第4話 鶴の一声
どうして、どうしてこうなった……
200メートル先で炎竜と楽しそうに戦っているメンバーを見ながら、俺は思わず本音を零す。
「こんなことなら、配信したいとか言うんじゃなかった」
まさかお楽しみの炎竜との戦いを奪われるとは思わなかった。
俺が戦わなくてもALLの名誉は守られるが、それでは納得がいかない。
俺が零した本音に、視聴者が即座に反応する。
一般人:お前がそれを言うなw
一般人:気持ちは分かるけどなw
元メンバー:チョキを出したのが悪い
一般人:↑それなw
さっきから草ばかり生やしやがって、チクショウ……っ!
内心でさらに地団駄を踏む。
一般人:てか、炎竜ってAランクだよな?
元メンバー:正確にはAランクが数人がかりでやっと勝てるレベル
一般人:あの人たち余裕そう
一般人:普通に遊んでる
視聴者の言う通り、パフォーマンスのつもりなのか、皆さん本気を出していない。
わざと炎竜に攻撃させては、五分の力も入っていない攻撃を当てて挑発している。
炎竜からすればストレスがたまる一方だろうが、皆からすれば本当に良い憂さ晴らしになっていることだろう。
「ああ。俺も混ざりたい」
今すぐカメラを置いて皆の下へ駆け出したい。
一般人:それはダメな
一般人:ごめんな
元メンバー:チョキを出したのが悪い
一般人:↑それなw(2回目)
こんなところまで来て憂さ晴らしができないなんて、許されるのだろうか?
いや、許されるはずがない。
「やっぱ我慢とかできないわ」
俺はそっと地面にカメラを置く、角度的に少しは戦闘が見えるはずだ。
一般人:おい、一体何を?
一般人:まさか本気で……
視聴者が心配しているのを他所に俺は軽くその場で何度か屈伸してから思い切り地面をけって駆け出す。
地面を蹴った風圧でカメラが動いたのか、コメント欄が騒がしくなる。
一般人:角度が変わったぞ……っ!
一般人:草しか見えん!
一般人:学生リーダー戻ってこい!
一般人:今なら許してやるから!
一般人:お願い戦い見せてくれ!
元メンバー:チョキを出したのが悪い
一般人:↑それはもういい!
視聴者からの悲痛な叫びがイヤホン越しに聞こえてくるが、今の俺の眼中には炎竜しか映っていない。
いくら炎竜といえど、皆に何度もいたぶられれば消耗も激しいはずだ。
本気で一撃を入れれば、すぐに魔鉱石と化すことだろう。
「散々楽しんだんだ、最後の一番おいしいところは俺が頂く!」
意気揚々と宣言し、俺は炎竜の首元へ一撃を加えた。
その瞬間、炎竜はバスケットボールほどの紫色の紅玉となった。
「ちょっと雅人くん!」
「いきなり何しやがる!」
「最後はおじさんがもらおうと思ったのに……」
炎竜を仕留めた俺に、皆が非難の声を浴びせてくるが、そんなことは一切気にしない。
「あ~いい憂さ晴らしだった!」
すっきりした俺はその場で大きく伸びをした。その5分後――
「皆さま、本当に申し訳ございませんでした!」
俺はサークルメンバーおよび視聴者に向かって土下座した。
※※※
現実問題、このまま配信を終えるわけにはいかない。
炎竜の魔鉱石を持っているので、ちゃんとALLの幹部が炎竜を余裕で倒したという事実は証明できるのだが、それではダメだ。
俺の起こした不祥事によって、少なからず今までアイラに尽くしてきたALLの皆の評価に傷をつけた。
ALLの皆の名誉を挽回してからでないと、配信を終えられない。
30分近くメンバーと視聴者から説教を食らった俺は、一度15分の休憩を挟んでその間に対応策を考えた。
どうすれば、今回俺が起こした不祥事をチャラにできるのか。
色々と考えていると、休憩中なのにチャット欄が騒がしくなった。
香月りか:余裕があるようでしたら、もう少し上の階層を見てみたいです!
一般人:香月りかちゃんだ……っ!
一般人:今話題の……っ!
一般人:香月りか、こんな配信見るんだ
元メンバー:学生リーダー、挽回できるチャンスですぞ!
見てみると、ダンジョン配信者の一人が書き込みを行ったようだ。
調べてみると、配信者として有名な人のようで、新進気鋭の天才美女配信者の異名を持つらしい。チャンネル登録者数もその異名に恥じず30万人と結構すごい。
これは元メンバーが言った通り、挽回できるチャンスかもしれない。
「あの……皆さん」
俺は恐る恐る怒らせてしまったメンバーの様子をうかがう。
「雅人」
「は、はい……っ!」
「こうなったら、未到達階層まで行くぞ!」
「牧さん……っ!」
一番怒っていそうな牧さんが真っ先に話に乗ってくれる。
続いて他の二人に視線を向けてみる。
「仕方ないから付き合ってあげるわよ」
「ALLのメンバーにこれじゃ申し訳が立たないからね」
「み、皆さん……っ!」
メンバの人柄の良さに胸が熱くなる。
俺は早速、視聴者に向けて告げる。
「そういう訳なので、配信延長です。目指すは未到達階層!」
反省の意を込め、気だるい感じを捨てて気合の入った宣言をする。
一般人:マジか……っ!
一般人:こいつらならやりかねん
元メンバー:↑まあやるでしょう
元メンバー:↑やってもらわないと困る
元メンバー:ドルオタの底力を見せてくれ
最後に元メンバーが言った通り、ドルオタの底力を見せるしかない。
「そうと決まれば、早速出発だ」
牧さんの号令に頷くと、俺たちは次階層へ向けて出発する。
香月りか:未到達階層……?
香月りか:あの、本当に無理だけはしないでくださいね?
鶴の一声だけでなく、心配までしてくれた。
香月りかさんには、今度しっかりお礼をしようと誓った。




