おったまげー
「そう…。リリーがそこまで言うなら勝ったのね。そう言えば、なんで2発目の爆破は当たったの?刺青は全身に彫られていたみたいだから、死角は無いと思っていたのだけど。」
私は魔法という存在をついさっき知った素人だから、恐らくの話になるのだけれど、神父さんの魔法を打ち消す刺青は自動で発動していたように見えたわ。
刺青が発動したとき特に魔法を発動させるような動作は無かったし、特定の呪文を唱えたわけでもなかった。
では何故2発目のは当たったのだろう?
そして、何故リリーは2発目が当たると確信していたのだろう?
私のプライドが、自尊心が、矜恃が、知りたいとシャウトしてるわ。
《それはね、魔法には次の発動までインターバルが必要なものがあるからだよ。ログホライズン的に言うと、リキャストタイム。その長さは大規模魔法、法級が高い魔法程長くなるきらいがあるんだけど、ここまでオッケー?》
「何となく。」
《うん。それじゃ続けるよ。あの神父さんの刺青は誉れ高きブレイド様の時空間操作魔法を打ち消したけど、完全にというわけでは無かった。二秒くらいは止まってたからね。つまり、あの刺青の法級は6ないし7と言ったところだとみた。このレベルになってくると、リキャストタイムが長くなる。でもリキャストタイムの有無は他の魔法で打ち消すことも出来るから、大胆な行動をするには危険がある。リスクが大き過ぎる。》
「もしかして⁉︎」
《そう!御察しの通り、さっきの氷柱攻撃はリキャストタイムの有無の確認のために行ったってわけ。一発目は普通に刺青で防いでいたけど、次の連撃はブロックで防いでいた。あれはそうするしか無かったからそうしたんだと思う。どう?ボクって策士?褒めて!褒めて!》
「…素直にすごいと思うわ。ありがとう。」
リリーはあんな状況でも冷静に敵を分析していたのね。
それに比べて私は魔法を使うのに一生懸命で、命のやり取りをしている実感すら殆んど無かった。
今冷静になって考えてみると、何度も何度も死に直面した場面があった。
リリーが居なければ死んでたわ…。
…死んでたの?
そもそもリリーが私の夢に出てこなければ、神父さん達が来ることもなかったのでは?
…いいえ、今更ね。
《うん。那由他に褒められると幸せな気持ちになれるよ。とっても気持ちいいよ。あぁ〜気持ちいいよ〜♡》
ヤバイ!少し考え事してる間に、どっかで変なスイッチ入ちゃったみたい。
このままではまたリリーが暴走してしまう!
こんな発情状態で表に出て来られたら、私の身体でナニするか分からない!
じゃなくて、何するか分からない!
気をそらさなくては!
「リ、リリー、そう言えばあなた、さっきブレイド何某のとこに馳せ参じるとかなんとか言ってたわよね?」
《ふぇあ⁉︎愛しいブレイド様!今リリーが参ります!》
毎度のことながら急に表に出てきて、学校の方向に向かって投げキッスをした後、学校を目指し、えげつないスピードで飛ぶリリー。
この子を、サキュバスの王女を、ここまで心酔させるブレイドとは一体何者なのかしら。
間違いなくイケメンよね。
だって、男なら誰もが虜になってしまうサキュバスを、逆に虜にしてしまう程の男よ。
きっと、秀外恵中、身体は彫刻のようなボディで、顔は眉目秀麗のイケメン!
はぁ、はぁ、遂に私の中の獣を解き放つ時がっ⁉︎
ビュン!
背後から、最初に私を傷物にした忌々しい神父さんビームがすぐ横を、掠めるほどすぐ横を飛んでいく。
因みこのビームが前の章の最後に水樹めがけて飛んできたビームです。
「嘘⁉︎まだ生きてたの!これには流石のボクもたまげた〜。」
女の子がまたげたってどうなのよ?
えっ!逆にありなのっ⁉︎
たまげたよ!たまげた!あの、おったまげたよ!
……ゴールを見失ってしまったわ。
迷宮入りというか、お蔵入りにしましょう。