12:捨てられたの?
「うーん、HMVだったら、あると思ってたんだけどなあ」
「無いんですか?」
「うん。マイナー過ぎるからかな。――ちょっと待ってて。訊いて来る」
ふえー。
HMVなんて初めて入ったから、どんなCDを扱ってるのか、まるで分からなかった。
洋楽ばっかりで、あたしには全然分からない。
だって、杜雄君が探しているCDさえ、分からないんだもん。
あ、戻って来た。
「全店舗検索で調べてもらったんだけど、どこも売り切れだって。もうちょっと早く買いに来れば良かった」
「人気の高いものなんですか?」
「逆。初回プレス数が少なくって、あまり出回らないんだ」
あたしには分からない世界。
CD買うのも大変なんだなあ。
「ゴメンね、時間取らせちゃって。――ご飯にする?」
「はい」
HMVを出て、すぐのところにあるファミレスに入ろうとしたその時。
「杜雄。その子誰なの?」
声をかけられた。
振り返ると、あたしと同じぐらいの背で、ツインテにしてる、黒ワンピースの女の子が立っていた。
「花園……。これは……」
え?
え!?
どう言うことなの!?
「だから。その子誰?」
キツい口調で攻め寄ってる。
杜雄君は、
「ああ。かの、いや、友達」
「ふうん。友達。新しい彼女じゃなくて?」
「そんなことないよ、花園」
――この、花園って女の子。杜雄君とどんな関係なの?
まさか、二股かけられてる? あたし。
ことばが出なかった。
「ねえ、あんた」
「あ、あたし、ですか?」
「ちょっと杜雄に用事があるんだけど。借りるよ」
そう言い放つと、すたすた歩き出した。
「紫音ちゃん、ゴメン。メールする」
杜雄君もそう言うと、花園って子の後を追って行った。
(あたし。――捨てられたの? フラれたの?)
ただ立ち尽くした。
何も考えられない。
人波が、あたしを邪魔そうにしながら動いてる。
(杜雄君……)
とりあえず、入る予定だったファミレスの中に。
窓際の席に座り、ドリンクバーを注文した。
コーラを満たして戻る。
一口飲んだ。炭酸ばかりが強過ぎて、今のあたしには味が分からなかった。
(杜雄君。あたしだけじゃなかったの?)
視界がにじむ。
あの、花園って子。
杜雄君のことを呼び捨てにしてたな……。
(それだけ深い仲なのかな。杜雄君も『花園』って呼んでたし)
テーブルに熱い水滴が落ちた。
バッグからケータイを出す。
こんな時こそ、紗枝に聞いてもらおう。
(紗枝。もし今、優斗君とデート中だったらゴメン。でも、もうあたしだけじゃいられないの……)