7:自分の気持ち
翌週の学校。
あたしは教室に入って来た、紗枝に抱き付いた。
「ちょ、ちょっと。どうしたの?」
「紗枝ぇ。もうあたし、あたし……」
半べそをかきながら、紗枝にしがみつく。
「紫音。落ち着いて。とりあえず席まで行こ?」
涙を拭いて、あたしはうなずいた。
「一体どうしちゃったの?」
席に着いて、カバンを机にかけた紗枝に、
「来ないの。レスが」
「杜雄君に送ったヤツ?」
あたしは無言でうなずいた。
「ただ単に、忙しかったんじゃないの?」
「だってあたし、土日って、ほとんど徹夜で待ってたのに……」
待ち遠しくて、眠れなかったの。
なのに。なのに……。
『気軽にメールして』
って言われてるのに、レスが来ない。
これって、あたしがフラれたことじゃないの?
そこまでを、つっかえつっかえ紗枝に話した。
「考え過ぎだよ、紫音」
「そう、かなあ?」
「紫音が悩んでるみたいに、杜雄君もタイミングがつかめなくって、返信出来ないのかもよ?」
「うん……」
でも。
「でも、昨日も考えたんだけど。本当にお付き合いなの? あたし、杜雄君の彼女なの?」
「何だって、そんなふうに考えちゃうの?」
「だって、告っても告られてもいないよ……。これも考え過ぎなの?」
やっと涙の止まった目で、紗枝をじっと見ちゃった。
紗枝は大きく息を吐くと、
「じゃあさ。訊くけど。紫音は杜雄君のこと、どう思ってるの?」
はっと、胸を突かれたことばだった。
――あたし。
あたしの思い。
「そう言われると……。分かんない」
紗枝は真剣な表情で、
「いい? まずは自分の気持ちが分からなかったら、お付き合いさえ始められないよ?」
「うん……」
「杜雄君と、もう一度会いたいの? お話ししたいの? 何でも話し合える関係になりたいの?」
「――」
「杜雄君には『杜雄君の時間』があるの。紫音が『紫音の時間』を持ってるように。その時間を削って、一緒にいたい? それが『YES』なら、紫音も考えなきゃ」
「あたし……。甘く考えてたのかな?」
「『甘い』とは、ちょっと違うと思うけど。――もう一度よく考えて、メールしてみなよ」
あたしはこくりとうなずいた。
とりあえず。
紗枝に話せたことで、少し気持ちに余裕が出来た。
(あたしの。あたしの気持ち……。杜雄君の彼女になりたい。お付き合いしたい!)
正直なあたしの気持ち。
もっと話したいし、もっと知りたい。
知り合いたい。
休み時間になって、あたしは猛スピードで両手打ちして。
さあ、送信しよう! って思ったとたん、ケータイが震えた。
びっくりして落としそうになっちゃった。
ディスプレイには、
『メール着信中 長坂杜雄』
の文字。
もっとびっくりしちゃった!
おんなじタイミングでメールが来るなんて!
あたしは急いで、メールを開いた。そこには……。
『土曜日はありがとう。
部活の疲れが出ちゃって、レス出来ませんでした。
ゴメンね。
週末に良かったら、もう一度あのケーキ屋さんに行きませんか?』
――嬉しい。
「紫音っ! メールしたの? って何で泣いてるのよ、また」
心配して来てくれた紗枝を驚かせちゃった。
だって、だって……。
「やっぱり、紗枝! フラれたわけじゃないみたい!」
ケータイを見せる。
「そっか。体育会系だもんね。優斗も寝ちゃって、レス来ないことよくあるし」
初めて知った。
帰宅部だもん。
「良かったじゃん。――紫音のも送らないとじゃない?」
「え? そっか。あー、書き直してる時間が無いよお。授業始まっちゃう」
チャイムが流れる。ウチのガッコは授業中にケータイ使ってるのがバレたら、没収されちゃうの。
「ま、理由が分かったんだし。お昼休みにゆっくり送れば?」
「でもでも」
「ほら。センセ来ちゃった。じゃね」
そう言うと、紗枝は席に戻って行った。
でも。
ホントに理由が分かって良かった。
(あたし、フラれたわけじゃなかったんだ……)
その思いでいっぱいになっちゃって、授業なんか全くアタマに入らなかった。