第25話 昇格と日本最強
幹部会議を終え、迎えた翌日。
俺たち幹部四人は、六本木にある探索者協会本部へ訪れていた。
理由は昇格の打診を受けると伝えるためだ。
「思った通りというか」
「中々、すごかったわね」
「おじさん、少し引いちゃったよ」
「まあ、仕方ないですね……」
本部内の廊下を歩きながら、手続きの様子を振り返る。
最初、本部へ足を踏み入れた時、協会側は俺たちが拒絶のために抗議しに来たと思ったらしい。
今まで俺たちが頑なにあれこれ理由を付けて拒絶していたので、無理もない反応だった。
それから、俺たちが来た目的はその逆だと伝えると、様子が一転、滝のように涙を流して大歓迎された。
どうやら、日本の探索者不足に嘆いている政府をはじめ、各方面から相当の圧力が協会側に掛けられていたらしい。
「こっちの要望も通ったので良しとしましょう」
「そうだな。これで思う存分、色々武器が使えるってものだ」
今回の昇格の要請を受ける代わりに、俺たちはある条件を出した。
それは、今回依頼する希少な魔鉱石を利用した武具の製造代の全額負担並びに、今後依頼する武具の生産の約9割を協会が負担するという要望。
金属系の魔鉱石を加工できる人材は限られており、白金竜の魔鉱石を加工するとなると、四桁万円は覚悟しなければいけないレベルになる。
正直、かなり無茶な要望だと思ったのが、協会側は嫌な顔せず引き受けた。
「ちなみに、さっき職員たちの会話がチラッと聞こえたけど、私たちの要求、Sランクの待遇としてはかなり安上がりらしいわよ」
「はっ、マジ?」
宮辻さんの暴露に、俺たちは耳を疑う。
安上がりって、一体どういうこと?
改めてSランク探索者の異常さを痛感していると、スーツを着崩した男が一人、通路脇に立っていることに気づく。
クールな印象を与えるキリっとした顔立ちに、良い感じにふんわりとパーマがかかった銀髪。
そして服の上からでも分かる元自衛官の牧さんを遥かに凌駕する屈強な身体。
三十代後半らしいが、かなり若々しい。
「やあ、会いたかったよ。ALL元幹部」
「「「「……」」」」
日本最強の探索者、上宗一郎は俺たちの姿に気づくと笑顔で近づいてくる。
だが、俺たちの中の誰一人として、上さんに対して笑顔を見せない。
「その様子だと、やはり歓迎されないか……」
さすがに自分のしたことの罪深さは分かっているのだろう。
少し罰が悪そうに、上さんは続けた。
「罪滅ぼしと言ったら何だが、家で食事でもどうだろうか」
ちなみに、家の画像まで見せてきた。
港区の高級タワーマンションで、一流のシェフ付きらしい。
「これは……」
「ああ」
「仕方ないから」
「行ってあげようか」
俺たちはホイホイと上さんについていった。そして――
「気休めだが、一応ここにはタダで住んでいる」
マジかよ……
都内の景色が一望できる高級マンションの最上階にやって来た俺たちは、セレブすぎる生活模様に絶句する。
普通に購入すれば数億の物件だが、それを協会が購入して上さんに譲渡したらしい。
他にも俺たちが要求したような武器に関しても基本的に全額協会持ちだというし、それ以外にも色々あるのだとか。
「こんなことならもっと要求していれば……」
「協会はあれでも資金は潤沢なんだ。仕事さえこなせば、後からいくらでも要求できるから安心して欲しい」
俺と同じように他の三人が気落ちしていると、上さんがすかさずフォローを入れてくる。
上さんがそう言うのだから間違いないのだろう。後で協会には、色々と請求してやろう。
「さて、そろそろ食事にしようか」
そう言って上さんは俺たちをテーブルに案内すると、豪勢な食事とワインを振る舞ってくれる。
どれも馴染みのない高級品ばかりで、すぐに平らげてしまった。ちなみにこれらも何割かは協会が負担しているらしい。
追加でシェフの方に色々作ってもらい、さらに宴が続く。そして――
「野田くん。少し二人で話がしたいんだが、いいか?」
牧さんたち三人の方を見ると、行って来いと頷かれる。
「それで、お話っていうのは?」
夜景が見える個室に移動すると、早速本題を尋ねる。
「そんなに畏まらないでくれ。純粋に片手剣使い同士で話がしたかっただけだ」
「ああ、なるほど」
この手の話になると、どの武器が最高かについて議論になりがちだ。
普段の三人なら言い争いになることはないが、今はお酒が入っている。
確かに妥当な判断だ。
最初にどうして片手剣を選んだの話から始まり、普段意識していることなど探索者らしい有意義な会話を続けていく。
「片手剣使いといえば紫冥将もですよね」
「だな。どうだった、実際に剣を受けてみて」
「正直、あまり覚えてないですね。ひたすら攻撃を受け切ることに必死でしたから」
「まあ、そうなるよな。ちなみに壊れた武器はどうするんだ?」
「実は、白金竜の魔鉱石を使ったものに変える予定なんです」
「本当か……っ!」
上さんが目を輝かせる。
やはり上さんを持ってしても、白金竜の武器は持っていないようだ。
これは普通に嬉しい。ますます新しい相棒が楽しみだ。
それから更に俺たちは片手剣トーク以外にも、Sランクの仕事はじめ色々な話題に花をさかせ、時間を忘れて語り合う。
すると、顔を赤くした牧さんが入って来た。
「いい加減帰るぞ、雅人!」
お酒にはめっぽう強い牧さんなのだが、希少なワインが飲めるということで量を考えずに飲んでしまったらしい。
明日の夜には昇格に関する記者会見を行うことになっているのに、何をやっているのやら。
「すみません上さん。今日はこの辺りで」
「ああ。良かったらまた来てくれ」
「是非!」
最後に上さんと握手を交してから、俺たちは日本最強の自宅を後にした。
※※※
雅人たちが帰った後、リビングで宗一郎は一人、グラスに入ったワインを口に含む。
(今日はいい日だったな)
常に最前線にいる宗一郎にとって、こうした気の休まる時間は非常に貴重だ。
(やはり、彼らを推薦したのは正解だった)
もちろん宗一郎が推薦したのは協会から頼まれたというのもある。
しかし、一番の理由は違った。
(早く。ここまで来てくれよ)
最前線は常に人手不足だ。正直、攻略が停滞しているというのが実情だった。
故に宗一郎は自分たちと共に最前線で戦ってくれる者たちを探していた。
そして今日、雅人たちと話して確信した。
彼らならその期待に必ず応えてくれると。
(それに彼らとなら――)
かつて逃げ延びることだけで精一杯だった、紫冥将に手が届くかもしれない。
宗一郎は、かつてない程に胸の高鳴りを感じていた。




