13.Friendly Fire
前回、というか前々話の投稿でお気に入り40件に行ってビックリしました。
今後ともよろしくお願いします。
お気に入り増えるだけでモチベーションがこんなに上がるとは思いませんでしたよ( ・∀・)b
広い学園の敷地を歩き建物の一つに入る。中は大理石の様な石造りが多く、かなり綺麗に造られていた。
階段で3階まで上がり更に廊下を進んでやっと目的の部屋に到着した。
「さて、まずは自己紹介といこうかね。あたしゃマチルダ。ここの学園長をさせてもらってるよ」
「私はマリスリース=ブラジウスです。この学園の文科教員をしています」
「周防 龍之介だ。龍之介が名前で周防が姓になる」
聞き慣れない名前に二人が首をかしげたので説明を入れた。
「まーいろいろ変な奴だってのは聞いてるからね。気にしないでおくよ」
「そうしてくれると助かる」(逆にこっちが気にするわ。あのじいさん何吹き込んだ?!何だよ変な奴って)
「元々あんたには試験を受けてもらう予定だったけど・・・さっきので実力は大体わかったしね。合格でいいよ」
「へ?試験?合格?」
マチルダの言葉に反応を示したのは龍之介ではなくマリスリースだった。どうやら龍之介について知らなかったようだ。
「こいつは編入生としてあんたの組に入るんだよ。しっかり面倒見てやんなよ」
「私の組にですか・・・。大丈夫なんですか?第十三組ですけど・・・・」
「字が書けないこと以外は充分さね。どの道字を習うのは選択授業で受けれるんだから心配はいらないだろう」
「ああ、よろしく頼む。名前長いからマリリでいいか?」
「スは?私のスはどこにやったんですか?!」
「いらないだろ。スースーする」
「何ですかそれ!人の名前をなんだと思ってるんですか!というか呼ぶなら先生をつけなさい!」
「わかったよマリリ。わかったから落ち着け」
「うわー先生って呼ぶ気無いですね」
「おやおや大丈夫そうだね。じゃマリリ先生頼んだよ」
「学園長もですか・・・」
「さてまとまったところでリュウノスケには色々と説明しないとね。面倒だろうけど聞いてくれ」
「まとまってないです」というマリリ先生の抗議は当然無視される。
「よろしく頼む」
「そうさね。まずはこの学園について大まかに説明するかね」
それからはマチルダによって学園の説明を受けた。
ウィズルース王立学園。全校生徒は8000を超えるとか。更にその内3割が貴族というとんでも学校だった。ただし8000人と言っても、小、中、高、総と地球と同じように4段階に分かれているのでそう考えると、やっぱり多いが納得はできた。
地球の制度と違うのは、小等部入学が最低9歳から10歳でそこから3年ずつ上がっていくというところ。
学年はそれぞれ小等部一年から高等部三年まで順に灰>白>薄紫>紫>青>緑>黄色>赤>黒とフォルザの階級と同じような色のスカーフの様なものを襟に巻き判別され、生徒は学校指定の制服を着るそうで、これらは明日渡される。
総等部はそう言った着用義務のような物は無く、話を聞くにどうやら半分社員みたいな感覚だ。そのまま宮仕えになる事もあるとか。
制服は生徒である証明にもなるので王都内で色々と優遇されることもあるらしい。
小等部と中等部で教えている内容は、共通語の読み書きと簡単な――龍之介から見て非常に簡単な――計算と実技の3つが主で必修である。
この実技というのは、剣術や魔法に始まり料理や狩りなど職に直結するものという考え方だそうで、中等部卒業までには何かしらの職業につけるようになるらしい。というかしっかり能力を身につけていないと留年するので学園の卒業生、特にここ王立学園の卒業生は質が良いと評判だそうだ。
高等部に入ると選択授業というものが加えられる。
必修科目として歴史と少し難易度の上がった――龍之介にはまだまだ簡単な――計算、そして実技を学び、選択科目はかなり種類が多いため後で自分で見ろと言われた。
