可愛さ余って憎さ百倍
「…あぁ!その魔法はっ‼︎その魔法は理論上は可能だが、必要とされる魔力量が天文学的数字になるため、机上の空論とされていた、法級8の魔法…。」
神父さん本当に助かるわ。
慄きながらも、解説してくれるんだもの。
「ん?この魔法そんなに魔力使わないよ。法級も7くらいだし。」
「そ、そんな、バカな!召喚対象の乗っ取りだぞ!しかも、二重召喚の!途方もないほど繊細な魔力操作と、超高度の術式解析技術が必要なはずだ。いくら、キュアリリーといえども不可能とまでは言わないが、そうやすやすと使用できる魔法ではないはずだ!」
…まだキュアリリーって言わせてるわよ、この作者。
いっそのことその頭に生えてる雑草綺麗に抜いて、他に栄養回したほうがいいんじゃないかしら?
「確かに、やすやすとは出来ないよ。魔力操作とかコツが必要だしね。それに魔法の知識も。でも、1億年くらい練習したし、勉強もしたからもうバッチリ‼︎」
あら?聞き間違いかしら?
1億年とか聞こえたわ。
きっと聞き間違いね。
それか書き間違い。
もう、マーベラスハゲ作者しっかりしてよね!
リリーの年齢設定がバグってるじゃない。
「・・・・・・。」
「それに、この魔法はちょっと術式弄ってるから、オリジナルのとはちと違うんだよね。」
完全な乗っ取りではなく、元の召喚師に依存してるとことかね。
「……すまない、一億年も練習しているという言葉に意識を刈られて、聞いていなかった。もう一度、言ってくれないか?」
やっぱ驚くわよね!1億年ってw
本当タイピングミスもいいとこよね。
これじゃ、リリーが少なくとも1億歳以上ってことになるわ。
あんなに綺麗な肌した1億歳が居てたまるもんですか。
「一億年のとこ?」
「違う!そこはもう納得した。その後だ。」
納得したってマジか⁉︎
どんどけ清濁併せ飲むんだよ!
普通目の前にいきなり1億歳ですって人が現れたら、できるだけ刺激しないよう細心の注意を払いつつ、カウンセラーを紹介でしょうよ!
「それに、この魔法はちょっと術式弄ってるから、オリジナ」
「それだ!魔法は術式を弄れるものではない。魔法の術式は、神が創ったとしか思えないような緻密な計算の中で作られたものだからだ。それこそ、少しでも弄れば魔法の顕現すら叶わなくなる。少なくとも、私が読んできた本にはその様に記述されていたし、実際に魔法術式の改竄など見たことがない。しかし、貴女は弄れると言う。まさか、術式構成を完全理解したということか⁉︎」
「まぁね。これくらいできないとあの人の側には居られないからねー。愛の力ってやつ?」
…もう着いていけないわ。
術式がどうとか、愛の力がなんとか、一億年がかんとか。
「あの人?あの人とはもしかして少年と一緒に異界からでてきた男のことか?」
「多分、合ってる。今は向こうの方で闘っているみたい。」
そう言って学校のほうを指差すリリー。
水樹は学校にいるのね。
「何故貴女程の力の持ち主があの程度の男と共に行動しているのだ?」
数秒の沈黙。
「…あの程度の?」
今までのリリーとは思えないような、低い声。
急に下がった気温。
リリーにひっついて離れなかったルシファールが、2人と距離を置きはじめる。
それとは逆に、リリーと神父さんの距離は近づく。
しかし、神父さんはリリーの変化に気づかない。
「そうだ。先程実際に会ったが、貴女と同レベルとはとても思えなかった。確かに時空間魔法や異空間転移魔法は高度な魔法だが、私もやろうと思えばできるレベルだ。とても貴女に匹敵する力とは言えまい。」
そうなの?
