13:もう少し信じたい
何杯コーヒーを飲んだかな。
お手洗いが近くなっちゃうけど、今はこの苦みが欲しい。
「紫音! どうしたの、いったい?」
紗枝が息を切らしながら、テーブルまで来てくれた。
ホントにゴメンね。
優斗君と会ってたのに……。
「ゴメン。デート中だったのに」
「そんなのいいよ。杜雄君と何かあったの?」
また涙がこぼれた。
「あたし、フラれたみたい」
かいつまんで、事情を話した。
それを聞いた紗枝は、
「うっそ! それひど過ぎる!」
そう言ってくれた。
「優斗経由で文句言ってあげるよ。優斗にも。そんなコがいる人を紹介したなんて、許せないから」
あたしは弱々しく首を横に振った。
「優斗君は悪くない。悪いのはそんなことも分からないで、独り喜んでたあたし」
「紫音……」
「へへ。バカみたいだね。何やってるんだろ、あたし。ホントだったら後を付いて行ってでも、2人の関係を聞き出さなきゃなのにさ」
涙がぼろぼろこぼれて来た。
「杜雄君ね? あたしのこと、『彼女』って言いかけて、結局『友達』って言ったの。これって見事に玉砕したことだよね」
沈黙が訪れた。店内のBGMが、ココロを動かすことも無く、あたしたちの間を流れて行く。
――杜雄君、どんなCD探してたんだろうな?
未だにそんなことを考えちゃう。
「杜雄君、他に何て言ってた?」
紗枝の問いに、あたしは思い返す。
「確か……。『後でメールする』って」
「メール送るってことね? もうこっちから送ろうよ、紫音」
「でも……」
「想いを踏みにじったのは、杜雄君の方なんだから。言いたいこと全部、ぶちまけちゃいなよ。ね?」
紗枝が言ってくれるのも分かる。
でも。
まだあたしは疑問があった。
あの時、花園ちゃんは、
『新しい彼女じゃなくて?』
って言ってた。
少しおかしくない? 紗枝に話してみた。
「うーん。確かに。そのコが彼女だったら、矛盾したことを言ってるね。『新しい彼女』ってことは、今やっぱり、杜雄君に彼女はいないってことかな?」
分からなくなって来た。
やっぱり今、こっちからメールしない方がいいのかも。
(待ってて。信じてていいの? 杜雄君?)
「紗枝。もう少し信じたい。でもね? あたしからも訊きたい。――メール送るか、どうしよう?」
紗枝は腕を組んだ。目を閉じる。そして、
「こっちから訊こう。少なくとも、杜雄君にはそのコとの関係を、説明する義務がある。そう思うよ」
力強く、きっぱりと言ってくれた。
うん。
そうかもしれない。