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15.Turn On

 レオの先程の言葉が脳内をぐるぐると回っている。あまりの事態に思考の高速化をしてしまうほど龍之介は混乱していた。


(あれか?あれだな。あれだよな。国王って言ったもんな。国王ってあれだろ?この国の最高位だよな?え、俺王子殴ったんだけど。しかも飯奢らせたんだけど。不敬罪じゃね?思いっきり。いやまあ多分逃げれるけど、問題はそういうことじゃなくて、じゃあどういうことだ?あ、本格的に混乱してきた)


「待ってリュウ、落ち着いて!君をどうこうしようってわけじゃないから。ね?」


 呆然としている龍之介をレオが慌てて引き戻す。


「ハッ!お前王子だったのか・・・」


「う、うん」(か、かなり混乱してたみたいだね。悪いことしちゃったかな?でもさっきの仕返しってことでいいよね・・・)


「やばいな・・・今日中に国外・・・は無理でも距離は稼いでおきたいな・・・」


「ちょ、ちょっと何夜逃げの計画立ててるの?!何もしないってば」


「お前がしなくても他の奴がどうこう言ってきたりしないのか?」


「そのへんも大丈夫だと思うよ。そもそも僕には護衛すらついていないからね」(僕が断ってるだけだけど)


「本当に大丈夫なんだな?ヤバくなったらお前を人質にして逃げるからな?」


「僕を人質にしてもあまり意味は無さそうだけどね・・・。とにかくそのへんは心配しないでくれよ」


「・・・わかった」(まあ、逃げれるだろうし、今はレオを信じておこう)


 こういう考え方自体が龍之介の"壁"を現しているのだが、本人はそれには気づいていないようだ。


「やっと本題に入れるね。えっと、どう言えばいいのかな・・・。僕は、これでも王族だから、色々と義務がある」


「まそりゃそうだろーな」


 あまり興味の無さそうな龍之介。


「うん、その色々の中にやっぱり報告ってのもあって、それでリュウに迷惑がかかるかもしれないんだ」


「どういうことだ?」


「リュウのことを父上に報告することになると思う」


「なんだやはり不敬罪か?」


「だからそれは心配しなくていいって。報告するのはリュウの能力についてが主だから」


「ああ目のことか?」


「そうだね」(正確には目のこと"も"だけどね)


「ん?それでなんで俺の迷惑になるんだ?」


 龍之介の問にどこまで話そうかと一瞬思い悩んだが、どの道いつかは起こりそうなことなので曖昧にごまかしておくことにした。


「リュウは自分の能力を過小評価しすぎだよ。多分これを報告したら謁見させられると思うけどね」


「それはいい迷惑だな、まったく」


 普通の人なら国王に会えるというだけで諸手を挙げて喜ぶものだが、龍之介という男は普通では無いのが基本なのでレオもそろそろ驚かなくなってきた。まあレオを王子と知ってなお態度を変えないのもまったくもって異常なのだが。


「アハハ、ごめんね。あまり僕も好きな言い方じゃないけど、王族の義務ってことで見逃して」


 レオが言わなかったのは謁見によって出てくる迷惑の話。国王と謁見すればそこには貴族も集まるし、騎士達も集まるだろう。

そんな中能力を証明させられるのだから、善も悪も明かりに群がる虫の様に寄ってくるだろう。それらに共通しているのは甘い蜜を吸おうとやってくるところか。

 そんな害虫の話をして気分を害す必要もないだろうし、なんだかんだリュウなら大丈夫という思いもあって、話しはしなかった。


「んましょうがないわな。いいよそれくらい」


 龍之介がそういう迷惑も含めての話だとわかっているとは露程も思わずに。


「ありがとう」


 それからしばらくして料理が来て、その話はそれ以降話題になる事はなかった。


 レオの言ったとおりここの料理は絶品で、食文化の発展した日本にいた龍之介でもまた来たいと思える味だった。


 食べ終わった頃には外もすっかり暗くなっており、特にやることもない龍之介は、一度城へ行くというレオと別れて寮塔へと戻った。






 寮の中は吹き抜けになっており、1階は学食らしき食堂で、2階から上は全て学生の部屋。階層は全部で99階まであり、一つの階に66部屋あると聞いた。

 螺旋階段が上へ上へと伸びているが一番上はよくわからない高さだ。50階のビルで150mと聞いたことがあるから少なく見積もっても300m級の塔ということになる。見た感じからするともう少し高いかもしれない。

