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20.授業

 王立ウィズルース学園、高等部1学年の第十三組。その教室で龍之介は授業を聞きながらも難しい顔をしていた。

 理由は今日の朝、城から来た使者のせいである。遂にこの時がやってきた。


(謁見、というよりは会食か・・・難易度上がってないか?)


 使者によると、謁見ではなく王と王妃を交えての会食に御呼ばれしたとそういう話らしい。もちろんレオもいるということなので幾分安心はしたが、それでも礼を尽くす自身もない龍之介には少々荷が重い話だった。


 それに、字の習得に時間がかかっているのも気分が優れない原因の一つだ。アルファベットでもなく、もちろん平仮名のようでもなく、唯一の救いが表音文字ということか。見たこともない物を覚えるというのがこれほど面倒なことだとは思わなかった。早急に誰かに教えを請う必要があるかもしれない。


 さて、現実逃避はここまでにして、本当に心を重くしているのはほかでもないオスカル王女(・・)のことである。


(来るとは言ってない・・・てか聞かなかったけど、来そうだなー。てかこの思考自体がフラグ立ててるよなー。あいつ生きるフラグだからなー)


 衝撃の初対面からまだ一度も再開していない。レオともギクシャクしてあまり話せてない。そんな状態でいきなり親の前に出されるのだから、正直勘弁して欲しいというのが龍之介の本音。

 だが相手は国王だし、無下にするわけにもいかず、ただただストレスを溜め込むほかない。


 結局、午前の授業は悶々としている内に終わってしまった。

 午後からは選択授業がある。龍之介の今日の午後は[魔法史1]と[戦史1]。どちらも違う教室で行われるので、早めに昼食を済ませて移動しなければならない。

 なんだかんだ昨日も買い物を忘れたので今日も学食である。


(城に行く前に買い物しとかないとなー。迎えが来るって言ってたけど、目立つのは止めてほしいが・・・無理だろうな・・・)


 そんな事を考えながら一人黙々と食事を済ませ、[魔法史1]の教室へ向かう。昨日の件でかなり注目を集めているが、今は全て無視して堂々と歩く。


(人の噂もなんとやらだけど、それ以上の話題が起きたら上塗りされるからな)


 その話題が自分と無関係であることを祈るばかりだが、今はとにかく授業に集中しようと思い切り、足を速めた。





 魔法史の教師はエルフだった。見た目は20代後半か30代前半といったところ。フィスと名乗った教師は教室を見渡して、困ったような笑顔を見せた。

 龍之介もその気持ちは分からないでもない。


(生徒が・・・3人て)


 ちなみに龍之介を含めて3人。それが[魔法史1]の教室内にいる生徒の数だった。


「新しく入った子が不思議そうなので説明しますね。[魔法史1]を受ける生徒はこれで全員です。年々受講者が減っているコマではあるのですが、学園長が重要性を理解してくださっているのでなんとか存続しています。生徒が少ない分密な関係になりやすいという利点もあるので、1年間よろしくお願いしますね」


 これで全員なのか、と虚しい気分になる。だがそれもしょうがないことなのかもしれない、とも。


(どうもヴロトの話してた時代より今の方が魔法を使えるやつは減ってるみたいだしな。魔法の歴史ってのも需要が少なくなるんだろう)


 そう言う龍之介が魔法史の授業を選択したのは自分の魔法とレオ達この世界の住人が使っている魔法の違いがわかるかもしれないという考えからだった。流石にたった3人だとは思わなかったが。


