第8話 配信再開
仙台のダンジョンを完全踏破してから一週間後。
「それでは憂さ晴らし配信始めま~す」
俺は茨城県水戸市にあるダンジョンを訪れ、その様子を配信していた。
元メンバー:結局やるんかいw
一般人:憂さ晴らしは済んだのでは?
俺の第一声に早速視聴者から反応が来る。何とこの時点で同時接続数は30000を超えていた。
「いや~、俺だって本当にする気はなかったんですよ? ただ、この一週間の間で色々ストレスが溜まることがあったんです」
完全踏破したことによる、ちょっとした有名税ってやつだ。
元メンバー:何されたん?
一般人:参考までに
「俺の場合は、マスコミが家まで来て取材ですね」
一般的な1Kの普通の賃貸ということで、すぐに特定された。
有名人がこぞってタワーマンションや高級住宅街に住む理由が今ではよく分る。
「ちなみに真己乃や木戸さんはもっと酷い」
一般人:この声は牧さん!
一般人:今日は牧さんが撮影係か!
カメラで俺を映す牧さんの発声に、コメントが盛り上がる。
どうやらこの前の配信で、牧さんは一定の人気を得たらしい。
一般人:それでどんな風に酷いんですか?
元メンバー:宮辻さんは俺が守る!
一般人:↑無視して続けてください
「真己乃はストーカー、木戸さんは店に大量の取材ってところだ。そのせいで二人とも今日はいない」
一般人:まあそうなるよな
元メンバー:ストーカー許すまじ
元メンバー:宮辻さんは俺が守る!!
一般人:↑ストーカー予備軍w
一般人:てか、牧さんは?
「俺か? まあ、雅人と似たようなもんだ」
「牧さんは力づくで蹴散らせるんで大丈夫です」
「雅人、人聞きの悪いこと言うなよ。まあ、半分は正解だけどよ」
一般人:牧さん半端ない!
一般人:野田とは違う
一般人:↑学生リーダーとすら呼ばれないw
元メンバー:学生リーダードンマイ
本当にどこで人気に差がついたんだろうな。
「まあ、今この話はいいじゃないか。それより今日の目的だ」
牧さんの言う通り、このままトークを続けていても仕方ない。
「それじゃ、今日の目的を話します」
一般人:そういえば水戸って小規模ダンジョンだよな
元メンバー:↑ちなみに全30階層で完全踏破済み
一般人:難易度合わなくない?
さすがにダンジョン配信を見ているだけあって、中々に鋭い指摘だ。
「実は今、このダンジョンにオーガキングが確認されたらしいんです」
元メンバー:ほう
一般人:オーガキングって?
「まず、オーガはゴブリンの上位種でランクはCです。キングはそれらを統率している種族になります」
魔物にも探索者同様ランク付けがされていて、下はFからA、S、最上位はSSという風になっている。
ちなみに各ランクとも該当のランクの探索者が数人がかりなら安定して勝てるという基準で決められている。
「そのオーガキングだが、単体のランクはB。ただ、実質的にはAなんだ」
一般人:どゆこと?
「キングの周りには通常のオーガがいて、戦う時はそいつらのコンビネーション攻撃を相手にすることになる」
「実質的にっていうのは、討伐難易度という意味ですね」
「そうなるな」
一般人:なるほど
一般人:今回はそんな相手に挑もうという訳か
付け加えると、今回の討伐は協会から名指しで依頼されたものだ。
基本的に高ランクの探索者は大規模ダンジョンの事象対処に優先して宛てられることが多く、小規模ダンジョンは後回しにされやすい。
ただ、キングのような統率者が現れるケースは、放っておくとスタンピードに発展して他の階層に移動するリスクがあるため、協会から直接名指しで打診することがある。
一般人:で、勝てるの?
「まあ、多分……?」
一般人:ドヤ顔で多分とか言うなw
元メンバー:余裕って言ってやれよ
「安心しろ。余裕じゃなきゃ来たりしないから」
一般人:さすが牧さん
一般人:野田とは違う
元メンバー:学生リーダー舐められ過ぎw
「とにかくです。そういう訳で、早速出発しましょう!」
「そうだな。それと配信の最後に、大切なお知らせがあるから要チェックだ」
一般人:大切なお知らせ?
一般人:何だ何だ?
一般人:コラボとか?
一般人:↑流れ的にりかちゃん?
一般人:↑それだ……っ!
