第6話 完全踏破
あの、本当にすみません。
一般人:これいつまで続くの?
一般人:配信開始から10時間経過
一般人:さすがにお腹すかない?
元メンバー:↑魔力+アドレナリンで麻痺
元メンバー:ライブ前はこんなもん
一般人:↑まじかw
コメント欄にあるように、現在、配信開始から10時間以上が経っている。
ちなみに今いるのは50階層。一日で5階層ほど踏破してしまった。
こうなった経緯を軽く説明すると、46階層のフロアボスを木戸さんが無双し攻略、自分にも見せ場欲しいと宮辻さんが言い始め、47階層を攻略。
俺も自分の手柄が物足りなくなって48階層を攻略、そこからは完全にノリでよく分からないままに49階層を攻略して今にいたる。
「あの皆さん、流石にそろそろ……」
「そ、そうだな」
「ええ、ちょっとやり過ぎちゃったわね」
「おじさん。反省してるよ」
「と、というわけで――」
「「「「最後にもう1階層」」」」
一般人:まだ続けるんかい!
一般人:本当にこれが最後か?
「50階層攻略ってことで、キリがいいですし」
「オタクはキリが良いのが好きなんだ!」
「そ、そうよ。多分……」
「おじさん。嘘はつかないよ」
元メンバー:これは大丈夫なやつ
一般人:本当に?
元メンバー:↑多分……
元メンバー:普段はライブがストッパーになるが
一般人:↑なるほど
元メンバーがコメント欄で反応に困っている。
さすがに本当にこれで最後にするしかない。
現実的には非常に怪しいが……
「とりあえず、早く攻略しましょう!」
俺の呼びかけに他の三人が頷き、探索が始まる。
ダンジョンの天候はフロアごとに違い、今回は満月と満点の星空が広がる夜。
地形はアルプスを思わせる山岳地帯で、地面にはうっすらと雪が積もっている。
魔力のおかげで寒さは感じないが、少々歩きにくい。
地形的に探索は少し時間がかかると見越して、一時間半の単独行動後、俺たちはポータルの位置まで戻って来る。
「どうでしたか?」
全員が首を横に振る。
どうやら、俺を含めゲートを見つけた人はいないらしい。
それから全員の探索したエリアをアプリ内のマッピング機能に反映させ、探索していないエリアを洗い出す。
残った範囲の規模的に、単独で探索する必要はなさそうだ。
ゲートがあると思われるエリアに四人で向かう。そして――
「あれがフロアボス」
「炎竜と同種、氷竜ってところか?」
俺たちを待っていたのは、最初に戦った炎竜と同じ竜種で、全身が氷のように透き通った鱗に覆われた竜だった。
「最後は積雪地帯の東北らしくて良いじゃない」
「おじさん。やる気が出てきたよ」
気分が上がっていた俺たち同様に、視聴者の方もテンションがあがる。
同時接続数はちょうど100000人を超えた。
「それじゃ、最後は派手に全員でやりますか……っ!」
一般人:撮影係は?
「それならご安心を」
俺は片手剣と一緒に背負っていた三脚を地面に立てる。
実は前のフロアで手に入れた魔鉱石を預ける際に、仙台支部の方に頼んで配信に耐えられる三脚を用意してもらったのだ。
「これで多分大丈夫なはずです!」
一般人:いや大丈夫って……
一般人:氷竜の攻撃が当たったらどうすんの?
「その時はドンマイってことで」
一般人:そんな……っ!
一般人:ここまでついて来たのに!
