!
それなのに何故出ないんだ!
何が悪い?気合いが足りないのか?
そうだ!そうに違いない!
「はりゃりゃ!うおうっ!あちょー!
スイッ!アッティ!」
出ない。
やはり出ない。
前の話で、那由他は容易く使って見せたというのにっ‼︎
あの女に出来て、俺に出来ないはずがない!
そうだろう!ナレーションさん!
いいや、作者様っ!
【全く、直接ナレーションに話しかけるんじゃないよ、水樹君。君は一応、今のところ主人公なのだから、節度と礼節を持った正しい行動を心掛けて貰わないと困るよ。でも、でもだよ?今回だけは?特別スペシャルに君の設定の一つであった、魔法を使えないという設定を消してあげよう!君には最強の武器である六合の終を持たせているから、魔法まで使えたらチート過ぎると思っていたけど、主人公直々のお願いだ。叶えてあげるが、作者の務めというものだろう。
…別に様付けされたらからでは無いよ。こういうのは今後は無いと思ってくれよ。】
「ありがとう、ナレーションさん!後で俺のとっておきのエロ本を貸すぜっ!」
水樹は斜め上の空に向かってサムズアップ。
きっと彼の目には禿げたナレーションの顔が見えるのだろう。
ナレーション曰く、
「禿げではない、禿げかけているだけだ!」
閑話休題。
「よしっ!気を取り直しまして、はあぁ!」
今度は出た。
ブレイドさんが放ったものの半分程の威力ではあったが、確かに出た。
そのビームは未だ中空で停止している渚に当たって消える。
《やっと出たね、水樹。このまま魔法無しで戦うのかと思っていたけど、まさか、設定の壁を壊すとはねー。さすがは主人公って感じだね。》
「まぁな。俺はどんなに困難な壁をも乗り越える力を持っているからな。俗に言う主人公補正って力をな!」
またはご都合主義。
《これで、あの尼僧とも闘えるね。》
「へっ?」
《だって、魔法使えたでしょ?いける!いける!》
「ちょっと待ってよ!まだいきなり貰ったブレイドさんの力を持て余してるのに、あんなハゲ尼と闘えるわけないじゃん!今回はブレイドさんが闘ってよ!今度までに力を使いこなせるよう練習しとくからさ。」
《…実は言い忘れていたけど、今はまだ、この世界に僕は馴染んでいないんだ。体はまだ向こう側だしね。だから、あんまり僕がこの世界でドンチャンすると、色んな事に影響を及ぼしかねない。制覇者である僕が及ぼす影響はこの世界のバランスを壊すレベルだ。よってなるべくは水樹、君が戦ってほしいんだ。》
「なんか世界とか言われてもね〜。そもそも俺にはブレイドさんが制覇者、だっけ?世界を征服することを生業にしてるってことが眉ツバっていうか。信じられないっていうか。そんなこと言って、本当は闘いたくないだけじゃないの?」
水樹はものすごく嫌味ったらしくブレイドさんにつっかかる。
何故なら水樹は闘いたくないからだ。
完全に渚に対してビビっているからだ。
ちょっとナレーションさん、そのナレーション酷くない?足の腱を斬られ、腕も斬られた相手と闘えって言われたら誰でも嫌でしょ?ビビるでしょ?
《こればっかりは信じてもらうしかない。証拠を見せるということは、この世界を滅ぼすということになってしまうからね。でも、僕が及ぼす影響なら簡単に証明できるよ。なんせ、一番影響を受けるのは僕と一番近い君だからね。》
ブレイドさんが急に表に出てくる。
「どうだい水樹?身体の支配権を僕から奪えそうかい?」
そんなの俺の身体なんだ。
当たり前だろ。
《・・・っ⁉︎あれっ⁉︎奪えないっ⁉︎》
「そう。これが影響の一部さ。僕は渚の説明通り、君を介してこの世界に来ている。いや、介入している。そして、僕の力は余りに強大だ。そんな僕と直接繋がっている君はどうなると思う?モロに影響を受けている君はどうなると思う?」
ここで一旦言葉を切るブレイドさん。
水樹の返答を待つ。
《ど、どうなるんだよ?》
喉を鳴らし、唾を飲み込む。
恐い。
本当に身体を支配されちまってる。
どうやっても奪い返せない。
なんでこんな事をするんだ?
さっきまでは仲良くやっていたじゃないか。
楽しくやっていたじゃないか。
まさか⁉︎
渚が言っていた、”世界を滅ぼす予言”ってマジでブレイドさんのことだったのか⁉︎
俺の身体を乗っ取って。
世界を滅ぼす。
だから俺にした?
最初からこれが目的。
乗っ取れそうな器を探し、世界を滅ぼす。
制覇者。
世界征服。
ワールドブレイク。
「・・・直ぐにどうこうってことはないよ。びっくりした?」
急にトーンが明るくなり、さっきまでの深刻な雰囲気は影を潜める。
《へっ?》
「いや、余りにも水樹がビビってるからね。少しからかいたくなったのさ。身体を奪い返せないのは、僕の影響というよりは、君の魂の影響だよ。さっきまで僕が身体の主導権を握っていただろ?だから一時的に君の魂より、君の身体と結び付きが強くなったのさ。」
《…本当かい?》
「もちろん本当だよ。でも、余りにも自分の身体と魂とが離れすぎてしまうと、結び付きはどんどん緩くなってしまう。最悪、死ぬことになるね。
よく聞くだろ?生霊とか、身体は生きてるけど、意識がない人とか。そんな人達は魂が身体から離れてしまった人達なんだ。原因は人それぞれだけどね。
だから、あんまり僕が水樹の身体を使うのは良くないんだ。僕にとっても、水樹にとってもね。」
なるほど。
さっきのは俺をびっくりさせるための冗談でしたと。
・・本当か?
本当に冗談か?
渚は言っていた。
ブレイドさんはこの世界を破壊すると。
それは遥か昔から予言されていたと。
殺されかけたから渚を敵と見なし、闘っている。
闘ってはいるが、どっちを信じればいい?
ブレイドさんか?渚か?
…分からん。
今は情報が少なすぎる。
それにかなりの部分が真実かも、あやふやだ。
今はこの疑問は胸の内にしまっておこう。
情報が揃うまで。
それまでは、ブレイドさんを信じよう。
《全くとんだトリックボーイだよ、ブレイドさん。分かった。恐いけど、なるべくは自分で闘うよ。生霊になるのは嫌だしね。でも、なんでブレイドさんにとっても良くないことなんだ?俺の身体で闘うのは?》
「それは、僕の魂が君の身体と結び付きが強くなってしまうからさ。君の魂が身体との結び付きが弱くなり、生霊となる可能性があるように、僕にも君の身体と結び付きが強くなりすぎて、元の身体に戻れなくなるかもしれないというリスクがあるんだよ。」
《なるほどね。それは恐いなー。》
今の言葉は本当みたいだ。
安心、した。
「そろそろ魔法の効果が切れるよ。準備はいい?」
ブレイドさんが今度はちゃんと引っ込んで、水樹に身体の主導権を返す。
《相手はまだ中空だ。まずは着地した瞬間を狙ってみて。》
「了解!」
先ほどブレイドさんが出した刀を両手で持ち、
構え、
その時を待つ。