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無能扱いされた少女たちの才能が見える俺、適材適所で最強国家を築く  作者: 浅入燈馬


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第二十八話:境界を越えし者たち、重なり合う助けの輪

 狼男族との死闘から、十日余りが経過した。

 里を包む空気は、かつての閉塞感から解き放たれ、新しい木材の香りと耕された土の匂いに満ちている。修繕された家屋の屋根からは炊事の煙がのどかに立ち上り、一見すると平和そのものの光景が広がっていた。

 しかし、ユウマは村長として、平和に甘んじてはいなかった。

 ティオという絶対的な防壁があるとはいえ、狼男族との不可侵条約がいつまで、そしてどこまで守られるかは不透明だ。彼は里の再建を進める一方で、警戒態勢だけは緩めないよう守備隊に指示していた。

 その日の午後、事態は動いた。

「……ユウマさまっ、大変ですぅ!」

 村の監視塔代わりに使っている高台の木から、ルネが音もなく飛び降りてきた。彼女の顔は強張っており、背中の羽根が警戒を示すように逆立っている。

「どうした、ルネ。狼男か?」

「違うですぅ。……でも、数が多いですぅ! 西の街道の先から、混成の集団がこっちに向かって歩いてくるですぅ。全部で……五十、いえ、もっといるですぅ!」

 ユウマは瞬時に表情を引き締めた。五十人。猫娘族の里の人口の数割に相当する規模だ。もし武装した襲撃者であれば、再建途中の里にとっては大きな脅威となる。

「リリィ! 非戦闘員を避難させろ。ルネ、守備隊を集めてくれ。……ティオ、僕と一緒に来い。入り口で食い止める」

「はいっ!」

 ユウマの短い号令と共に、里に緊張が走った。

 修繕の手を止め、猫娘族の戦士たちが槍を手に広場へと集まる。リリィは子供たちを安全な広場の奥へと誘導しながらも、その目は冷静に状況を見極めていた。

 村の入り口、まだ修繕の跡が瑞々しい防壁の前に、ユウマとティオが立った。

 ティオは一歩前へ出ると、その身の丈を超える巨大な盾を「ドォォン」と地面に据え置いた。彼女の赤い瞳には迷いがない。今の彼女にとって、この入り口は、自分を認めてくれた里とユウマを守るための絶対の防衛線だった。

 やがて、街道の先からルネが言っていた集団が姿を現した。

 土煙を上げて近づいてくるその影は、お世辞にも「軍勢」と呼べるような整然としたものではなかった。足取りは重く、多くの者が肩を貸し合い、荷車を引く姿も見える。

「……待って。武器を構えてるようには見えないですぅ」

 背後の木の上から見守るルネが声を上げる。

 集団は村から一定の距離を置いた場所で足を止めた。そして、そこから代表者と思われる三名が、ゆっくりとこちらに向かって歩き出した。

 ティオは盾の裏で低く身を構え、いつでも衝撃に耐えられるよう踏ん張る。ユウマはその肩を軽く叩き、まずは対話の姿勢を見せた。

 歩み寄ってきた三人の姿は、実に奇妙な組み合わせだった。

 先頭に立つのは、しなやかな尾を揺らし、耳を伏せた**妖狐族**の女性。

 その隣には、小柄ながらがっしりとした体格で、大きな爪を持つ**土竜族**の老人。

 そして最後尾に控えるのは、衣服の一部が葉や花弁のように波打つ、幻想的な美しさを持つ**妖花族**の若者。

 彼らの衣服はボロボロに汚れ、顔には隠しようのない疲労の色が刻まれていた。

「……止まってください」

 ユウマが声をかけると、三人はその場に膝をつき、深々と頭を下げた。

「恐れながら、猫娘族の里長殿とお見受けいたします。……私たちは、戦いに来たのではありません」

 妖狐族の女性が、消え入るような声で口を開いた。

「私たちは……狼男族に住処を追われ、あるいは労働力として、食糧として、彼らに虐げられていた者たちの成れの果てです。……先日、この里が狼男族の族長を退け、彼らを追い払ったという噂を聞きました。もはや私たちには、行く当ても、明日を繋ぐ糧もありません」

 土竜族の老人が、土に汚れた拳を握りしめて続けた。

「……恥を忍んでお願いに参った。我らを受け入れてはくれまいか。我らもタダで飯を食おうとは言わぬ。土竜の掘削、妖狐の目、妖花の癒やし……持てる力はすべて、この里のために捧げよう」

「猫娘族の皆さんに、狼男族を倒すほどの慈悲と力があるなら……どうか、私たちを助けてください……っ」

 妖花族の若者が、祈るように手を合わせた。

 ユウマは、ティオの背中越しに彼らの背後に控える集団を見た。

 そこには衰弱した老人や、怯えた瞳でこちらを伺う子供たちが、身を寄せ合うようにして立っていた。彼らの纏う「絶望」と「微かな希望」は、嘘を吐いている者のそれではない。

「ユウマさん……」

 ティオが盾を構えたまま、困惑したようにユウマを振り返る。彼女自身、かつては村の中で避けられていた存在だった。だからこそ、居場所を失った者たちの悲痛な叫びが、誰よりも心に響いていた。

 背後の防壁の上では、守備隊の猫娘たちが槍を握ったまま息を呑んでいる。

 自分たちも数日前までは、彼らと同じように怯え、いつ滅ぼされるか分からない恐怖の中にいたのだ。

 ユウマは一歩前に出た。

「……分かりました。代表の方々、まずは顔を上げてください」

 ユウマの静かな声が、緊張の走る街道に響いた。

「この里も、今はまだ復興の途中で、余裕があるわけではありません。ですが……同じ苦しみを知る者を見捨てることは、僕たちの流儀ではない。……ティオ、盾を下げていい。彼らは敵じゃない」

 ティオは一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかい表情で頷いた。

「……はい、ユウマさん」

 重厚な盾が地面から持ち上げられ、彼女の背中に収まる。その瞬間、張り詰めていた空気がふわりと和らいだ。

「リリィ! フェリスさんと相談して、広場に受け入れの準備をしてくれ。水と、少しばかりの粥を用意してほしい。ルネ、怪我人がいないか確認を!」

「了解だよぉ! みんなぁ、お鍋の準備してぇ!」

「……分かった、ですぅ。すぐ行くですぅ!」

 里の中から、今度は歓迎と救護のための活気が沸き上がった。

 膝をついていた三人の代表者は、信じられないものを見るようにユウマを見上げ、やがて嗚咽を漏らして再び地面に額を擦り付けた。

「ありがとう……ありがとうございます……っ」

 狼男族という共通の敵に抗い、勝利した里。

 そこに、かつては散り散りだった弱き種族たちが集まり始めた。

 ユウマは、夕日に照らされる街道を見つめながら、これから始まる「多種族共生」という、再建以上の困難と希望に満ちた道のりを予感していた。

 猫娘族の里は今、単なる一集落から、虐げられた者たちの「最後の砦」へと変貌しようとしていたのである。

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