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12.学園到着

「行かねーってどういうことだよ?」


「ああ、行かないというのもあるけど、行けないってのが正しいかな」


「行けない?」


「ああ、まずは行かないという話から。俺の出身の村はここから西に行ってすぐだ。家族が他の場所に移り住んでることも無いだろう。そんな裕福な家でもなかったしな」


「その通りじゃの。ネッドが奴隷になる前と同じ家に今も住んどるわい。兄が家を継いでおったがな」


「うん。俺は仕送りでもしようかと思ってる。ここで冒険者を続けてな。王都まで行くのは遠すぎるからな。あまり行く理由がない」


「まあ、わかる、がな。行けないってのは?」


「行けない理由は簡単に言うと金さ。俺にそんな資金もないし、これ以上リュウノスケに世話にもなりたくねーよ。リュウノスケは魔力の量っていう理由があるから、フォルザか国から何かしら支援を受けれる算段があるんだろ?」


「それもその通りじゃな。儂の推薦状にもその旨は入れておくつもりじゃ」


「そう。だが俺にはそれもない。特に秀でた才能があるわけでも無いからな。学園に通える年でもないし、今更勉強もしたくねーしな」


「ふむ・・・・・・。そう、か。わかった」


 龍之介もなんとか納得したようだ。まあ元々人との出会いだ別れだに無頓着な方ではあるのだが、この世界に来て初めての友人と言える間柄だっただけに、惜しくないと言えば嘘になる。だが人の決断をわざわざ覆そうとするほどに情に厚くはないのもまた龍之介なのだった。


「まとまったようじゃの。龍之介の出立は一週間後くらいを予定しとる。実はもう書も送ったでの。王都から迎えが来るはずじゃ」


「このじいさん断らす気なかったな・・・」


「それだけぬしが規格外ということじゃ」


 龍之介の呆れ声はニヤリと笑いながら返された。







 出発の為の身辺整理に使った一週間はあっという間に過ぎ去り、王都からの使者が来たのが昨日。

なんと馬車ではなく竜車とかいうものに乗ってきた。竜はヴロトの様な龍とは体の造りからして違うようで、見たところ巨大なトカゲだ。竜は騎竜として使われたり、貴族達が自分専用の移動手段として使ったりするらしく、用途によって飼われる種類も変わってくるらしい。

 今回のような送迎用には足の速い竜で来たんだとドュルマンから聞いた。


 アイフェストの西門に龍之介とネッド、ドュルマンが竜車の傍ら別れの挨拶をしている。メタカさんは今日も仕事なのでここには来れない。

龍之介が少し残念がっていたのはネッドを驚かせた。龍之介はあの声をもう一度聞きたかっただけだが。


「またな、リュウノスケ。たまには会いに来いよ」


「ああ、ネッド。無理して死ぬなよ」


「お前も、変に貴族に絡んで殺すなよ?」


「俺が殺すのかよ」


意味もない言い合いをしていれば、そろそろ出発の時間だと御者に告げられる。

線の細い大きなトカゲに繋がれた車に乗り込み、窓から軽く手を振った。

ネッドとドリュルマンも軽く振り返し、それで別れの挨拶は終わる。




 ガタンと一度大きく竜車が揺れ、ゆっくりと進みだす。段々と速度を上げていき馬の速度も超え景色の流れが速すぎて見る意味もなくなるほどの速度になる。電車のブロック席を思い出す程の速度だと想像してもらえればいい。これで2日から3日の内に王都に着くそうだ。


 外の景色はめまぐるしく過ぎ去っていく。一瞬遠くに集落が見え、獣人(ティエニ)が畑で何かしていた。

しかしすぐに森の様な木々が生い茂る景色に変わったかと思うと、またすぐさま草原広がる景色になった。

 車の中は世界が断絶されたように静かだ。久しぶりの一人の空間で広大な草原が流れていくのをただ見つめていた。







 王都に到着したのは二日後の昼過ぎ。道中は携帯食料のような簡易な物しか口にしてなかったので、何かまともなものが食べたい。

などという龍之介の意向は当然の様に無視され、アイフェストより数段騒がしい都内の景色を眺めながら竜車はどんどん進んでいく。

種族の入り乱れ方がこれまたアイフェストの比ではない。そこらじゅうにティエニやらエルフィーやらバーグやらが見える。人間との割合も7対3か下手したら6対4程になるかもしれない。さすが王都ということなのだろうか。


