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26.お礼だらけの週末

「君は一体・・・」


 龍之介が馬車を囲っている護衛の集団に近づくと案の定剣やら槍を向けられた。確かにこの状況では自分達まで標的にされていると考えてもおかしくはない。何せ今の龍之介は久々に返り血シャワーを浴びて凶悪さ上昇中だ。悪魔と言っても信じてもらえるレベルである。


「ああ、俺は龍之介。言っとくが人間で、王都の学園の生徒だ」


 龍之介も自覚はしているので、しっかりと人間であることを言っておいた。


「そ、そうですか。私はポントスといいます。アルレイドを中心に商売をさせてもらっている者です」


「商人か。ま、とにかく生きてるならなによりだ」


 内心龍之介は、このポントスと名乗った商人に驚いていた。

 あれ程の騒ぎの後だというのに、助かったとはいえ、かなり落ち着いている。よほどの阿呆か、肝の座っている人物だ。


「危ないところを助けていただきありがとうございます。王都の付近ということで油断していまして、このザマです。お恥ずかしい限りで・・・」


 龍之介はポントスという人間を観察してみた。

 奇襲を受けたとはいえ、そこから立て直してあれ程奮戦していたのは賞賛すべきだ。更にこの男、見て分かるほどに鍛え抜かれている。どちらかというと商人より冒険者の方が稼ぎになりそうな風貌である。

 そんな男がこうも腰を低くして応対してくるものだから、龍之介もどこか調子が狂う。


「あ、ああ。とにかく助かったんならいい。じゃ俺は帰る」


「いえ!お待ち下さい!」


 龍之介が踵を返そうとした瞬間、ポントスは予想通り(・・・・)商人とは思えない速さで踏み込み、ぐいと顔を寄せてきた。


 龍之介がポントスを観察している間に、ポントスもまた龍之介を観察していたのだ。深淵を覗けば深淵に覗かれるように、おっさんを覗けばおっさんに覗かれるのである。

 そしてポントスは判断した。この少年は金になる、と。何より決して敵に回してはいけない存在だと彼の勘が大声で叫んでいる。

 なら味方にしてしまえと、そう言う魂胆で龍之介を引き止めた。


「差し支えなければ、是非お礼をさせていただきたいのです」


「別にいらないんだがな」


「いえ、私の気持ちですので是非、是非!」


 金の匂いを嗅ぎ付けた商人は強い。というかしつこい。それをポントスがやると怖い。ぐいぐい迫ってくる巨漢は純粋に恐ろしい。笑顔が更にそれを引き立てる。


「わかった、わかったから離れてくれ」


「おっとこれは失礼。つい」


 ついで済むような勢いではなかったのだが、龍之介もお礼をされるのをそこまで無下にすることもないと思い直した。


「そう言ってくれるのなら有り難く礼は受ける。だがあまり大層なものじゃなくていい。礼をされたくて助けたわけじゃないからな」


 これはポントスにとって嬉しい申し出。関係をつなぎ止めるのに現金や商品などの明確な物を出さなくても済む。彼の扱ってる商品からしても、無料で渡さなくていいというのは非常に助かる。


「そうですか・・・では、私の店にお越になった際には割引をさせていただく、というのはどうでしょうか?」


「ふむ、確かにそれなら俺もそこまで気負わなくて良さそうだしな。そうしてくれ。店はどこにあるんだ?」


「あまり治安のいい場所とは言えないのですが、王都の南西区にありまして、リュウノスケ様の実力があればそれほど困ることもないでしょうが、気をつけてお越し下さい。南西区のちょうど中心あたりにある、『ラーブイ』という名の店が私の店でございます」


 南西区は王都の中でも比較的治安の悪い場所だ。厳密に言うと、南西区の外壁付近がそうなのだが、その煽りを受けて南西区は全体的に暗い雰囲気がある。


 学園があり、更に王のお膝元ということでかなり治安はいい王都だが、それでも刈り取れないものは出てくるのだ。そしてそれの溜まる場所が南西区、というわけである。

 一体どうしてそこがそのような場所になったのかはもう誰も覚えてないが、普通の人間はあまり近寄りたがらない。貧しい者から順に南西へと流れていくのがいつしか自然の流れとなってしまっている。


