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25.世紀末調オルトロス

 依頼は簡単なものだった。

 農業地区の地区長に会って詳細を聞き、一角猪の特徴などの情報を教えてもらってから、一角猪の出る山へと登り、夜酔之宵で一刀に切り伏せ、証明部位である角を切り落とて回収、死体はその場で捌いて毛皮と肉を吸収でしまって山を下り、とそこまで行ったところで見つけてしまったのである。


「ありゃ襲われてんのか?」


 高い位置からなので建物が低い分かなり遠くまで見渡せるのだが、ちょうど王都から先程までいた農業地区を通り、その先へ延びている街道の先に砂塵が舞っている。

 身体強化で視力を強化して覗いてみると、どうやら馬車を囲って戦闘をしているのだが、展開はかなり一方的と言えた。


 馬車の荷台はかなり頑丈そうに見えるので中身は大丈夫だろうが、馬は殺されており退却ができない。その上相手の盗賊らしきならず者集団の方がかなり護衛の数より多い。全滅も時間の問題である。


(うーん、まあ寝覚めが悪いしな。助けておくか)


 龍之介は溜息を一つついてから、身体強化の出力を上げて文字通りマッハで現場まで向かうのだった。












 青い空、白い雲、そして悲鳴に断末魔。

 準備を怠ったわけではなかった。ただ運が悪かったのだろうと、ポントスは空を仰いだ。

 自らの店を構えて5年、何の問題もなく順調に来ていた矢先、よもやこんなことになろうとは誰が思うだろうか?


「そう簡単に諦めるわけにはいかんのよ」


 小さく、しかし力強く呟いて剣を杖にして立ち上がる。

 商品の積まれた荷馬車を背に、護衛と共に戦う決意をする。

 自分が弱いとは思っていない。何故なら今までもそれなりに修羅場を抜けてきたのだ。そこらの冒険者よりは強い自信がある。

 そう、本当に今回は運が悪かったのだ。王都の近くだからと、いつもより護衛を少なくして出たのだが、灯台下暗しと言うべきか、絶妙な距離で、恐らく計画的に襲われてしまった。


 この身一つで大きくしてきた自分の店を、こんなところで潰すわけにはいかない。そう思ってはいるものの、状況はどんどん悪化していく。

 護衛の数は既に半分ほどに減らされてしまったし、奇襲を受けて初っ端から足に矢を受けてしまった。毒は無かったようだが満足に戦える状態でもない。

 それでも諦めたくないのは、男の意地か。今回の商品が質の高いものを揃えれた、というのもあったかもしれない。


 だが襲撃者にとって、その正体不明の気迫が彼の命、そして商人という職を繋ぐことになる。

 その間は一瞬、長くても数秒だっただろう。それでも襲撃者達はたじろいだ。それが致命的な遅れになるとは誰も予想しない。





 轟音が近づいてくるのに最初に気がついたのは襲撃者の一人だった。

 彼が音に気づいてその音の方を見た瞬間には、彼の首から上が馬車にぶち当たって半分潰れていた。


 全員の動きが止まる。そしてそれに合わせたかの様に音の衝撃波が重く体に響いた。


「やっぱ血は赤くねーとな」


 返り値を浴びながら、それを全く意に介さずに口角を上げた男がそこに立っていた。

 麻布の服がどんどん血に染まっていく。


 その刹那、ポントスも護衛も、襲撃者も全員、一つの言葉が脳内をかすめたのは仕方のないことだろう。


『悪魔』


 周防 龍之介という人間を表すのにこれほど適切で不的確な言葉もないだろう。


「な、なんだてめぇは?!」


 最初に言葉を発することができたのは襲撃者のリーダー格か。

恐らく有利な立場だったためにまだ余裕があったのだろう。

しかしこれはその場の龍之介以外の全員の心を代弁しているとも言えた。


「名前を言う気はねーよ」


 フンと鼻で笑い飛ばす龍之介だが、質問した側は「そんなことはどーでもいい!」と叫びたい気分になった。

 まず人間なのかどうか、というところから問い質したいところなのだ。


 龍之介に問うた男は落ち着いきを見せながらも頭の中は混乱していた。今までの経験からなんとかそれを表に出さずに留めているが、それもそろそろ限界を感じる。


(勝てる気がしねー)


 自分が真っ当に生きていないことはわかっている。自分はこれしか生き方を知らなかったのだ。

 非合法組合、俗に裏フォルザなどと呼ばれている組織に入って、なんとか生活に困らないだけの金は稼げるようになった。

 そんな生活の一部だった。そのはずだったのに、この現状はなんだというのか。


 突如として現れた男、顔や雰囲気を見ればまだ少年と大人の間であることがわかる。しかしその顔は悪魔と言って差し支えない。

 更にその威圧感、仲間の一人を一瞬にして葬り去った戦闘力。どれも先程まで相手を蹂躙していた自分達の状況をひっくり返すのに十分だと悟る。


(逃げ・・・)


