17:大丈夫
少し重たい足取りで、あたしは電車を降りた。
改札に向かって歩く。
どきどきしっ放し。
あ、杜雄君。
あたし、40分も前に着いたのに、それよりもずっと早く待っててくれたんだ。
(信じる材料、たっぷりじゃない)
そんなことを思う。
iPodで音楽を聴きながら、うつむいてリズムに合わせ、足をとんとんさせてる。
改札を抜け、杜雄君のところまで行った。
「杜雄君」
あたしの声にびっくりして、慌てて杜雄君は顔を上げた。
「驚いた~。ゴメンね、気が付かなくって」
「どんな音楽なんですか? 今日は?」
大丈夫。あたしちゃんと話せてる。
「今日はユーロビート。紫音ちゃんでも聴けるよ」
「聴いてもいいですか?」
「うん」
イヤホンを借りる。
音楽が流れ始めた。
「あ、こう言うの聴いたことあります。『ユーロビート』って言うんですか」
スピード感のある電子音と女性ボーカル。FMかTVの番組中でだったかな?
あたしも聴き覚えがあった。
ちょっとの間、借りることにする。
このアップテンポな曲たちが、あたしに勇気と希望をくれそうだったから。
「気に入った?」
杜雄君がやさしく訊いてくれた。
「はい。普段聴かないから、新鮮です」
「じゃ、Rに焼いてあげるよ。本当は著作権に引っかかるけどね」
いたずらっぽく笑ってる。
この笑顔、信じたい。
「行こうか? また混み始めちゃうといけないし」
「はい」
イヤホンを返す。