第壱章・二 異世界人第一号?
今度は短し。文字数がアンバランスでorz。
目標は一話五千字程度なのですが……
「何だこれ?」
星夜が目覚めると、彼の瞳に不可思議な物体が映った。彼の顔先数センチの位置、右隣にちっこい人形――フィギュアもどきが寝息を立てていた。
全長が星夜の手の平程のミニサイズで、まさしく人型、それも肉体の凹凸具合いから、女性と思われる。
「これはまさか……ファンタジーの定番の小人……いや、妖精、なの、か……?」
推定妖精が寝入っているのを良いことに、星夜は彼女の頭から足の爪先までじっくりと観察する。
ピンク色の長い髪にヒラヒラした服装をした小人。その幻想的な美しさから妖精種と星夜は判断したのだが、背中から生えているのは羽ではなくて花弁に似ていた。
花……?
色々と意味不明の状況で、星夜は推定妖精の小さい娘っ子に顔を近づける。愛らしい顔で寝ていて、とても可愛らしい。口を大きく開いてアホ面なのは、ご愛嬌だ。
「は~、可愛いなぁ」
星夜の口元から怪しげな涎が滴り落ちていく。トロンとした目元が犯罪者のソレを思わせる。造形物を愛でるオタクの精神なのか、動物愛護のペットマニアなのか、とにかく目つきがヤバい。
星夜がねっとりと興味深げに、妖精娘の全身を舐め回すように見渡すが、彼女は一向に動かない。
まさか睡眠を再現しているだけの只の人形か? などと斜め四十五度の結論に至りそうになり、星夜は首を傾げながらも行動に移る。
「生きてるよな?」
試しにちょんっ、と触れてみる。刺激を与えてみた。
「ひぅっ」
星夜の指がぐにっと頬に突き刺さると、妖精娘が飛び上がるようにして跳ね起きた。生きていた。
娘は寝起きでボケているのか、周りにキョロキョロと視線を彷徨せ、星夜と目線が合ったところで停止した。
そして次には腰に手を当てて、頬を膨らませて、星夜に人差し指を向けた。
「ちょっと! 今のは女の子に失礼なんだよ! マナー違反! 減点"一"なの!」
「……えっと、どちら様で?」
愛らしい声での苦情をサラリと無視して、星夜が問い掛ける。彼の心の中で"萌"の狼が吠えまくっていたが、そこはぐっと自制した。今さっきマナーがどうたらと指摘されたばかりなので、余計に暴走する訳にはいかない。
星夜の素朴な質問に、羽娘は顔をパアっと輝かせて喋り出した。
「えっとね、ワタシはね、ティックなの!」
「へぇ~、で?」
もっと聞かせろ、と先を促す星夜に、妖精娘――ティックがテンション高めにバンザイのポーズを取る。先程まで寝ていたからなのか、やたらと元気なティックだった。
さらにティックは、星夜に詰め寄るように、捲し立ててきた。
「あのね、お空を飛んでたらね、迷子になっちゃって、ちょうどいい休憩所があったから休んでたの、テへ」
「そうか~、ぐふふ、そうなのかぁ」
「うっ、なんか、目つきがいやらしいの! 身の危険を感じるの。こういう時は……確か……えっと……そうだ! ……でもぉ……うぅ、ええいっ!」
「うん? どうしたのかな?」
「父様直伝アッパーキーック!」
怪しい目つきで、ずいっとにじり寄ってくる星夜に危機感を覚えたティックは、何かを逡巡した後、強い決意を秘めた瞳で動き出した。
ティックが飛び上がり、足が星夜の方を向く。
(浮いた? どうやって? いや、それよりそんな角度だとモロに見えそうな……)
星夜が不埒な思考をする最中、ティックが矢のように飛んでいく。彼女の両足が絶妙な角度で、星夜の顎を捉えた。下から突き上げだ。突然の不意打ちに、星夜は舌を噛んでしまい、間抜けな声が溢れ出る。
「ぬべしっ」
「正気に戻った?」
「ぃあ……ぞ、ぞのようで」
「あぅ、ご、ごめんね」
「い゛や、だいじょうぶだ。ぎ(気)にずるな」
可愛いは正義。寛大な心で星夜は大人の余裕を見せる……見せているつもりだったが、悶絶している姿では様にならない。
それにこの後、星夜は今の考え方を変えることになる。
ここからティックの一人トークが始まった。
「それでね、それでね!」
やたらとテンションの高いティックが、休む暇なく喋り続ける。余程に人恋しかったのだろうか。とにかく止まらない。
