絆という名の鎖
「そんなわけない!ボクがルーシー無しで生きていけるわけない!だから、ルーシーを捨てるなんて有り得ない!絶対に有り得ない!」
こちらも負けじと胸中を吐露。
ここからはだんだんクレシェンドしていきます。
「本当ですか?本当にルーシーは捨てられたのではないのですね?」
「もちろんだよ!そんなこと絶対にない!」
「ではルーシーはリリー様のお側にいてもいいんですね?」
「当たり前だろ!もう二度とあんな悲しいこと言うんじゃないよ!」
「分かりました!二度と言いません。考えません。」
ここはもうちょっとフォルテで。
「ルーシー‼︎」
「リリー様‼︎」
スタッカートゥ‼︎カプリチョーザ‼︎
ハッしと抱き合う、アラベスクッ‼︎
「・・・・・・。」
この感動的な、実に500年振りの再会劇を、一人蚊帳の外、焦点の合わない目でみる神父。
奥の手である二重召喚。
一重目でより高位の召喚師を召喚し、その召喚師に、本来は呼び出すことのできない、強大な力を持つ存在を呼び出させ使役する神父さん最大にして最後の切り札。
今までこの魔法を使用して負けたことなどない。
それどころか、苦戦すらしたことがない。
この魔法を使えば、相手が如何に強敵であろうが、必ず勝利してきた。
言わば、必勝。
言わば、必殺。
故に常勝。
そんな魔法を、法級3程度しか使えない小娘に、破られるなど、してやられるなど!
なんたる屈辱!
なんたる恥辱!
なんたる雪辱ぅ!
許さん!絶対に許さん!
許せん!貴様の死をもって、この溜飲を下げようぞ!
……尽きかけの魔力が回復したらな‼︎
この魔法べらぼうに魔力使うんだよなー。
「今の内に…。」
神父さんが退却を開始。
徐々に高度を落とし、抱き合う二人から離れる。
そのまま二人の視界から外れたら、召喚魔法を解除。
残った魔力を全部使うことになるが、空間を跳んで一気に逃げる算段だ。
《リリー。》
「分かってる。」
「どうされたのですか?リリー様。」
「ルーシー。また離ればなれは嫌だよね?」
「絶対嫌です!ルーシーはリリー様が大好きですから!」
谷間で首をイヤイヤと振る。
えっ、いやらしいことはなにも考えてないですよ?
ただナレーションの仕事として状況説明してるだけです。心外だなー。
「ボクもだよ。だから、離ればなれにならないためにも、ルーシーに協力して欲しいことがあるんだ。」
「リリー様のためならば、ルーシーは全てを捧げることに、なんの躊躇いもありません。今死ねと言われれば、笑顔で死にましょう。」
「いやいや、そんな極端にならなくてもいいんだけど。まぁその気持ちは素直に嬉しいよ。ありがとう。」
「あぁ、ルーシーには勿体無い御言葉です。」
ルーシーの涙は止まらない。
もうおっぱいがずぶ濡れじゃないか。
けしからん。
「よしっ!まずは一番大事なっと。」
リリーが、胸で感激で泣きじゃくっているルーシーを優しく離す。
そして、左手をルーシーの頭に乗せ、右手は印を結ぶ。
「ルーシー、魔力借りるね。」
「はいっ!好きにお使いください!」
元気いっぱいな返事。
まだ涙は止まっていないが、悲しそうな表情は微塵も無く、晴れ渡る青空のような笑顔を見せる。
これは水樹には見せられないわね。
間違いなく、犯罪に走るわ。
かく言う私も、表に出ていたらどうなっていたか分からなかったから、人のことは言えないのだけど。
「おー!さすがルーシー!純粋で綺麗な魔力だねー。これはボクもハッスルしちゃうよ!」
「あっ!そんなっ!気持ちいっ!やっ!う、嬉しいですぅぅ♡」
説明しよう‼︎
お忘れかもしれないが、リリーはサキュバスの女王という設定である。
よって、直に触れたものの魔力などを吸い取る能力を有しており、吸われた相手はこの世のものとは思えない快楽を得ることが出来るのである!
いや〜、吸われたい!
「このぐらい貰えば十分かな。そのまま、この契約をジャックするよ。」
詠唱開始。
「螺旋の女神は奪う!汝の手綱を、力を、絆さえも!そして与える!裏切りを、背徳を、新たな騎手を!これにて螺旋は収束する。
『絆という名の鎖‼︎(ボンド・チェーン)』」
詠唱を終えた瞬間、ルーシーと神父さんの身体から光の粒子が舞う。
これは召喚魔法の主従契約が解かれた時のエフェクトである。
そして、ルーシーとリリーの間に光の鎖が一瞬現れ、すぐに消える。
「これで・・・、これでリリー様と永久に一緒‼︎ルーシーは今日この日を第二の人生の始まりにいたします。」
「あははっ!お、大袈裟だな〜。」
言えない!
この魔法は召喚魔法を乗っ取っているだけなので、効力は元の召喚主である神父さんが生きている間だけだなんて、とても言えない!