表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

9:ついにデート!

 駅の改札を出て、すぐのところが待ち合わせ場所。

 ついに。

 ついに、デートです!

 昨日、嬉しくってなかなか寝られなかったなあ。

 あ。

 杜雄君!

 そこだけ光ってるように見える。

 それに。

 時間まで20分もあるのに、それより先に来て、待っててくれたんだ。

 iPodで音楽を聴いていた杜雄君が、あたしに気付いてにっこり笑ってくれた!

 あたしもう、心臓爆発しそう。

 そうそう。

 あたしもスマイル!

 自動改札を抜けて、あたしは小走りに杜雄君の元へ向かった。

「ごめんなさい。待たせちゃいました?」

「ううん。オレが早過ぎただけだよ」

 うわあ……。TVのドラマみたい。

「何を聴いてたんですか? あたしの知ってる曲かなあ」

 すごい! 自然に会話出来てる!

「絶対に知らないと思う。『Electronic』の中の『Noise』ってジャンル。もしフツーの人が聴いたら、間違い無く気が狂うよ」

「聴いてみてもいいですか?」

「いいけど。知らないよ~?」

 杜雄君がいたずらっぽく笑った。

 ――その表情もステキ。

 あたしはイヤホンを借りた。

 これって……、間接耳キス?

 そんなことばは無いか。

「いい?」

「はい」

 曲、と言うか、雑音が大音量で流れ始めた。

 時々、ベルの音が入ってる。これって音楽なの?

 さすがに耐えられず、イヤホンを外した。

 杜雄君が笑ってる。

「ね? 曲じゃないでしょ」

「まいりました。ごめんなさい」

 そこで。

 2人同時に笑っちゃった。

 何だかいい雰囲気。

「いつもそんな曲を聴いてるんですか?」

「いつもってわけじゃないかな。その日の気分で変えてるから」

 一緒に並んで歩きながら、駅を出た。

 いろんなカップルさんが、意識してか目に入るけど、杜雄君が断然カッコいい。

 あたし自慢出来ちゃうよ。

「ケーキ屋さんでいい? どこか寄りたいところある?」

 やさしく訊いてくれた。

「混み始める前に、ケーキ屋さんの方が」

「そっか。そうだね」

 デパートの裏に入り、ケーキ屋さんの看板が見えて来た。

 まだ早いのに、もう満席ぎりぎりみたい。

「紫音ちゃんの言う通りだったね。先にして良かった」

 杜雄君はにっこり。

 あたし、その笑顔だけで幸せになれちゃう。

 注文して、杜雄君が、

「メール、ゴメンね。気が付いたら寝てたんだ」

「ううん。あたし、帰宅部だから分からないけど、練習大変そうだし」

「よくやっちゃうんだよね。『ちょっとだけ』って横になると、いつの間にか爆睡。紫音ちゃんは、やりたい部活とか無かったの?」

「興味あるのが無くって……。それにあたし、根気が無いから」

「そんなこと無いと思うよ。こうして会ってくれてるんだもん」

 耳まで熱くなった。

 ホント、全てが杜雄君につながっちゃう。

「お待たせ致しました」

 注文したケーキと飲み物が運ばれて来た。

 あたしはキイチゴのムース。杜雄君はレアチーズ。ダージリンにブレンド。

「じゃ」

『いただきまーす』

 見苦しくないように。慎重にケーキを口に運ぶ。

 けっこうこれって大変。

 みっともないところは見せられないから。

 ちらっと杜雄君を見たら、ケーキを倒しちゃうこと無く、とっても上手に食べてる。

 ブレンドをブラックで飲んでるのも、大人っぽくてカッコいいなあ。

「紫音ちゃんのはどんな味?」

 いけないいけない。

 見てたことがバレちゃう。

「ちょっと酸っぱくって。美味しいですよ」

「少しずつ交換しようか」

「え? あ、はい」

 え~! これっていきなり間接キス?

 心臓ばくばくになりながら、交換した。

 もう味なんて分かんない!

「あ、こっちも美味しいな。オレもこれにすれば良かった」

「レアチーズも美味しいです」

 自分が答えてるんじゃないみたい。

 だって、だって!

 でも、杜雄君。

 こう言うこと自然に出来ちゃうんだ。

 何だか女の子慣れ、してる感じ。

 ううん。

 気のせい、絶対。

 そんなことを考えながら、みっともなくないように、同時に食べ終えた。

「お茶、もう1杯ずつお代わりしようか?」

「はい」

 自然な仕草で店員さんを呼んで。

 手慣れた感じに注文してる。

 あたしだったらどきどきしちゃって、注文さえ出来ないと思う。

 ねえ、杜雄君。

 本当にあたしの彼氏になってくれたの?

 一番訊きたいこと。

 一番訊けないこと。

 少しずつ話しながら、訊きたかったんだけど。

 やっぱり訊けなかった。

「そろそろ出る?」

「はい」

 あ~、訊かなきゃいけないのに!

 杜雄君のリードに任せっ放し。

 席を立つ時に伝票をさりげなく取って。

 何も言わずに会計を済ませてくれた。

「いくらですか?」

 お財布を出しながら訊いた。

「いいって。これくらい何でもないから」

「でも……」

「気にしないで」

「ごちそうさまです。ありがとう」

 やっぱり初デートの時は、男の子に任せた方がいいんだよね?

 紗枝に相談したいところだけど、そんなわけにはいかないし。

 お店の外に出たら、夕方近い空の色。

 けっこう長居しちゃったんだな。

「じゃ、駅まで一緒に行こうか」

「はい」

 あたし、『はい』ばっかり。

 でも。

 それ以外に答えようが無いんだもん。

 ちょっとだけ夕焼けの空を見上げちゃう。

「手、つないでみたい?」

「ひゃいっ!?」

 悲鳴みたいな声と同時に、あたしの右手がすっと握られた。

 ――!!

 どうしよう、あたし?

 初デートでもう、手をつないじゃったよ!

 だけど。

 さっきも感じたこと。

 杜雄君、女の子に慣れてるよ、絶対に。

 ――たぶん、かもしれないけど。

 ねえ。

 あたしだけの彼氏だよね? 杜雄君……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