第九話 アリス・フィア・ホラロイト
とある町の住宅街には、一件焼けただれた家があった。
そこは、昔、4人の家族が住んでいたがとある事件以来…もう、十年以上もそのまま放置され誰も見向きなどしない。
夏の夜なら肝試しが出来そうな程不気味な雰囲気を漂わせていて普通の人なら近寄り難い家だった。
だが、そこに真っ白なロリータ服に身を包み背中に白い羽を生やした少女が1人……ゆっくりと舞い降りた…
彼女の名はアリス・フィア・ホラロイト…別の名を《残虐の天使》……
彼女の事を魔法を使うほとんどの人々がそう呼んでいた。
「ここですわね」
少女は、懐かしむ様に元は玄関であっただろう場所をしばし見つめると羽をしまい入って行こうとする。
しかし、入ろうとした直前何かに気づき後ろの方を向いた。
「あら……」
そこには、腰を抜かして何かに怯えた様にブルブルと震え、「見ちまった…」などと何やらブツブツ言っている男の姿があった。人間とは違う羽を生やした少女を見て幽霊だとでも思ったのだろうか…。
そんな男の様子にアリスは、クスっと笑い男に近づいて行った。
「ごきげんよう。何に怯えてらっしゃいますの?」
少女が声を掛けると男は、一瞬ビクッと震えて
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
と叫びながら逃げて行く。
「あらあら、そんなにお逃げにならなくてもよろしいではありませんの。せっかく、お声を掛けて差し上げましたのに」
逃げているのが、可笑しいとでも言うようにクスクスと微笑んだ少女はふわりと地上から浮かんで前に手をかざした。
「ふふ。私から逃げたのですからお仕置きしなければなりませんわね。さぁ…いらっしゃい。私の可愛い《火炎剣》…」
少女がそう言うと、少女の手の中に炎が生まれ直ぐに炎を纏った剣が収まる。
そして、そのまま少女は男の後ろ姿にその剣を振りかぶった。
剣から炎が飛び出し走って逃げる男を追い掛ける。
だが、その瞬間……鋭い痛みがアリスの頭を走っていった…
「っツ!?」
アリスは頭を抑え、足から崩れていく…
そして、走馬灯のように記憶の欠片が飛び交って行った。
微笑みを称え、黄金の髪をひるがえした少女…
その少女に抱きしめられた時の暖かい温もり……
優しさで包んでくれた大好きな自分の主…
そして、自分を大切にしてくれた双子の姉……
だが、その幸せを一瞬で燃やし尽くす炎と倒れた女性…
怒りと悲しみをまとった主の涙…
そこまで思い出した時、アリスはハッと我に返って前をみる。
自分の放った一撃がもうすぐ男に直撃する所だった。
「危ないですわ!!避けて下さいまし!!」
手を挙げて必死に叫んで……
でも、アリスの声が男に届くことなんてなかった……
「ぎゃあああああ!!」
悲痛な悲鳴が聴こえると炎の線が無惨にも男の体を真っ二つにしてしまった…
鮮血が飛び散って頬に張り付く…
そのヌメっとした感覚は…アリスの心をより絶望へと誘った。
「あ……ああ…」
アリスは、声にもならない小さな悲鳴を上げながら崩れ落ち呆然と涙を流した。
「また……私は……人を……」
【殺してしまった、ですの?】
「!?……貴女は……」
声のした方を振り返ると、アリスと同じ白い髪に白いロリータ服を纏った同じ顔の少女がニヤッと笑っていた…
その少女をキッと睨みつけながらアリスは呟く。
「また…貴女ですの…。その嫌らしい笑いは相変わらずですわね……。また、私の身体を使ってお痛をしておきながらその嘲笑…ムカつくことこの上ありませんわ…」
【嫌らしい笑いとは失礼ではありませんこと?私?】
少女はクスクスと笑いをこぼしながら近づいてきた。
それを拒むようにアリスは落ちていた《火炎剣》を掴み少女の喉元まで切りかかる。
「それ以上近づくのであれば、命は無いと思いませね」
そんな言葉にも、可笑しそうに狂った笑みで笑っていた。
【可笑しな方ですわね。貴女に私をどうにか出来るとでも思いまして?主に見捨てられた一人ぼっちで可哀想な魔法使いさん?】
「今更、そのような古臭いことを…」
【でも、真実でしょう?】