 そして思考はいきなり断絶された。


「もう死ぬんだから知らなくていいだろ?」


 地面に押しつぶした男、自分に何者かを問うてきた男を見下ろしながら、龍之介は服で手を雑に拭った。潰す時に折れた骨が皮膚を突き破って、血が吹き出たのがまた一層龍之介を血染めに彩っていく。


 襲撃者は完全にパニックに陥った。

 自分達を率いていた、自分達の中で一番実力を持っていた男が、何をされたのかもわからないままに地面でただの肉塊と化している。


"人間の成せる業じゃない"


 それがぐちゃぐちゃに混乱している彼らの脳内で唯一統一された心境だった。

 誰も示し合わせず、けれどあたかも統率されているかのように散り散りに逃げ出した。


「もう少し遊ばせろ」


 血を見て昂った龍之介は、逃げる内の一人の頭を鷲掴みにする。


生命吸収(エナジードレイン)


 ゴキュっと嚥下するような音が続けざまに聞こえたかと思うと、頭を掴まれた男のミイラが出来上がっていた。

 『生命吸収』は水だの血液だの魔力だの生命活動に必要な物を根こそぎ吸い取る荒業で、龍之介並みの魔力があって初めて可能になる魔法である。

 吸い取る時間は相手が保有する量にもよるが、魔力を有していない人間を対象にすれば、ものの2秒でミイラが一つ出来上がる。


「あーあー散りすぎだ。しゃーねー、仕事だ『双頭犬銃(オルトロス)』」


 交差させた腕に魔力が集まり、二つの手の中に形を成していく。

 未だ現状を理解できていない護衛達も後から後から驚愕の事実を目にして、中々動き出せないでいる。今動き出すと血の嵐に巻き込まれそう、というのももちろんあるが。


[よーう!ひっさしぶりだなーオイ!]

[なんだなんだ?こいつら全部やっていいのか?]


 龍之介の両手には艶も無い真っ黒な拳銃「M1911」が二丁収まっていた。しかも例の意図しない変な能力のせいか、喋っている(・・・・・)。声帯がどうとかいうのは恐らくタブーだ。


「逃げてる奴等だけだ。そこで固まってるのは敵じゃない」


[なんでもいーから早く殺ろーぜ!]

[ケツの穴増やしてやる!]


(嗚呼、こいつらの性格ホント面倒だ。ってか別に皆殺しにしなくてもよかった気がするな)


 自らの短慮を呪う龍之介。完全に自業自得だが、この状況には一番合ってると思ったのだ。『オルトロス』を出した瞬間に後悔しただけのことで。


 彼らを出さなくても方法は色々あっただろうし、そもそもはっきり言って自分と関係の無い人間をわざわざ殺さなくてもいいのではないか?

 それに『オルトロス』を使うということは、ほぼ皆殺し以外の方法は取れなくなってしまう。


(何でもっと落ち着いた性格にならなかったんだ、こいつら・・・)


 こうなったら仕方ないと腹をくくり、左右に狙いも定めず(・・・・・・)引き金を引いた。そのままマガジンが切れるまで全ての弾を打ち尽くす。


[ヒャッハー!]

[ウリィーー!]


 二丁の軽快な声が響き、放たれた14発の弾丸は、思い思いの軌道(・・・・・・・)を描いて、逃げ惑う敵を打ち抜いていった。

 銃弾は威力を殺さず、曲がり、追跡し、数度急所以外を貫いてから、即死しない位置に致命傷を与えていく。


 意思を持ち、自動で追尾して敵を殲滅する大型拳銃、それが『双頭犬銃(オルトロス)』。

 魔力で強化さた弾丸は、金属の鎧をいとも容易く貫いてなおその威力を落とさずに次々と標的を射抜いていく、驚異的制圧力を誇る。

 正直な話、別に1発撃つだけでいいのだ。少し遅いか早いかの違いである。


[はー、殺った殺った]

[あーねみー、主よ、もう寝るわ]


「はいよ。またな」


 龍之介は殆ど勝手に暴れて勝手に意気消沈した二丁の(バカ)を、返事も待たずに還元し、馬車へと向き直る。

 辺は血生臭く、すぐに魔獣が寄ってきそうな勢いだ。しかもまだ半数以上が呻き声を上げている。


(致命傷だが即死ではない・・・か。やっぱあいつら最悪だな。ま今回は手間が省けたと思っておくか)


「さて、無事か?」


 龍之介が馬車の護衛達に尋ねる。


 「お前の頭が無事か?」と、誰も聞かなかったのは褒めてもいいだろう。

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