「そうですね、ではせっかく人数も少ないんですから、みんな自己紹介しましょう」


 フィスはエルフの例に漏れず整った容姿をしている。エルフに多い金と銀の中間色の様な髪にエメラルド色の目、身長は175cmくらいだろう。


「ではハイス君からお願いしようかな」


 フィスに促された男子が立ち上がって軽く体を生徒の方へ向ける。


「はっ!自分は第3組所属、ハイス=ムスケルであります!ムスケル家第三子三男、火の属性を持っているであります!1年間よろしくお願いします!」


 赤とオレンジの入り混じったような髪にオレンジの瞳という目が痛くなるような筋肉質な男子。そしてその大声で耳が痛くなるというコンボに龍之介の顔が歪む。


「はいありがとう。じゃあ次はエリナさん、お願い」


「我が名はエヴァンジェリナ=プシコー。覇の血族が末裔にして黄金の魔眼を持つ、古の・・・」


 この後彼女の痛い自己紹介は5分ほど続く。その間に龍之介は彼女を観察した。薄紫の綺麗な髪は背中まで伸び、シミ一つない肌、整った顔に花を添えるかの様な桜色の唇、スラッとしつつも女性らしい体。そして本当に紫と金のオッドアイ。はじき出した結果は残念美人というものだった。


「所属は1組だ。我が名が呼び慣れぬならエリナと呼ぶがいい」


 と言って、エリナは席に座る。結局魔法の属性は話してくれなかった。


「はいエリナさんありがとう。最後、新入り君」


 龍之介は目で促されて立ち上がり、一度小さく息を吐いて自己紹介をと思ったが、


「第十三組、龍之介だ。好きに呼んでくれていい」


とこれくらいしか言うことがなかった。家族がいるわけでもなく、知り合いはいても今ここで言うような事でもなく、そもそも自分のことをそこまで晒す気にもなれず、結局これで終わる。

周りの3人が十三組と言った時に少し息を飲んだのも原因かもしれない。

 龍之介としては、また面倒なことが起きなければいいとだけ思う。なにせ今日は学校が終わったら大層な面倒事が控えているのだ。


「えー、ありがとう。リュウノスケ君は昨日、異例の編入生ということでこの学園に来て、今日から選択授業に参加となりますね。では3人とも改めてよろしくお願いします」


 フィスの言葉にハイスだけが「よろしくお願いします!」と大声で答え、耳を塞ぎたくなるような轟音に嫌気がさしながらも授業が始まるのだった。



 種族戦争以前の時代、人々は今よりも魔法を使いこなしていた。今やエルフですら口伝でのみ伝わる話だが、どんな者にも魔力は宿り、ある程度の実力者なら詠唱も陣も必要なかったという。このことから龍之介が使うのは古代魔法という括りに入ることがわかった。

 そんな魔法情勢を変えてしまったのが、種族戦争である。戦時中に魔法の資料が焼かれ、兵士は死に、人口がどの国も激減した。そんな中生まれた"枯渇者"、戦闘で魔力を使い果たし、普通は回復するはずの魔力が2度と回復しなかった者達で、特に民兵に多かった。

 その結果各国は魔法を使えるものをより優遇した。当時は魔法が戦闘の主流だったのだから誰も文句は言えないだろう。

 しかし"枯渇者"はどんどん増え続け、戦争が終わる頃にはひと握りの魔法使いと、大多数の"枯渇者"が残ったらしい。魔力が残ったものが今の貴族の祖先だとか。



 これが大まかな魔法の移り変わり。今日は流れだけを把握して終わるとのことで、龍之介にとって初めての[魔法史1]の授業は終わった。


 次のコマは[戦史1]。これは軍人希望者の多くが受けると聞いたので、魔法史のようなことにはなっていないはずだ。まず戦史と言いつつ習うのは有名な戦闘での戦略。またもし違う状況だったならという戦略予想などが主らしい。


 軍人になる気は全くないが、地球での戦略知識は鬼教官から叩き込まれたので、単位は取りやすそうだと、いい加減に選んだのだが・・・。



 ただ一つ問題があるとすれば、今最も会いたくない者が教室にいたことか。




(オスカール!)



 嘆きの叫びは心の内になんとか留めた。

 あちらも気まずそうである。顔を赤くして俯いてしまった。昨日何のフォローもなしにテンパって離脱してしまったため、どう対応すればいいのか見当もつかない。しかし、今は授業という逃げ道がある為に、そこへと逃げてしまう龍之介だった。

文字数を3000文字くらいにすることにしました。


今までは5000くらいだったんですが、なんか難しいんですよね

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