I will be there for you
ベッドに横になり私はそれが終わるのを待っていた。
目を閉じて意識を呼吸に集中させていれば何もされていないのと同じ。不快な思いをすることも無い。
「はい、おしまい」
男がそう告げた。三十分くらい掛かっただろうか。どんなに早くても大抵いつもそれくらいだ。
肩に触れる合図で私は目を開けた。一面真っ白な壁に強烈なライト。久しぶりの開眼には些か刺激的だ。いつまで経っても慣れる気がしない。
診察台から体を起こして靴を履いていると助手の一人が近付いてきた。
「お、御召し物を御持ちしました」
情けないほどに声が震えている。よく見れば私の上着を持つ両手も震えていたが、どうでもいい。
「ありがと」
上着を受け取ると助手はそそくさと下がっていく。私には言葉遣いやその他の所作以上にそっちの態度のほうが不愉快だった。
「それじゃ、続きはまた明日」
眼鏡を掛けた中年の先生が回転椅子に深く腰を落とす。出会った当初に比べて随分と増えた皺を寄せながら書類に目を通していた。よっぽど重要なことでも書いてあるのか、隠すように私に背を向けた。
ほとんどの人間が私に対して距離を取る中、こいつを含めた数人だけは臆することなく接してくる。大体は正直ムカつく存在だ。勿論こいつもその中に入っている。
「じゃあな」上着を羽織って私は席を立った。「明日はもっとマシなことを祈ってるぜ」
「君ほどの成功例は他にいないんだ。勘弁してくれよ」
その言葉につい顔がにやけた。不気味で怖ろしいと評判のこの顔は私にとってもマイナスだった。この笑顔のせいで大抵の人間は怖気づいてしまう。そのせいであっけない実験になってしまうことは私に欲求不満な毎日を残すだけ。
そのせいもあって最近は退屈だった。
代わり映えのしない毎日は淡々と過ぎていく。もっと刺激的な世界が欲しい。きっとそれはあの壁の向こうには幾らでもあるはずだ。しかし、望んだからといってそう簡単に手に入るものではない。
「あー、つまんねーなー」
自分の部屋に戻る為に廊下を歩いていると、あいつを見つけた。
この二日間、私はあいつを探していた。最近になって急に以前の担当から外されて異動になっている。
私はそのことについて一つの噂を耳にしていた。
その真相が知りたい。
奴は――莉衣はどうやって十六夜を振り切って外に逃げ出したんだ。
大方の予想は付いているが、それを確かめるには十六夜の口を割る他無い。私が外に出る為にも……。