ちなみに高等部からは義務制ではないが、スキルアップや就職率を考えて進学する生徒が多い。中等部までで終えてしまう生徒は、既に家を継ぐことが決まっている平民だったり、職に才能を見出して師に引き抜かれていったりが殆ど。
貴族達は高等部まで出るのが一種のステイタスになっている為、ほぼ全員が高等部までを卒業する。
総等部は学者を目指す者が多い。魔法師は皆総等部までを修める。
それから一応、学園内では生徒の身分は平等とされている。一応というのは、どこにでも権力を笠に着る輩はいるもので、なまじ将来の出世などにも無関係ではない為に学園側も持て余しているのが正直なところらしい。龍之介としては貴族なんかと関わると問題が多そうなので極力避けることに決めた。
一通り重要な校則を聞いた後、施設の説明を簡潔に受けて入学説明会は終わった。
「あんたは高等部一学年第十三組だ。まー簡単に言うと成績最下層の集まりさね。嫌かい?」
「むしろいいさ。それだけ貴族様とお付き合いすることも無いだろうしな」
「言うねぇ」
「は~問題児の予感・・・」
龍之介の言葉に、マチルダ学園長はニヤリと笑いマリリ先生は大きな溜息をついた。
「たけーなー」
最近独り言が増えてきた気がする龍之介だが、ネッドと別れてまた独りになってしまったので見逃して欲しい。
今龍之介が立っているのは学園内の巨大な塔の入口だ。この塔が学生寮になっており、等間隔に窓があるのが見える。形はシンプルに円柱型で飾り気のない白い石でできているが、よくわからないツルツルとした肌触りの石だった。
直径は・・・・・・よくわからないくらい長く広い。全高もまた然り。まあ建築技術とか細かいところは魔法が解決してくれていそうなので気にするのは止めた。
入口は大きめの両開きの扉だった。黒く塗装されているが木製で重厚な雰囲気を醸し出している。
何やら中が騒がしい。10mほど離れたこの位置にも中の音が漏れている。それも楽しげな雰囲気は全く無い。罵声怒声の類だ。
(これはまずい。俺の本能がこの先は面倒事だと訴えかけている。しかしここを進まねば俺は自分の部屋を拝むこともできない)
どうしたものかと悩んでいると勢いよくドアが開いた。同時にまず出てきたのは溢れんばかりの青白い魔力。その量は龍之介でも身構えるほどで、明らかにドュルマンやマチルダよりも多い。
そしてドサリと尻を突き出して倒れこむ一人の男子生徒。銀髪で白い肌の作り物のように整った顔で赤い瞳は優しい光をおびている。だがその表情は悔しさや悲しみを隠そうとして隠しきれずにいるのが龍之介でも見て取れた。
「魔法もまともに使えない欠陥品が、私に意見しないで頂きたいですわ」
寮の中からそう声が聞こえたが、誰が言ったのかは目の前を遮る魔力で見えなかった。
「これは新手のボケか何かか?」
「恥ずかしいところを見られちゃったかな。ハハハ・・・」
尻を突き出した少年の虚しい笑いが龍之介の問いの答えになっていたかは甚だ疑問である。
「怪我は無いのか?」
「大丈夫。よくあることだから・・・。僕はレオールド。高等部の一年だ。君は・・・」
「俺は龍之介。明日からここに通うことになった。同じ高等部の一年だ」
レオールドが着ているのが制服なのだろう。黒地で裾などに白の細いラインが入ったギャンベゾンに似た服だ。夏服なのか薄手で動きやすそうだった。
先ほどの騒動で所々土が付いて汚れてしまっているが、レオールドの容姿と相まってかなり上品に映った。
「まだ新年度1ヶ月で編入?名前も珍しいね」
「そういう面倒なのは無しにしよう。俺も説明するのはめんどくさいんだよ」
「ハハハ、わかった。これからよろしくね、リュウ」
「リュウ?」
「その・・・・呼びにくくはないんだけど長いかなと思って、ダメ・・・かな?」