的を射た憶測を聞き流しつつ、俺たちは攻略を開始した。
※※※
攻略開始から1時間後。
「何か微妙じゃなかったですか?」
「そうだな。期待外れだ」
オーガキングが確認された層に向かうと、しっかり標的はたくさんのオーガとゴブリンを連れて待っていた。
これは良い憂さ晴らしになると期待していたのだが……
「やっぱゴブリンはゴブリン」
「オーガはオーガだな」
キングとついていたから期待したのに、動きは普通のゴブリンとオーガと変わらない。
最初こそまあまあ楽しかったが、最後は普通に面倒だった。
だが、そんな俺たちと違って、視聴者のテンションは高い。
一般人:牧さんの一人称視点マジですごかった
一般人:俺らには真似できん
元メンバー:さすがは牧さん
前回の配信の反省を活かして、今回の配信では頭部に装着する一人称カメラを使ったものに切り替えた。
俺か牧さんかのどちらが良いか考えた結果、牧さんの方がアクロバティックで見ていて面白いだろうという結論に至り、牧さんがカメラを担当した。
案の定、視聴者は大満足だ。
一般人:ついでに野田のも見たい
一般人:ついでにw
元メンバー:そこは宮辻さん
一般人:↑確かに
一般人:個人的に木戸さんが見たい
元メンバー:学生リーダードンマイ
う~ん。本当にどこで差がついたんでしょうね。
まあ、今さらどうでもいいけど。
「これからどうしますか?」
「どうするつってもな。さすがにこれは放置できねえだろ」
そう言って牧さんは、地面に散らばった百個以上ある魔鉱石へ視線を向ける。
現在、魔鉱石の用途には大きく分けて二つある。
一つは武器の生成。魔鉱石を含む武器はダンジョン内の魔力と感応するためか、鉄などの金属だけでできた武器よりも威力が高い。
また、威力の高まりは高ランクの魔物の魔鉱石ほど強くなる。
フロアボスの魔鉱石が高く売れるのはそのためだ。
二つ目の用途は、エネルギー資源。
一人の科学者が実験で火力発電所に石炭の代わりに魔鉱石を入れたところ、理屈は解明されていないが、通常の二倍の電力を生み出すことに成功した。
加えて二酸化炭素などの排出量もなく、人体に影響がないことだけは分かっているということで、今では魔鉱石は人類にとって必要不可欠な資源となっている。
そういった背景から、一つや二つならともかく、大量の魔鉱石をダンジョン内に放置して帰るのは高い確率で協会に嫌な顔をされる。
ちなみに、こうなることを見越して大きめのポリ袋は何個か持ってきていた。
「こうなったら、やるしかないですね」
「だな」
宮辻真己乃:だったら勝負でもすれば?
元メンバー:宮辻さん!
一般人:ここで宮辻さん参戦
何とここで宮辻さんがコメント欄に現れた。
「勝負ですか……どうします?」
「いいじゃねえか、そっちの方が気分も上がるってもんだ」
「なら、決定で」
宮辻真己乃:とりあえず楽しい展開をお願い
元メンバー:学生リーダー、分かってるな?
一般人:↑圧がヤバいw
一般人:野田が負けるに一票
一般人:同じく
元メンバー:同じく
誰か一人くらい俺が勝つって言って欲しいものだが、これはもう一種のテンプレとなりつつあるので仕方ない。
気を取り直して、宮辻さんのご要望に応えるとしよう。
「それじゃ、始めましょうか」
「ああ、いつでもいいぜ!」
「「せーの……っ!」」
二人でタイミングを合わせて、地面を蹴る。そして――
「悪いな、雅人」
「ぐぬぬ」
どっちが多く魔鉱石を集められるか選手権は、僅差で俺の敗北に終わった。
「結構スッキリしたし、これで今日は終わるか~」
「ちょっと待ってください……っ、って言っても、これ以上やることもないですしね」
これがもう少し規模の大きなダンジョンなら話は違うのだが、今回は小規模の完全踏破済みのダンジョンだ。
これ以上、何かできることがあるかと言われても思いつかない。
個人的には全くスッキリしない最後だったのだが、今日はこれでお開きだ。
「それじゃ、今日はこの辺にして、最後に重要なお知らせで~す」
一般人:待ってました
一般人:わくわく
「次回は何と、香月りかさんとのコラボ回です!」
一般人:やっぱり!
一般人:これは楽しみだ!
よしよし反応は上々。これで少しは香月さんに恩返しができるってものだ。
視聴者の反応に満足してから、俺たちは配信を終えるのだった。