「例え、真実でも仕方の無い事だと何度も申し上げたではありませんの。主を救うためにはお姉様か、私…どちらか優秀な魔力の源だけを残すと…。そして、選ばれたのがお姉様だった…それだけですわ」
【だから、未練は無いと?】
「くどいですわね。何度言わせれば…」
その途中でアリスは少しだけ眉を吊り上げた。
「貴女…一体何を考えてらっしゃいますの?」
【何をとは?】
「惚けるのも大概になさいな。今更、未練が無いかと改めて確認なさるなんてどうかしてますわ。まさか、貴女……主に危害を加えようだなんて…こ…と…」
その途中で、アリスの意識はフッと途絶えた…
ドボンと泥沼に落ちたかのような感覚に陥る。
この感覚は、何回も経験していた。
そして、その先にはアリスであってアリスではない人が立っていた…
自分と違って不気味に笑う…《|残虐な天使(私)》が…
―――ああ…また、私はただの操られ人形になってしまう…。真っ黒な魂の中に閉じ込められてしまう…。
アリスは、意識を全て手放す前に両手を握り締めて願った…
『どなたか…どなたでも良いですからどうか…《主を…助けて下さいまし…》』
それからしばらくして…アリスはゆっくりと立ち上がった。
そのアリスはさっきまでと全く違く…
「ふふ。危なかったですわね。まさか、私の目的に気づいてしまわれるなんて」
とクスクス笑って焼けただれた家まで歩いていく。
「でも、まだ駄目ですわよ。私。もっと、貴女には絶望して頂かないと…。」
そして、アリスは焼けただれた闇へと姿を消した…
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アイリスは監獄の様な檻の中にある窓から1人、夜の檻を明るく照らす月を見上げていた。月の薄明かりに照らされて檻の中が見えるが、アイリスも檻もあまりにもボロボロでその姿は、まるで奴隷が檻に繋がれているような程哀れに見える。
しかし、魔法の力を持つ者にとって膨大な力となる満月がアイリスに希望を纏わせていた…
「綺麗な満月…。まるで、私に力を与えてくれるよう…。まさに、夜の太陽ね」
そんな独り言を漏らしながら目をつぶる。
しばらくそうしたが、やがてゆっくりと目を開けた…
「さて…、もうそろそろ潮時かしら…」
そう言って立ち上がると一言だけ呟いた。
《黒き天使》
その瞬間、アイリスのボロボロだった服は綺麗な物に変わり身体の傷もみるみるうちに消されて行く。
それから、檻のドアに近付くと掛けられていた鍵を触らずに解除してしまった。
「全く、ボロボロにしてくれた上にこんな汚い所に私を閉じ込めるなんて。我が妹ながら随分と派手なことしてくれたじゃないの」
アイリスは、一息つくとゆっくり外へと出る。
その途端、横から大きな声が聞こえてきた…
「お、お前は!確か閉じ込めてあったはず、どうやって檻から…」
どうやら、この檻の見張り番の男らしく…
アイリスは、チッと悪態づいた。
「また、面倒なやつが出てきたものね…」
「誰か、誰か来てくれ!《黒の魔術師》が檻から脱出し…」
と、言い終わる前にアイリスは動いていた。
一瞬のうちに背後に回ると手刀を首に落とし見張り番の男を気絶させる。
「う…」
と、小さな声だけを漏らし床にドサッと倒れた。
「悪いけど、少しだけ眠っててもらうわよ。他の奴らに見つかるのも面倒だから」
だが、そうこうしているうちにドタバタと何処からか足音が聞こえて来る。
恐らくは、この見張り番のお仲間だろう。
「言ってる側から来ちゃうし…」
アイリスは、ジト目で少し睨みながらも先に向かって走り出した。
アイリスがこの後向かう場所は、とうに決まっている…
そこは、おそらくアリスが現れるはずの場所。
そして、守りたい人がいる場所。
「どうにかして、アリスよりも先にミシェテに到着しないと…」
だが、その前にアイリスにはやるべき事がある…
「その前に、アリスの正体を暴いてやらないとね…」
アイリスは、二やっと笑うと目的地に向かって全力疾走していった。
読者の皆様お久しぶりです(*^ω^*)
そして、こんにちは!わんこです(๑•̀ㅁ•́ฅ✧
この度は、やっと「異世界王女」を投稿する事が出来ました。
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