始めは気持ちよく聞いていた星夜も、段々とげんなりしてきた。そして話の大半は耳を素通りさせる。これに限る、と星夜は悟っていた。次第には流し聞きをするにまで至る。
「こらーっ、人の話を聞けーっ!」
星夜のそっけない態度に業を煮やして、ティックが星夜の髪の毛を引っ張り始める。だがティックの力では痛くも痒くもない。
ティックの性格によるものなのか、この数分で二人は妙に仲良く(?)なっていた。何でか、妙に懐かれた星夜であった。
更にティックの会話が続く。
「この四枚花弁は幸運を呼ぶって言い伝えなんだよ! 凄いと思わない?」
ティックは花妖精という種族らしい。背中から生えた四枚の花弁がプロペラのように回転して飛んでいる。花弁は透明でうっすらと虹色の光沢を放っていることから、羽と呼ぶに相応しい美しさだ。
花妖精はその殆どが二枚花弁か三枚花弁である。その点、ティックは希少種だった。
花妖精の里では重宝されるであろうティック。それがどうしてこんな場所に一人でいるのかという話題に入ると、暗い顔をし出したので、星夜はあえて問いたださなかった。色々と事情があるのだろう。聞かれたくないことならば、それを聞く趣味を星夜は持ち合わせていなかった。
幸運――確かに四葉のクローバーみたいで、幸せを呼び込みそうではある。
星夜はどちらかと言えば、運に見放されて、強い悪運で救われるタイプだ。幸運が舞い込むならば、是非そうして頂きたい。
「はぁ、疲れた……ちょっとコレは違うかな?」
華やかで儚い妖精をイメージしていた星夜には、目の前のお喋り妖精とのギャップがあり過ぎた。
五月蝿い。いつになったら会話が途切れるんだ?
流石のファンタジー愛好家の星夜でも、これには苦言を呈した。
「ちょっと休憩しないか? 喋りすぎだぞ」
「ええーっ、ケチぃ」
ぶーっ、ぶーっ、言っているが、この際無視だ。
この広い海の上、消費カロリーを抑えるためにも、やかましいだけの連れなどいらない。星夜が望むのは、お淑やかな姫君だ。
出会った当初の甘いオーラが一変、星夜は拒絶オーラを全開にして、ティックを冷たく流し見た。
「男の子は細かいことを気にしちゃいけないんだぞ!」
「俺の性格だ、悪かったな」
「それはね、これから直せばいいと思うの! だから許してあげるの!」
「はぁ~、何故、上から目線なんだ……」
当初、一休みするだけの意図で星夜のイカダに降り立ったティックだったが、今では当たり前のように星夜に同行していた。
軽い調子で文句を言っていた星夜も悪い気分ではなく、ティックも星夜の肩に止まって終始笑顔だ。
星夜のお小言が効いたのか、今ではティックの会話の頻度も落ち着いていた。
「何か海が紫色に濁っているな」
ひたすら西へと船を向けていると、海の色が変わってきた。青から紫へと不気味に変化したのだ。毒々しい色合いに、星夜も何かが起こりそうな予感を否定せずにはいられなかった。
待ってましたとばかりに、ティックの解説が始まる。
「この辺りは"死海"なんだね」
「死海?」
「そうだよ、魔素が濃い場所は強力な魔獣の棲家。この死海もその一つなんだよ」
「……ということは、ヤバい魔獣がゴロゴロしている訳か?」
「うん、その筈なんだけどね……さっきから妙にいないんだよね」
ティックも不思議そうに考え込んでいる。
普段と違うということは、異常事態ということだ。
またか。
どうしてこうもトラブルが舞い込むんだ。まさか自分はトラブル体質だったのか? お願いだから違うと言って。
星夜は遠い目をしながら、必死に自分はそうじゃない、と言い聞かせる。そんなことはある筈がない。
それに魔獣がいないのなら嬉しいことじゃないか。
魔獣との連戦と異常事態のどちらが良いかというと、星夜には判断がつかない。結論、どっちでもいいや、というのが星夜の考えだった。
「まさか……」
「……? どうしたんだ、何か心当たりでもあるのか?」
天真爛漫なティックにしては珍しく、青い顔で呟いているのを見て、星夜が彼女の顔を覗き込む。心なしか震えているようにも見える。
数瞬の間を置いた後、ティックはありえないと首を横に振った。
「な、何でもない……気のせいだよ」
「ならいいんだが――」
オオオオォォォォォォゥゥッ
その時、大気を震わせる強大な咆哮が辺りに響き渡った。