 と、ここまで説明したが龍之介にとっては別の問題がある。


(恐らくは破壊防止とかそういう類のものなんだろうが・・・)

「目が疲れそうだな・・・」


 またしても立ちはだかる結界問題。見えてしまうのはこれいかに、と頭を抱える龍之介は、この学園でこの能力を抑える方法を見つけようと決意するのだった。


 龍之介の視界では壁も床も机も椅子も、鉢植えですら白い膜で覆われているように見える。煙のように揺らぐそれは遠近感が変になりそうで、その上少し発光しているように見える為目に疲労感が貯まる。


(これは早急に解決しないとなー)


などと思いつつも階段を登ろうとしてふと止まる。


「俺の部屋は・・・確か九九六六号室だったか・・・これ99階ってことだよな・・・」


 上を見上げればそのまま天へ昇ってしまうのではというほどの螺旋階段。


「これを登って行けというのか・・・」


 もちろんそんなことはなく、備え付けの魔法具に行きたい階を言って魔力を流すと魔法陣に乗ってその階まで螺旋階段を滑り登るのだが、そういう大事な事は概ね書いてある(・・・・・)ため、龍之介がそれを知るのはもっと後だ。


「跳ぶか・・・」


 周囲には生徒もそれなりに徘徊している。授業時間外の為制服を来ている生徒は少ないが、それでも普通のボロを着ているような格好の龍之介は目立っている。

それを差し引いてなおこの99階までの螺旋を登る気は起きないのだった。何せ一つ階を上がるのに円周で100m以上あろうかという螺旋階段を歩いて登らないといけないのだ。99階までとなると10km前後になる。平坦な道ならまだしも階段となると恐ろしいことこの上ない。


「まあ音速を超えないようにすれば大丈夫だろう」


 そうこともなげに呟いて魔力を足に集中させる。

 身体強化を効率よく大きな効果で発動させるにはイメージとタイミングが重要だ。

 視力や聴力といった恒久的強化は一定の魔力を消費するだけでいいのだが、他の運動能力を強化する場合にはただ魔力を流し続けるだけだと効率も燃費も悪いものになる。

 そこで龍之介が出した答えは微量の魔力だけを全身に流し続け使用するタイミングで強化したい分だけ魔力を流すという方法だった。微量の魔力を流し続けるのはそうしないと防御面に不安が残るのと、強化するタイミングで必要な魔力量が多くなり結果的に燃費が悪くなるためだ。視覚と聴力を強化するのに結局流しっぱなしになるので、今の形に相成ったというわけだ。


「落ち着いて10階ずつくらいで行くか」


 一度に頂上まで行けるかもしれないが、それをやると恐らく音速を超えてしまうと判断した。魔力障壁で体は保護されるから別段問題は無いが、発生するソニックブームの爆音と衝撃波は小さくない問題になってしまうだろう。


「フッ!」


 小さく息を吐いて、足に力を込める。同時に足の指から脛、脹脛、太腿、背筋と順にイメージしてそこに魔力を送り込み身体強化を発動する。

 タンッと軽く地面を叩く音がしたかと思うと、龍之介の体は9階の螺旋階段の手すりの上まで移動していた。


 当然、周りにいた生徒達は目の前の異常事態に目が点になっているが、龍之介は気づかない。

 本来身体強化には魔法陣も浮かぶし詠唱も必要で、尚且つ魔法に才のある熟練者でも10mを飛べれば良い方である。

 それが目の前でいきなり30m超えの大跳躍を見せられたら驚きを通り越して夢を見ているような気分だろう。しかも跳んだのは自分と大して年の違わない少年だったのだから衝撃も大きいというものだ。


 だが先程も言ったように龍之介はそんなこと全く気にしないので続けて約10階ずつを跳んでいく。


 こうしてソニックブーム以上の問題になってしまったことを知らないまま99階にたどり着いた龍之介は、九九六六号室を探すのだがここでまた困った。


「俺字読めないんだった」


 ここに来た目的のひとつを完全に失念していた龍之介。


 扉を見るとどの扉にも[DD]で始まる4つの字が書いてあるので、D――アルファベットのディーではなくて半円だと思われる――というのが9の数字にあたるのではないかと推測できる。