 しばらく王都の中を進んだ後、開かれた大きな門の前で竜車が止まる。御者が到着した旨を伝え龍之介が下車すると、竜車は別れの挨拶も無しにさっさと行ってしまった。

 目の前には大きな門。しかし壁に囲われた敷地は虹色のドーム状の膜によって覆われており、中を確認することはできない。壁に字の掘られた銘板が埋まっているのを見ると、ここが学園なのだろうことが想像できた。

 龍之介はここにいても始まらないと思い、早速敷地内へと足を踏み入れ・・・・ようとした。


(ドュルマンのじいさんは学園長に推薦状渡せばいいって言ってたけど・・・)

「通れないぞ、これ」


 虹色の壁はどうやら結界の様な物らしい。それが行く手を阻み、門より奥へと踏み入れることを許さない。


「殴ったら壊れるかな?」


 通らないと学園長も何も誰にも会えないので、まずは軽く普通に殴ってみる。するとバチンという破裂音と共に拳が弾かれてしまう。

ならばと魔力である程度覆ってから殴ってみる。今度は弾かれることはなかったが、結界と拳の接点がバチバチと音を立て、危ない発光現象が起きている。


「もう少し強くすればいけそうだな」


 三度目の正直ということで、拳を覆う魔力を更に増やし念の為身体強化まで使って結界を殴る。と、拳が結界に触れた瞬間に殆ど抵抗なく穴が空いた。穴は拳一つ程度しかなかったが、魔力の膜にひび割れができていたので、それを魔力で覆った両手でバリバリと広げる。


(こんなもんか?・・・よし、通れそうだな)


 本人は気づいてないが思い切り不法侵入である。ただ龍之介としては学園長に会わないといけないという使命感にも似た気持ちで動いている為、少々、いやかなり盲目的に行動している。


「ほー広いなー」


 門の外からだと結界で覆われて見えなかった部分が、中に入ると見えるようになった。

 ここは王都の外れなのだろうが、それでもこの広大な敷地と用途不明の多数の施設を前に心踊らずにはいられなかった。


 だがはしゃいでいたのも束の間、突然地面にオレンジ色に発光するいくつもの魔法陣らしきものが出現し龍之介を囲む様に数を増やしていく。龍之介は本能に近い反応で数を数えたが、20あたりで止めた。


「こりゃ派手なお出迎えご苦労なこって」


 魔法陣から現れたのは人型の土の塊だった。ただしその全てが2m以上の高さを持つ。

人型といっても本当にシルエットだけで、頭部は凹凸もないまっさらで、腕の形は少し歪。拳の辺は鉄球のように黒々とした土塊のボーリング玉くらいの球をぶら下げている。脚部は脛のあたりが鋭角に作られており、あれで蹴られたら痛いに違いない。


「あれだよなー。侵入者の排除だよなー、これ」


 適当にあしらっていれば誰か人が来るだろうと、希望的無謀な憶測で身体強化を使い構えを取った。

それを見た――目は無いので厳密には見てないが――土人形達は一斉に龍之介に肉薄した。


「っしゃー!来いオラ!」


 静かな敷地内で無言の土人形達と戯れるのは視覚的に痛いと思い、気合を入れてみたが逆に痛々しかったなと思いつつ、土人形を順々に捌いていく。

思ったよりも硬度は低く、拳を落ち着いて当てていけば簡単に粉々に砕ける。だが問題はその後だった。砕けた土は再び集合してもとの形を取り戻し、すぐに龍之介に襲いかかる。