そんなことを言われても仕方がない。
「だってこれは憂さ晴らし配信ですよ? 最後はみんなではっ茶けないと!」
一般人:確かにそうだったな
一般人:なら仕方ないか
元メンバー:上手く言いくるめやがった
元メンバー:さすがは学生リーダーw
元メンバーが何か言っているが、いつものことなので気にしない。
「それじゃ皆さん。準備は良いですか?」
三人が頷くと、最初に牧さんが先陣を切った。
牧さんは三人の中で最も身軽なので、攻撃力や防御力といった能力を図ることに長けている。
「動きの俊敏性以外は全て炎竜以上って感じだな」
俺たちの下に合流した牧さんが、戦ってみた感覚を教えてくれる。
「特に厄介なのはブレス攻撃ですね」
「ええ。攻撃を受けなくても足場が悪くなる」
「おじさんには辛いよ~」
攻撃をよけるのはたやすいが、フィールドに影響があるのは厄介だ。
特に足場が悪くなると、力が入らずこちらの攻撃の威力が弱まってしまう。
「まあ、厄介なら最初からさせなければいいだけの話ですけどね」
「こういうのは木戸さんの得意分野だな」
「木戸さん、引き受けてもらえますか?」
「もちろん。おじさん頑張るよ」
作戦が固まったところで、再び牧さんが先陣を切る。
だが、今度は後ろに俺と宮辻さんが続く。
氷竜は牧さんへ注意を向け、その隙に俺と宮辻さんがそれぞれ一撃を加える。
事前に聞いていた通り、炎竜より硬い。鱗が氷になっているせいか斬撃があまり効いている感覚がない。
このまま攻撃を続けていても何とかなりはするだろうが、それはつまらない。
ここはやはり、打撃専門の木戸さんに派手にやってもらおう。
四肢についた爪や尻尾による攻撃を巧みにかわしつつ、確実に攻撃を加えていくと、苛立ちを覚えた氷竜がブレスを吐く体制に入る。
「木戸さん……っ!」
「分かってるよ~」
その瞬間を待っていたと、俺の声より先に木戸さんが氷竜の懐に入り、そのまま氷竜の顎を下から突き上げる。
ブレスを吐き出すことができず、むせ返るように氷竜が動きを止める。
僅か数秒の硬直だが、俺たちにはそれで十分だった。
唯一の弱点と呼べる腹部に木戸さん以外の三人が、木戸さんは亀裂を入れるために鱗へそれぞれ攻撃する。
亀裂さえ入ってしまえば、斬撃でも十分にダメージを与えることができる。
ここまでくれば、後は簡単だ。
俺たちは一気に畳みかけ、勝負を決めるのだった。
※※※
炎竜の時と同様、バスケットボール程の大きさの水晶玉のような魔鉱石を両手に持った俺は、視聴者に呼びかける。
「とりあえず、無事に50階層も攻略することができました!」
一般人:やっぱこの廃人ドルオタヤバいわw
一般人:なんでこんなに強いの?
元メンバー:ドルオタの底力を証明してくれてありがとう
俺の言葉に驚きと称賛の言葉相次いで送られる。
「久しぶりに連携組みましたけど、けっこういい感じじゃなかったですか?」
「そうだな。ソロで無双するのも良いが、たまにはこういうのもいいな」
「また機会があったらやりましょ」
「おじさん。楽しみにしてるよ~」
俺たちのやり取りに対して、コメント欄が慌ただしくなる。
一般人:もしかしてこれが最終回?
一般人:そんなことないよな?
「いやだって、これ憂さ晴らし配信なので」
「憂さ晴らしが十分できた以上、もうやる意味なくね?」
「私もそろそろ別の仕事しないと」
「おじさんも店の経営が……」
「まあ、その辺はまた気が向いたらということで……!」
一般人:良くない!
一般人:また見たい!
「いや~今日は長い時間お付き合いして頂いてありがとうございました。では最後に、次階層に到達して終わりにしようと思います!」
名残惜しむようなコメントを聞きながら、俺たちはゲートの前に立ち、ゆっくりと足を踏み入れる。そして――
「あれ……?」
ゲートを出た先の光景に目を疑った。
「これって……」
「1階層だな」
「ということは」
「おじさん達、やっちゃった感じ……?」
念のために確かめてみたが、最初に来た時に攻略した1階層と同じだった。
最終層のゲートは1階層に繋がっていることは、探索者の界隈では有名な話だ。
つまり、俺たちは一つのダンジョンを完全踏破してしまったらしい。
「はは、ははは……」
俺と同様に、他のメンバーも苦笑や乾いた笑みを浮かべている。
中規模ダンジョンとはいえ、踏破してしまったことに変わりはない。
配信云々はともかく、これから色々と忙しくなりそうだ。




