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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
1章 初回配信

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第7話 打ち上げ

 ダンジョンを出ると、配信の影響か地元のマスコミの襲撃にあった。

 ALLとして活動している時代にも、アイドル関係の雑誌のインタビューを受けることはあったので、対応もやぶさかではないのだが……


「すいません。今度にしてもらえますか……」

「同じく……」

「私も……」

「おじさんも……」


 今はそれどころではなかった。


 ダンジョン内にいる時は魔力で色々な感覚が麻痺するのだが、ダンジョンを出ると当然その影響はなくなる。

 今は、半日以上何も食べていないことによる空腹と久しぶりの激しい運動による筋肉痛で心身ともにどうにかなりそうな状態だった。

 そして、そんな状態になることを察してくれていたのだろう。


 マスコミを押しのけ、仙台支部の人が呼んでくれたのであろう救急隊員が俺たちの元まで来て、それぞれ救急車に乗せてくれる。

 完全に調子に乗って攻略を続けたあげく、救急車のお世話になるなど本当にはた迷惑な話だ。

 あとで十分な謝罪と感謝の気持ちを伝えなければいけない。


 自分で体を支える心配がなくなったからなのか、他のメンバーは次々と深い眠りにつき始め、俺もそれに続く。

 目を覚ました時には、丸一日経っていた。そして――


「それじゃ、何はともあれ憂さ晴らし配信お疲れさまでした。乾杯……っ!」

「「「乾杯……っ!」」」


 魔力による身体強化の副作用なのか、探索者の回復力は一般人よりも高い傾向がある。

 丸一日点滴付で眠った結果、俺たちは見事に完全回復した。


 今は東京に戻って某高級焼き肉店で、昼間から配信の打ち上げをしていた。

 今回の探索で入ったお金は億を超えた。

 特にフロアボスの魔鉱石は一品ものであることが多く、それらが特別高く取引された結果だ。

 これで、四人で山分けしてもしばらく生活には困らない。

 というわけで、こうして遠慮なく豪遊しているというわけだ。


「それにしても、すごい反響だったな」

「当然でしょ。完全踏破なんだから」


 早速お酒の入った興奮気味の牧さんに、同様に顔を仄かに赤くした宮辻さんが頷く。


 ダンジョンが現れてから30年ほどしか経過していないということもあり、20階層ほどの小規模ダンジョンを除き、世界的に完全踏破の例は少ない。

 特に安全志向の日本人は探索者になることを避ける傾向があり、その影響で中規模ダンジョンの完全踏破の例は10件に満たない。大規模に関しては未だにゼロだ。


 そのため、今回の完全踏破は国内で大々的に取り上げられている。

 試しに配信の切り抜き動画を確認してみると、50階層の攻略シーンは昨日公開された時点で再生回数が100万を優に超えている。


「これだけ注目されると、後が大変そうですね」

「そうだね~。まあ、今はそんなこと気にしないでパーとやろうよ」


 木戸さんの言う通り、今はこの場を全力で楽しむとしよう。

 俺も酒を入れ、場がある程度盛り上がったところで、忘れる前に皆に尋ねる。


「そういえば、香月さんに何かお礼ができないか考えてるんですけど。皆さんどうですか?」

「ああ、雅人がやらかした時に助けてくれたんだっけか?」

「せっかくだし、配信見てみない?」

「おじさん、タブレットあるよ~」


 木戸さんのタブレットで香月さんについて検索し、最近上がっている動画を再生する。

 どうやら香月さんは関東を中心に活動しているらしく、動画は池袋のダンジョンを探索した時のものだった。


「けっこういい感じですね」

「ああ、確かCランクだっけか?」

「ええ。それにダンジョン攻略を始めてまだ一年だそうよ」

「これは見込みがあるね。おじさん。ファンになっちゃいそう」


 香月さんの戦闘シーンを見て、三人そろって素直に感心する。

 普通は彼女の容姿に目が行くのだろうが、探索者らしく戦闘に関する感想が先に出る。

