聖者の行進
決して疑問は抱かないように。
教会の神父はいつも黒い喪服を着ている。
なぜか、と問うと彼はいつも口をそろえて言うのだ。
「罪滅ぼしの為」と。
この国は飢えというものとはまったく縁が無い。
いつも食材があふれかえっているのだ。しかし肉は毎週国から配給される分だけである。
なぜか、と問うと母はこう言ったのを覚えている。
「私達は野菜を作ることは出来るけれど、お肉を作ることは出来ないから」と。
毎週配給されるお肉の量は決して多いわけでは無い。一週間きっかり足りる分だけ配られる。
そういえば野菜は育てているけれど、お肉を育てたことは無い。
なぜか、と問うと父はこう教えてくれた。
「我らは作る必要がないから」と。
お肉はとても貴重なものだと教えられた。だから神に祈ってから食べなさい。
なぜか、と問うと両親は優しい笑顔で言った。
「お肉は神が分けてくれたものだから」と。
教会には神をかたどった像はまったくない。毎日お肉を食べる前に祈っている神は誰なのか。
神父はそれを愚神だと言う。
なぜか、と問うと神父は能面のような顔で言った。
「お前ら愚者の信仰する神など愚神に決まっている」と。
喪服を着た神父はどこにいてもよく目立った。だから聖者の行進でもよく見えた。
なぜか、と問うと隣のおじさんは吐き捨てるように言った。
「あいつが一番の聖者だからだ」と。
神父が消えても教会は残った。喪服の神父が消えてもそこにあった。
なぜか、と問うと小鳥たちが囁いた。
「ここには聖者はもういないから」と。
聖者の行進はどこまでも続く。国のはずれの聖者の塔までずっと。
なぜか、と問うと教会の鐘が啼きながら言った。
「神の腹に戻るため」と。
お肉は毎週配給される。そのお肉は神から分けられるという。神は聖者の塔に住んでいて、慈悲で分けてくれるのだと。
なぜか、と問うと古びた本が笑いながら言った。
「答えは全てここにある」と。
疑問を持ってはいけない。前に神父が言っていた。
なぜか、と問うと神父は震える声で言った。
「聖者になってしまうから」と。
聖者の行進はどこまでもつづく。疑問を持ち、答えを知った者たちの行進は止まることなく神の腹まで。街ゆく人は誰も振り返る事など無い。
なぜか、と問うと神は答えた。
「聖者の言葉が愚者には届くわけがない」と。
この国のサイクルは簡単です。最後は全員神の腹に入ることでしょう。