実際に見たことないけど、私には時空間魔法とか、異空間転移魔法とかの方が、すごいと感じるわ。
響き的に。
「・・・・・・。」
さらに下がる気温。
胸の中を駆け回るドス黒い感情。
殺意、不愉快、憤怒。
「それで提案なのだが、ここは一旦休戦にして、私を貴女の弟子にしてはくれないか?私は魔法の探究者を自負している。是非、貴女の魔法解析技術を教えて欲しい!もちろん、あの男より役に立つ自身はある。私には ー 」
神父さんのセリフは今ので最後になる。(正確にはまともなセリフ)
何故なら、
「あなた、楽には死ねないから。」
というリリーの聞いた人の、心臓が凍るような台詞の後に放たれる、キュアパンチによって、顔面が潰れるからだ。
「ぐわぁーーーぁあっ!!」
神父さんは、思わず気の毒になる程に悲痛の声をあげる。
痛そうね。
「このゴミめ!よくも!よくも私のブレイド様を侮辱したなっ!死ねっ!死ねっ!」
胸ぐら掴んでボッコボコ。
もう神父さんは声もあげない。
そろそろ止めないとかしら?
「あの御方は、お前如き虫ケラが、馬鹿にしていい存在ではない!何も知らないクズのくせにっ!」
もう、顔かどうかの判別も難しいほどにボッコボコである。
余りのボッコボコさにルシファールも少し引いている。
あれっ?ヤバくない?
「死ねっ!死ねっ!死ぬの!死になさい!頑張って死になさいっ!ほら、ほら、応援してあげるっ!手伝ってあげるっ!」
いやいや、もう首が据わってないから!
そろそろ止めないと本当に死ぬから!
《リリー!そろそろ止めないと本当に死ぬわよ!もう変わりなさい!》
「あはっ!あはははっ!ほら、がんばれ!がんばれ!」
返り血が飛ぶ。
手は既に真紅に染まっている。
リリーから伝わってくる感情が、痛い。
…声が、届かない。
《リリー!リリー!やめなさいっ!何も殺すことないでしょ!ルーシーもドン引きしてるわよっ!》
「きゃはっ!あはっ!楽しくなってきた!」
神父さんの体が痙攣している。
口から出る血が鮮やかな赤から、深い赤へと変わる。
私、中学生で人を殺すことになるの?
嘘でしょ?
魔法は楽しかった。
殺されかけたけど。
でも、それ以上に楽しかった。
空を飛んだり、空気を操ったり。
夢の中だけの存在である筈の魔法が、実際に、現実にあって。
神父さんとの闘いは恐さより。
ワクワク感のほうが遥かに大きくて。
楽しかった。
でも今は。
体を乗っ取られて。
私の手が。
赤く、紅く、染まっていて。
感触は無い。
ただ見てるだけ。
見えているだけ。
私の身体が人を殺すのを。
伝わってくる。
嫌という程。
伝わってくる筈が無いのに。
実感する。
今、人を殺している最中なんだ。
私の意思ではないけど。
確かに私の意志で。
殺そうとしている。
感じる。
リリーの心。
ただただ一途に。
それ故に脆く。
一度折れた心は。
簡単に闇に。
染まる。
心が黒く、汚く。
呑まれる。
私に。
私じゃない私に。
戻れない。
そんな一線が目の前に見える。
この一線を越えてしまえば。
楽になれる。
でも!
違う!
一線は超えるためにあるんじゃない!
区切るため、分けるためにある。
でも、止まらない!
止まれない!
私の声は、届かない!
どうすれば!
私の声は、届くの?
「那由他ーーーーーーっ‼︎‼︎」
急に心に光が差す。
目映い光。
優しく、温かい光。
この声、知ってる。
誰よりも、知ってる。
何時も側にいた。
不思議と安心する。
声。
「さっきはよくもやってくれたなーー‼︎」
なんて、なんて安心する声なの!
やだっ、もっと呼んでよ!私の名前を!
貴方の声で。
もっと聞かせて!貴方の声を!
お願いだかっ⁉︎
ドッ!
横腹に素晴らしい衝撃。
黒く、醜く染まっていた心が、新春の雪どけのように氷解、浄化されていく最中。視界の端に映っていたのは。
”予想通りあいつで。”
'愛しい、愛しいブレイド様で。'
”顔は少し怒っていたかしら?”
'少し戸惑っていたかな?'
”抱きつかんばかりの勢いで。”
'遠慮せずともリリーは全てを受け止めます。'
”ルシファールは口に手を当てて驚いているわ。”
'ルーシーもブレイド様に惚れちゃったのかな?'
そんな事を考えていた。
だから理解できなかった。
なんで!
どうして!
「「私に」」
「「ドロップキックかますのよー‼︎」」
吹っ飛んだ勢いで次の話に行きます!