「無限組手かよ。上等だ畜生め」


悪態をつきつつもそれほど焦りはない。土人形はそれほど脅威にはならない為精神的にもそれほど苦痛はない。ただ時折、意外な攻撃来るのが厄介ではあった。

今も腕をとって一本背負いと同時に腕をへし折ったら、首を180度回して前後が反転した。

正直気味が悪いが、戦闘中なので気にせず顔面を砕く。かといって頭部が弱点なわけでもないのでそのまま攻撃は続けられる。

それでも慌てることなく一体一体に行動不能になる程度のダメージを与えていく。すぐに復活はするが、それにも時間は稼げるのでさっさと誰か来るのを祈るばかりだ。

相手が無尽蔵に復活してくるかもしれない以上、魔力を食う吸収はなるべく使いたくないし、そういう消去法で殴り倒していくのが実は一番効率がいいと判断して泥まみれの肉弾戦へともつれ込む。


「はやく誰か来てくれよなー」


龍之介の願いは虚しく響くだけだった。




 人が来たのはそれから大分経って、もう倒すのも面倒になりひょいひょいと回避だけに専念するようになってから更に時間が経った後だった。もうかれこれ30分以上は土人形と遊んでいた気がする。


「なっ!無傷?!」


 龍之介を囲む土人形の隙間から白いローブを着た女性の姿が見えた。体を覆うオレンジ色の魔力量はなかなか。声は若く感じたので年はそれほどいってないのだろう。服装からは生徒なのか教員なのか判別できなかった。


「あー、っと、こいつら、を、止め、れるか?」


回避しながらなので言葉が途切れ途切れになる。


「と、止めるですって?侵入者が何を言ってるの?!」


「いや、侵入、者ってか、学園長、に、会いたいん、だけど?」


「し、侵入者を学園長に会わすわけにはいきません!!」


(駄目だこいつ。話聞かない典型か?このアホっぷりは生徒であってほしい。もっと話せる奴は来ないのか・・・)

「えと、わかった、から、誰か、先生、を、呼んできて、くれ!」


「私は教員です!!」


「んなアホな?!」


あまりの驚きに一息で言えてしまった。


「あ、アホってなんですか!私はちゃんとした教師です!とにかく侵入者は」


「おやおや穏やかじゃないねぇ」


 突然しわがれた女性の声が聞こえてきた。女性教師よりも奥の方にに60代くらいの女性が立っていた。


「が、学園長!」


 女性教師が振り向いて叫ぶ。どうやらあの女性が学園長らしい。そうと決まれば話は早い。

 足の強化を強めて一気に土人形の包囲網を抜け、そのまま学園長の前へ出る。懐からドュルマンにもらった推薦状を取り出しすっと差し出した。

女性教師は驚きで目も見開き、土人形達も標的を見失ったようで動きが止まる。しかし学園長は全く動じずにいる。


(ほお、この魔力量。さすが学園長なだけはある、か)


学園長を覆うのは緑青色の魔力で、その量はドュルマンと同等かそれ以上に思える。


「話は通ってると聞いたんだがな。ドュルマンのじいさんからの推薦状だ」


「なるほどね。あんたが魔力バカの坊主かい。こりゃたまげた。欠陥王子よりも多いんじゃないかい?」


「あー、そのケッカン王子が誰かは知らないが、早くあの土人形を止めて欲しいんだが?」


「あの数のクレドを無傷であしらって息も切らさないとはね。なかなかやるじゃないか。マリスリース先生、止めておやり」


「し、しかし学園長。そこの彼は結界を破壊してきた侵入者ですよ?」


「いいから止めな!少なくともこの推薦状は本物さね。どの道結界を壊す実力者だよ。あんたのクレドでどうこうできる相手じゃないだろ?」


「・・・はぁい」


渋々といった様子でマリスリース教員が何かを呟くと、魔僕(クレド)はボロボロと崩れて土へ返った。


「それじゃ、一旦あたしの部屋に行くよ。二人ともついてきな」


「え?私も行くんですか?結界はどうするんですか?」


「結界は自動で治るだろ。これからする話はあんたも関係あるんだよ。早くしな!」


 マリスリースは不満気な表情を隠しもせずに学園長の後を追う。

龍之介は特に気にする様子もなく二人の少し後を一定の距離を空けつつも追いかけるのだった。

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