9:ついにデート!
駅の改札を出て、すぐのところが待ち合わせ場所。
ついに。
ついに、デートです!
昨日、嬉しくってなかなか寝られなかったなあ。
あ。
杜雄君!
そこだけ光ってるように見える。
それに。
時間まで20分もあるのに、それより先に来て、待っててくれたんだ。
iPodで音楽を聴いていた杜雄君が、あたしに気付いてにっこり笑ってくれた!
あたしもう、心臓爆発しそう。
そうそう。
あたしもスマイル!
自動改札を抜けて、あたしは小走りに杜雄君の元へ向かった。
「ごめんなさい。待たせちゃいました?」
「ううん。オレが早過ぎただけだよ」
うわあ……。TVのドラマみたい。
「何を聴いてたんですか? あたしの知ってる曲かなあ」
すごい! 自然に会話出来てる!
「絶対に知らないと思う。『Electronic』の中の『Noise』ってジャンル。もしフツーの人が聴いたら、間違い無く気が狂うよ」
「聴いてみてもいいですか?」
「いいけど。知らないよ~?」
杜雄君がいたずらっぽく笑った。
――その表情もステキ。
あたしはイヤホンを借りた。
これって……、間接耳キス?
そんなことばは無いか。
「いい?」
「はい」
曲、と言うか、雑音が大音量で流れ始めた。
時々、ベルの音が入ってる。これって音楽なの?
さすがに耐えられず、イヤホンを外した。
杜雄君が笑ってる。
「ね? 曲じゃないでしょ」
「まいりました。ごめんなさい」
そこで。
2人同時に笑っちゃった。
何だかいい雰囲気。
「いつもそんな曲を聴いてるんですか?」
「いつもってわけじゃないかな。その日の気分で変えてるから」
一緒に並んで歩きながら、駅を出た。
いろんなカップルさんが、意識してか目に入るけど、杜雄君が断然カッコいい。
あたし自慢出来ちゃうよ。
「ケーキ屋さんでいい? どこか寄りたいところある?」
やさしく訊いてくれた。
「混み始める前に、ケーキ屋さんの方が」
「そっか。そうだね」
デパートの裏に入り、ケーキ屋さんの看板が見えて来た。
まだ早いのに、もう満席ぎりぎりみたい。
「紫音ちゃんの言う通りだったね。先にして良かった」
杜雄君はにっこり。
あたし、その笑顔だけで幸せになれちゃう。
注文して、杜雄君が、
「メール、ゴメンね。気が付いたら寝てたんだ」
「ううん。あたし、帰宅部だから分からないけど、練習大変そうだし」
「よくやっちゃうんだよね。『ちょっとだけ』って横になると、いつの間にか爆睡。紫音ちゃんは、やりたい部活とか無かったの?」
「興味あるのが無くって……。それにあたし、根気が無いから」
「そんなこと無いと思うよ。こうして会ってくれてるんだもん」
耳まで熱くなった。
ホント、全てが杜雄君につながっちゃう。
「お待たせ致しました」
注文したケーキと飲み物が運ばれて来た。
あたしはキイチゴのムース。杜雄君はレアチーズ。ダージリンにブレンド。
「じゃ」
『いただきまーす』
見苦しくないように。慎重にケーキを口に運ぶ。
けっこうこれって大変。
みっともないところは見せられないから。
ちらっと杜雄君を見たら、ケーキを倒しちゃうこと無く、とっても上手に食べてる。
ブレンドをブラックで飲んでるのも、大人っぽくてカッコいいなあ。
「紫音ちゃんのはどんな味?」
いけないいけない。
見てたことがバレちゃう。
「ちょっと酸っぱくって。美味しいですよ」
「少しずつ交換しようか」
「え? あ、はい」
え~! これっていきなり間接キス?
心臓ばくばくになりながら、交換した。
もう味なんて分かんない!
「あ、こっちも美味しいな。オレもこれにすれば良かった」
「レアチーズも美味しいです」
自分が答えてるんじゃないみたい。
だって、だって!
でも、杜雄君。
こう言うこと自然に出来ちゃうんだ。
何だか女の子慣れ、してる感じ。
ううん。
気のせい、絶対。
そんなことを考えながら、みっともなくないように、同時に食べ終えた。
「お茶、もう1杯ずつお代わりしようか?」
「はい」
自然な仕草で店員さんを呼んで。
手慣れた感じに注文してる。
あたしだったらどきどきしちゃって、注文さえ出来ないと思う。
ねえ、杜雄君。
本当にあたしの彼氏になってくれたの?
一番訊きたいこと。
一番訊けないこと。
少しずつ話しながら、訊きたかったんだけど。
やっぱり訊けなかった。
「そろそろ出る?」
「はい」
あ~、訊かなきゃいけないのに!
杜雄君のリードに任せっ放し。
席を立つ時に伝票をさりげなく取って。
何も言わずに会計を済ませてくれた。
「いくらですか?」
お財布を出しながら訊いた。
「いいって。これくらい何でもないから」
「でも……」
「気にしないで」
「ごちそうさまです。ありがとう」
やっぱり初デートの時は、男の子に任せた方がいいんだよね?
紗枝に相談したいところだけど、そんなわけにはいかないし。
お店の外に出たら、夕方近い空の色。
けっこう長居しちゃったんだな。
「じゃ、駅まで一緒に行こうか」
「はい」
あたし、『はい』ばっかり。
でも。
それ以外に答えようが無いんだもん。
ちょっとだけ夕焼けの空を見上げちゃう。
「手、つないでみたい?」
「ひゃいっ!?」
悲鳴みたいな声と同時に、あたしの右手がすっと握られた。
――!!
どうしよう、あたし?
初デートでもう、手をつないじゃったよ!
だけど。
さっきも感じたこと。
杜雄君、女の子に慣れてるよ、絶対に。
――たぶん、かもしれないけど。
ねえ。
あたしだけの彼氏だよね? 杜雄君……。