「わかった。時間ができたら行ってみる」


 普通の、この世界で、ここ王都で生きてきた人間ならば、南西区というだけでポントスとは関わりたくないと思っただろう。

 しかし龍之介はこの話に興味を惹かれた。元々南西区が治安の悪い場所だとは話に聞いていたが、そんな場所で店をやっているにも関わらず、ポントスの身なりや装備はそれなりに良いのだ。

 何か面白いものを売ってそうだという、年相応の好奇心から彼の店に行こうと、心の中では既決していた。


「ありがとうございます。しばらくは王都から出る予定もありませんので、いつでもお越し下さい」


 ポントスはそう言って恭しく頭を下げる。角度のせいで龍之介からは見えなかったが、その顔は清々しく、大きな商談をまとめたような達成感がにじみ出ていた。







 その後、馬を手配して、それが来るのを待ってから依頼の報告をするために集落へと戻った。

 農民達は血まみれの龍之介を見て怯えながらも、一角猪の脅威は去ったのだと的を得た勘違いをするのだった。


 野菜やら何やらをお礼として沢山もらったあと、地区長に簡単に挨拶をして集落を出て、そのまま王都のフォルザへと向かう。

 今の龍之介はドス黒い服を着て大量の野菜を担いでいる、畑強盗みたいな格好なのだが本人は気にせず王都を歩く。

 もう慣れてきた人々の好奇の視線を受け流し、フォルザに着いたら着いたでマリーの呆れたような半眼の眼差しを受け止める。


「言いたいことがあるなら言え」


「別にありませんよ。聞いたらもっと呆れるに決まってるんです」


「怪我はしていない。野菜は討伐の礼としてもらった」


「その姿で言ってるのを聞くと供物みたいに見えてきますね」


悪魔への捧げ物、と言わないのはマリーの優しさである。


「自覚してる。ほらこれ、証明の角だ」


「自覚してるんですか。はい承りました。ちょっと待っててくださいね」


 結局言いたいことを言ったわけでもないのに更に呆れてしまったマリーが、一角猪の角を持って裏へ行き、数分して戻ってくる。


「はい、確かに一角猪の角でした。依頼完了です。こちらが報酬になります」


 今回は一件限りの依頼だったので報酬がこの階級の平均よりも大分多めにされている。銀貨15枚程度だが、これは一つ上の階級並みの報酬である。


「どうも。明日からまた授業だからな。まとまった金が入って良かった」


「学園の生徒だとはどうしても思えませんね・・・」


「言ってろ。じゃあな」


「はい、ご利用ありがとうございました」


 頭を下げるマリーを背に、フォルザをあとにした。












 寮の自室に戻ったら、すぐにシャワーを浴びて着替え、夕食の準備を始める。

 ここ数日、夕食時に招かれざる客が来る。もちろん男子の階で最上階なので女子ではない。


「お邪魔しまーす!」


 相変わらずなんの前触れもなく勝手に入ってくるのはニコル。龍之介に勝手に弟子入りしたことにして勝手に部屋に上がり込んでくる。

 龍之介は体術を教えるとは言ったが弟子にするとまでは言ってないので最初は困ったのだが、考えるのも馬鹿らしくなって好きにしろと言ったら、このザマである。


「師匠、今日の晩御飯は何ですか?」


 ニコルが龍之介を師匠と呼ぶのはこの時だけだが、龍之介はそういうのは気にしないことにしている。


「野菜を大量にもらったからな。それでなんか作る」


「じゃあこれ使ってください。市場で安かったんですよ」


 ニコルが差し出してきたのはどうやら豚肉のようだった。豚といっても元いた世界のものとは少々違うのだが、味はほぼそのまま豚だし、見た目も豚の亜種みたいなものなので豚である。

 ニコルが来るのを許しているのには、こういう食材を貢がれているというのも理由の内に無いわけではない。あるとは決して言わないのが龍之介。


「ありがとよ。じゃ作るから待っとけ」


 この歳で龍之介の作る料理はそれなりに美味い。それこそそのへんの女子より上手いので、質素な食生活を強いられやすい者には、大きな救いになるのだ。

 更に味付けを頑張って和食よりにする龍之介の料理は、この世界の住人であるニコルにとって衝撃だった。

 今や完全に胃袋を握られているのだ。


「「いただきます」」


 これをしないと食べさせてくれない、食前の一声も習得済みである。

12/6 修正


12/28 修正

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