 それもそのはずで、新進気鋭や天才美女配信者、実力派と呼ばれるだけあって、香月さんの戦闘能力は中々のもの。

 近い将来、国を代表する探索者になるのも想像に固くないレベルだった。


 まあ、戦闘能力の後で、ちゃんと容姿についても言及するのだが。


「美人配信者っていわれるだけはあるな」

「ええ。若いときの私にそっくり」

「宮辻さんは今でも若いですよ」

「おじさんも雅人くんと同意見」


「「「「ただ……」」」」


 美人ということよりも、俺たちはあることが引っ掛かった。


「何か」

「こう……」

「アイラに」

「似てない?」


 似ているといっても、容姿や話方が似ているとかではない。

 明るい茶髪にショートボブと、黒髪ロングのアイラと対照的。

 顔立ちも大人っぽく体つきもスポーティーな感じで引き締まっていて、こちらも童顔で良い感じに出るとこ出て引っ込むところは引っ込んでいたアイラと対照的。


 だけど、こう、本当に何気ないしぐさだったり、間接の動かし方だったり、無意識のうちにやっているような部分が、アイラそっくりなのだ。


 これはきっと、アイラを本気で推していた俺たちにしか分からない感覚だ。


「確か、昔アイラに妹がいる的な噂があったよな?」

「ああ、あったあった」

「あれはデマってことでアイラ自身が否定してましたよね?」

「そうそう」


 あの時は普段プライベートを一切公開しないアイラに関する情報ということで、けっこう話題になった記憶がある。


「まあ、今はそんなことよりだ。雅人」

「何ですか?」

「この件についてはお前に任せた。御礼でも何でも好きにしてくれ」


 他の二人の様子もうかがうと、二人とも同じような反応を見せた。


「分かりました」


 この打ち上げが終わってから連絡することにして、俺たちは再び宴に興じるのだった。


         ※※※


 雅人たちが打ち上げを行った日の夜。

 自宅で香月りかは、雅人たちの配信の熱に浮かされていた。


 最初はただ、身内を応援していた人たちの現在を見てみようくらいの気持ちだった。

 だが、彼らの戦いを見ているうちに、もっと色々見たいと思ってしまって、ついコメントしてしまった。


 それがきっかけで、事態はりかが想像する以上に発展していき、最終的に中規模ダンジョン踏破という偉業にまでつながってしまった。

 途中からはただただ気が気でならなくて、コメントもまともにできなかった。


「また、配信してくれるかな……」


 たった一回の配信で、りかは雅人たちのファンになった。

 自分もあんな風に、誰かを引きつけられる人間になりたい。

 そう、彼女の実の姉のように……


「ん、誰だろ……って、協会?」


 スマートフォンの通知を確認すると、探索者協会のアプリからりか宛てに連絡が来ていた。

 こんなことは初めてだ。


「えっ、あの人たちが……っ!?」


 内容を確認すると、雅人たちが連絡を取りたいという旨が書かれていた。

 電話番号を教えても良いかということだったので、即OKした。


 5分後、程なくして雅人から連絡が来た。


 雅人:こちら香月さんの連絡先で合っていますか?

 りか:合ってます!


 本当に雅人からショートメッセージで連絡が来た。

 今までにないほどの胸の高鳴りをりかは感じる。


 雅人:突然の連絡すみません。この前のお礼がしたくて

 りか:お礼なんてそんな……っ! お礼を言いたいのは私の方です。


 それから似たようなやり取りを何度かした後、雅人から尋ねられる。

 

 雅人:それで香月さん、何か俺たちにして欲しいこととかあります?


 それなら……

 配信と、そう答えかけて止める。

 彼らのファンとして、当然また配信して欲しいという気持ちはある。


 しかし、香月りかは雅人たちのファンである前に、一人の配信者だ。

 配信者として、この場で取るべき選択肢は一つしかない。


 りか:それなら、私とコラボ配信してくれませんか?


 りかの提案に、雅人はすぐにOKした。


 そしてこのコラボが、雅人たち元ALL幹部をさらに押し上げていくことになることを、まだ彼らは知らない。




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