しかしその後の二文字は規則性はありそうだが、生憎解読の心得が無い龍之介にはわからなかった。


 仕方がないのでそのへんの生徒に聞くことにする。

 ちょうど良く歩いてくる十人弱の男子生徒の集団を見つけた。学園だからなのか、王都にある学園だからなのかはわからないが、魔力持ちの生徒が多い。

 龍之介は第一村人発見の心境で接触を図る。


「ちょっといいか?」


「ああん?んだてめぇ」


 どうやらハズレを引いたようである。よくよく見れば柄の悪そうな連中だ。見た目も装いも違えど、こういう不良という輩はなぜこうもわかりやすいのかと愚考する。

 先頭を歩いていた少年が威圧的な声で睨みつけてきた。


「俺は明日から編入するんだが部屋がわからなくてな。それを聞きたいのだが?」


対する龍之介は絡まれたからといって絡み返す残念な精神構造はしていないので、あえて要件だけを伝えて穏便にすまそうとする。


「すかしたヤロウだな。教えてやるから金出せよ」


 龍之介の試みは失敗に終わったようだ。まあ龍之介の目つきがデフォで睨んでいるように見えるというのは本人も自覚するところである。


 しかしリーダー格っぽい金髪少年が凄んできても、龍之介には小指ほどの威圧すら与えられていない。リーダー少年はそれに気づかずになおも距離を詰めてくるし、周りの取り巻き連中はニヤニヤと下衆い笑みを顔に貼り付け成り行きを見守っている。


 龍之介は溜息を軽く吐いて、リーダー少年に懐から取り出したように見せた銅貨1枚を投げつけた。

 ちなみに金銭は吸収してもさほど容量を使わないので全て吸収している。金銭的価値は容量に影響を及ぼさないようだ。考えてみれば当然かもしれない。


 リーダー少年は銅貨を上手く掴み取り、手のひらにあるそれを見て数秒固まった後、再び龍之介を睨みつけてくる。


「なんだこれは?」


「お前が金が欲しいっつったんだろ。知ってるか?それは銅貨だ」


 相手が穏便に済ます気がないのなら龍之介としてもむざむざやられるほど特殊性癖を持っているわけではない。

 左の頬を打たれたら、相手の右目を潰せ!とは格闘術の教官の言。教官曰く、慈愛だなんだというのは何かを守る上では糞の役にも立たん、だそうだ。

 龍之介としては、それは極論だろ、という心境だったが、あながち間違ってるとも言い難かったのが心に残った。


 リーダー少年は龍之介の安い挑発にいとも簡単に乗ってくる。


「『身体強化』!なめんなクソが!」


(こんな挑発に乗るなよ三流が。人の上に立つ器じゃねーな)


 リーダー少年が詠唱破棄で身体強化を使い殴ってきた。


「ヌルい」


 つまらなそうに呟くと殴ってきた相手の右拳を、体を左にそらしながらいなして手首を取る。そのまま小手返しの要領で腕を右側に持って行き、強化した腕力で相手を引き寄せる。

同時に相手の足を、こちらの右足で払って体制を崩しつつ半歩下がる。

 寄ってくるリーダー少年の顔面テンプルにカウンターの要領で右の肘鉄を当て脳を揺らし、腹に膝を入れて胴を浮かし、すぐさま肘で腎臓あたりを狙い撃ちにして地面に叩きつけた。

この間3秒も無い。

取り巻きの連中は殆ど何が起きたかわかってないはずだ。


 地面に強かに叩き落とされたリーダー少年は、泡を吹いて痙攣していた。


「さて・・・お前ら」


 龍之介が取り巻き連中に目を向けると、全員がビクッと体を強ばらせるのが見て取れた。


「9966号室はどこだ?」


 質問は単純だが、その目にはさっさと教えろという念が込められているのがわかる。


「おおおおおおおおい、おおお前案内しろ!俺はギグを部屋に寝しに行くからよ!!」


 どこか幼げな雰囲気の残る生徒が龍之介の案内を押し付けられ困惑している間に、他の取り巻きも最初の一人の鶴の一声に我も我もと、リーダー少年の体を7、8人で抱えていった。


 残された二人は呆然をその姿を見つめる。


「「絶対何もしてない奴|(人)いるだろ(でしょ)」」


 そして同時に呟いた。

 苦笑しつつ振り向いた少年の顔は恐らく龍之介より年下で、


「行きましょうか」


落ち着いた雰囲気で歩き出すのだった。

王子の特性は電気でした。

龍之介の能力もっと出したいんですけどね・・・・・・

中々展開を持っていけませんorz

学園ならやりやすいと思うので頑張りますよ!


ではこれからもよろしくお願いします。


12/29 御指摘の多かった、階段とか高さとかの部分を少し修正しました

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