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27.外野受難

 新しい一週間が始まり、学園の生徒達は愚痴を言いながらも校舎へと歩いていく。

 今日の話題はどこへ行ってもオスカルについてだ。

 男ではなく女だった、という告知によって、比較的関係が近いと言える学園の生徒達はそれぞれ自分の考えで好き勝手に喋っていた。

 中にはオスカルが同性愛者だとか、性同一性障害だとか、果てには男装癖があったなどなど、事情を知っている者からすれば呆れてものも言えないような話まで、実しやかに囁かれ、飛び交っている。


 しかし、アルレイド王国も中々どうして大したものだと、龍之介は感心していた。

 これだけの騒ぎを王族が起こしている、否、起こすことを決断できるほどには安定しているということだ。

 下手に上層部が不安定なら、こういうつけ入りやすい問題ですぐに国は荒れる。そういう話が龍之介まで聞こえてきていないだけなのかもしれないが、民衆とは意外なほどに敏感なのだ。

 ここ数日、週末で市場に行くことも何度かあったが、そういった雰囲気は感じられなかった。

 王国にもオスカルにも、支えてくれる者はいたようである。


(ま、なんにせよ、これから大変なのはレオだな)


 彼は今、「いきなり王太子」なんて巷では騒がれている。今まで努力の殆どを魔法に注ぎ込んできたわけだから、実力に不明瞭な点が多いのだろう。

 龍之介から見たところ、剣、というか体術の才能はありそうだったので、しばらくすれば自然に芽を出すだろうと思っている。

 勉学についても、今までの魔法への努力を勉強に分けてやればいいのだから、自ずと結果が出てくるだろう。基本負けず嫌いだろうし、あまり心配はいらないのかもしれない。


 そんな事を考えながら校舎へ足を向けようとした時、門の方が何やら騒がしくなった。

 時間が押しているわけでもなかったので、そちらへ視線を向けると、ちょうど王族の竜車の扉が開いたところだった。


 竜車から出てきたのは二人。

 一人目は、「いきなり王太子」レオールド。そして二人目はやはり、オスカルだった。

 レオールドについては特に問題無い。何故か黄色い歓声が、離れた位置のここまで聞こえてくる以外には特に言うこともなかった。いつものレオである。若干照れくさそうにしているのは気のせいということにしておこう。

 ではオスカルはというと、こちらはこちらで問題が無いように見える。なにせ、依然としてカッコイイのである。制服は女子用のものに変わっているが、サイズを合わせた分、男子用の制服を着ていた頃よりも更に洗練されている様に見える。その上女性らしさを隠すことなく出せるようになったためか、魔力以外のオーラが見えてきそうなほど魅力的になっていた。


 ある一定以上の美の前に、否定も批判も全て平伏した。

 「王子オスカル」に想いを寄せていた女子生徒は多かっただろう。しかしあれは「王女オスカル」に想いを寄せる女子生徒(・・・・)もきっと同じくらいの数になるんじゃないか?と思わせる程に完成されている。

 王子として視線に慣れていたせいか、態度も堂々たる王族のものだ。


(この国の王族は、どうも本気を出してからが怖いらしい・・・)


 龍之介はそう一つ心に刻み、教室に向かうのだった。彼の懸念は杞憂になりそうである。











 窓の外を仰げば、青い空に白い雲、は結界に覆われて見えず、日に照らされた王都の町並み、も結界に覆われて見えず、かと言って教室の中は、うるさくて仕方がないのである。


 十三組はいつから握手会の会場になったのやら、次から次へと、休み時間になる度、ひっきりなしに客が来る。もちろん王太子となったレオへの、貴族のご挨拶という奴だ。今までは散々コケにしといて、恐るべき速さの変わり身だ。


 オスカルの方はというと、チラリと休み時間に見た程度だが、女子の取り巻きが一つの巨大生物のように蠢いていた。同性となったことで話しやすさが出来たのかもしれない。王族といっても一王女だし、完璧王子だった頃よりは人間味も増して親しみが持てる。

 その上、そこらにいる男子生徒よりもイケメン度が高いのだ。目覚めた(・・・・)女子はいったい何人いるのやら。


 とにかく、今日の学校内の話題は全て王子王女が関係している。他の話をしようものなら、神風特攻並みの気力が必要になるだろう。みんなその話がしたくてしょうがないとでもいった風なざわついた空気を、龍之介は朝の登校時からずっと感じているのだった。