レオールドの問いかけに少し考える龍之介。と言っても断る理由は全くなく、実際日本にいた頃もそう呼ぶ者はいたので違和感もない。
「いや構わない。そうだな、なら俺もお前のことはレオと呼ぼう」
龍之介がそう答えると、レオはしばらく龍之介を見つめて固まった後、男女関係なく見惚れる様な眩しい笑顔で「ありがとう」と言った。
案の定龍之介には何の礼か理解できなかったが、レオはお構いなしのようだった。
「で、さっきのは何だったんだ?喜劇の練習ってわけじゃないだろ?」
「うん、どちらかというと日常の悲劇かな」
「詳しく聞いてもいいか?」
「いいけど・・・・どうして知りたいの?」
レオにとってこういうことを聞かれるのはたまにある。話を聞いて、レオの身分を知ればみな離れていく。
持て余すのは目に見えてるし、レオもそれを咎めることはしない。だから今回も多分目の前の彼は話を聞いた後は自分と距離を置くだろうと、そう思っている。
龍之介にはわからなかったが、今レオの瞳には怯えや不安という色が渦巻いていた。
「さあな。特に知りたいわけじゃないけどな実は。でも俺は理不尽が嫌いなんだ。さっきの光景に理不尽を感じたのさ。ただそれだけだ。例えば話を聞いてお前がどうしようもないクズだったらそこではいさようなら、ってわけだ。ほらもういいだろ?話すか喋るかどっちかにしろよ」
「いつの間にか選択肢が減ってる?!」
「なんだ贅沢な奴だな。じゃあ話すか喋るか白状するかだな。どれか選べ」
「全部同じじゃないか!は~もうわかったよ。話すよ。話せばいいんだろ?」
「面倒な奴だな。最初からそうしろ。うじうじ物事を引き伸ばすな」
傍若無人な龍之介にレオは苦笑するしかなかったが、先ほどの不安や怯えが嘘のように消えてるのを感じた。
(変だけど安心できる奴だな・・・・。リュウになら話してもいいか)
レオは一度深呼吸すると、ゆっくりとだが真剣な面持ちで語り始めた。
「僕はこれでも身分のいい家の長男なんだ。
うちは代々男が家を継ぐんだけど僕は3番目で上は二人とも姉で、この二人がまたすごい優秀でさ。やっと生まれた僕もかなり期待されてた。子供だった僕でもわかるくらいにね。
僕の家計は遺伝で炎魔法に特性が強くて、父も、今は死んじゃったけど祖父も有名だった。でも・・・・僕は炎魔法がうまく使えなかった。全く使えないわけじゃない。
魔力量はそれこそ神童と言われるほど持ってるらしいんだけど、下位の火魔法ですら失敗する始末でさ。他の系統の魔法も大差ない程にしか使えなくて、剣や勉学に才があるわけでもないし、魔法を克服するために時間を費やしていたら他のことも疎かになって、悪循環だね。
一つ下にいる弟が出来がいいのもあって、中等部に入る頃には誰も僕に見向きもしなくなってたよ。その弟だけは今も応援してくれてるけどね。
僕自身は軽く人間不信になったよ。みんな手のひら返すように僕を欠陥品扱いするんだもんな。ハハ」
最後の笑は自嘲かはたまた現実に対する諦めか。どちらにしても龍之介の好きな類のものではなかった。
(なるほどな。才能に恵まれず、努力しても報われず、信じていた者には裏切られ、か)
「さっきのは幼馴染なんだけど父の仕事仲間の一人娘だよ。昔はよく一緒に遊んでたんだけどね。僕に才能が無いってわかるとだんだん疎遠になっちゃって、高等部で久しぶりにばったり会ったと思ったら、なんだか知らないけど怒られて、理由を聞いても教えてくれなくて、さっきのもそういう言い合いの内に相手が怒っちゃってさ。見事吹き飛ばされたってわけハハハ」
(お前が不幸なのはよーくわかった。わかったよレオ。だけどな・・・・)
龍之介は思う。自分とレオは似ていると。似た者同士なのだと。境遇としては正反対のようで紙一重に違うだけかもしれない。それでも、似ていると思った。だから・・・。
「甘ったれてんじゃねー!!」
思い切りぶん殴る。