(まあそれも次で一旦終わる、というか終われ)


 次の授業が終われば昼休みに入る。昼食は落ち着いて食べたいので、レオが来る前に逃亡を図る。彼は最初の休み時間に、貴族達に手を揉まれまくった後から、チラチラこっちを見てくるので、昼休みになれば十中八九こちらにやってくる。なのでその前に逃げるのだ。

 昼休み、レオはお誘いできっといっぱいいっぱいになるだろう。そんないつ食べ始めるのかもわからない昼食は、龍之介はお断りである。薄情だと思われようと構わないと、心に決めてしまっていた。


 そして、運命の一時間が始まり、終わった。昼の長休憩を知らせる鐘が鳴る。教師が授業の終わりを告げ、教室の戸を開け、一歩出てから閉めた。それが合図。

 そこから龍之介の行動は戦闘中並みに迅速だった。

 手作り弁当を出すのと同時に立ち上がり、誰よりも速く教室の扉へと辿り着き、流れるように扉を開ける。教室から出た瞬間、目の前の廊下の窓を開け、そこから飛び降りた。

 後続の生徒がギョッとしていたことを知る由もなく、そのまま構内の広場へと足を向ける。

 勝った!そう思ったのも無理はない。だが運命の女神はどうやらドのつくサディストだったらしい。


「リュウ!」


 聞きなれてきた声が耳に届いた瞬間に、龍之介は天を仰ぎ、顔を手で覆った。この反応速度も、見る人が見れば賞賛を送ったほどだが、今はそれどころではない。


(なぜ教室前の窓から飛び降りたらお前がいるんだ・・・)


「どうしたのだ?リュウ、具合でも悪いのか?」


「いや大丈夫だ」

(悪くなりそうではあるが)


 龍之介の心の声が聞こえる訳もなく、現況赤い悪魔、もといオスカルは、変な生き物(取り巻き)を引き連れてそこに立っていた。しかもそれらは全員女子だ。


「ちょうどリュウの教室まで行こうと思っていた。手間が省けたよ」


「一応聞くが、何故だ?レオなら多分今日は教室から動けないぞ」


「ああ、兄上のことは仕方がない。私はそれよりリュウに用があったのだ」


 いよいよ雲行きが怪しくなってきた。先程からオスカルの後ろにいる群れが悪鬼羅刹の如き殺気をこちらに放ってきているのだが、どうしてオスカルが気づかないのか不思議でならない龍之介。


「お、俺に用か。一体何の用だ?」


「うむ、一緒に・・・昼食を、どうかと思ってな・・・」


 もじもじと恥じらう姿は完全に乙女のそれである。後ろの悪鬼達が悶絶しているが、そのまま憤死してもらいたい、と龍之介は切に願う。

 だがそう現実逃避している時間も無い。龍之介は脳をフル回転させて脳内シミュレーションしてみた。


 断る。オスカル悲しむ。取り巻きが激怒。あの世まで吹き飛ばされる。

 了承する。オスカルと昼食。取り巻きの嫉妬の炎で焼き殺される。


(あれ?詰んだ?)


 ほんの刹那の時間だったが、龍之介の脳裏には、自らの死に様がありありと浮かんだ。


(逃げるか)


 突き刺さるような視線を浴びながら、龍之介はオスカルに向き直る。未だにもじもじしている王女様には悪いが、命は一つである。


「オスカル、すまん。ちょっと野暮用があってな。また次の機会でいいか?」


「あ・・・ああ、大丈夫だ。また次、だな」


(あ、ってなんだよ!あ、って!そんな悲しそうな顔するな、クソ)

「悪いな。じゃ、また」


「いや、こちらも引き止めて悪かった。またな、リュウ」


 少しどころかかなり残念そうな様子に、思い切り後ろ髪を引かれつつも、早歩きでその場を立ち去った。


 窮地を脱してやっと気を抜くことができた龍之介だが、取り巻き達が、オスカル様(・・・・・)を呼び捨てにしたことに狂乱していることは、知ることができなかった。

やっとできました。


しかし・・・もう少し話を進めるはずだったのに・・・

次、頑張ります。

ご容赦ください。


12/28 修正・・・寝ぼけながら書いてると変なミスをしますねw5、6人の方から同じ指摘を受けましたwすいません

年内にあと一つ、といきたいですが、難しいかもしれません。


みなさん、良いお年を(≧∇≦)b

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