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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
3章 現実逃避

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第23話 二人の夜

 どうして、こうなった……


 今まで体験したことがない程、心臓がバクバクと音を鳴らす中、俺は隣で腕を掴む里香を見る。


 一応いっておくが、俺たちはそういう関係ではない。きちんと着るものは着て、履くものは履いている。


 ただ、それでも色々と思わずにはいられないというのが、経験乏しき男というものだ。


 本当に、どうしてこうなった――


 紫冥将から何とか逃げ切った俺は意識を失い、配信を見て駆けつけてくれた新宿支部の人たちに連れられ、近くの病院に搬送された。


 幸い意識は回復し、諸々の検査の結果、骨折といった重度の怪我はなく、腕の筋組織がそれなりに損傷しただけで済んだ。

 しばらく強烈な筋肉痛が来るらしいが、あの状況でその程度の損傷なら幸運といえるだろう。


 問題は、精密検査の時以外、ずっと俺の腕を掴んで離さない里香だった。


「里香、そろそろ帰るから」

「……」


 病院を出て、里香に離れるよう促すが、返事は返ってこない。

 同じように何度か離れるように促したが、見ての通り一向に離す気配がなく、加えて黙りっぱなしだった。

 色々と里香に心配をかけてしまったし、それで怒るのも無理はない話だと思うが、さすがにこのままは良くない。


 検査の結果、軽症であると分かった以上、病院に長いする理由はないし、先の戦闘で疲労も溜まっている。

 疲れているという意味では、里香の方だってそうだ。彼女にもすぐに休息を取ってもらいたい。


「里香」

「……嫌です」


 ようやく口を聞いてくれたと思ったらこれだ。

 全く、どうすればいんだ。


「今日は、ずっと一緒にいたいです」

「えっ――」

「雅人さんの近くに、いたいです」

「……っ」


 俺の思考を見透かしているかのように、里香が望みを伝えてくる。

 

 これは、そ、そういうことなのか?

 いや待て。勘違いするな。


 俺と同じように、里香だって命の危機にさらされて、怖かったんだ。

 誰かと一緒にいたいと思うのは自然だし、それが同じ恐怖を共有できる俺なら猶更だ。

 ずっと一緒にというのは無理だが、もう少しだけ一緒にいてあげよう。


「分かった。とりあえず家まで送っていくよ」

「雅人さんの家が、いい」

「……」


 んんんんん……っ!

 思わず眉間に皺を寄せる。


「里香、言ってることの意味、分かってる?」

「分かってます。雅人さんが望むなら、抱いたって――」

「わ、分かった。分かったからそれ以上は言わなくていい」


 もちろん、手を出す気など全くない。

 ムードに負けて初体験なんて、俺は絶対に嫌だからな!


 強がることで誤魔化してみるが、現実問題、これは本当に困った。

 ここまで覚悟を決めているとなると、拒絶することは難しい。

 

 ここは、俺も覚悟を決めるしかない。


「分かった。でも絶対に手は出さないからな」

「――」


 頼むから何か言ってくれ……っ!


 ――と、そんな感じで今に至る訳なのだが……


「里香。さすがに同じベットの上は」

「嫌です。一緒がいいです」

「……」


 ベットは一つしかないのでソファーで眠ろうとしたところ、強引にここまで引きずり込まれた。

 狭いシングルベットの上で、里香に腕を両手で抱きしめれて拘束された状態だ。

 

 これは、色々とヤバい……


 仄かな体温に、俺と同じシャンプーの香り。

 極めつけは、決して小さくない胸の谷間が腕を挟む感触。


 男としての本能を抑えるのにも限界がある。

 限界を突破してしまう前に、里香に告げる。


「里香。手を繋ぐだけで許してくれ」

「……」

「鎮痛剤が切れてきてな、少し痛い」

「あっ……」


 まだ効果が切れる時間ではないが、こうでも言わないと離してくれそうもない。

 少し申し訳ないとは思うが、ここは俺の名誉を守るためと思って許して欲しい。


 里香は小さく謝ってから腕の拘束を解くと、二人で仰向けになって並び手を握る。

 入浴後の余熱が残っているのか、小さいながらも里香の手はまだ温かい。

 その暖かさに安心感を覚えていると、先に里香が口を開く。


「雅人さん。私が今日は離れたくないって言った理由、ちゃんと分かってますか?」

「何となくは……」


 命の危険に晒されて怖かったから、同じ思いをした俺と一緒にいたい的なやつだろ……多分。


「私、本当に怖かったんです……」


 ほら、やっぱり――


「私が一緒についてきたせいで、雅人さんを危険に晒してしまって……万が一のことが雅人さんにあったら、私どうしたらって……」


 あ、あれ……?


「だから、私なんかであれですけど、良かったらって、それくらしか返せないですから……」

「お、おう……」


 つまり、里香は自分のせいで俺が危ない目にあって、不安だった。

 そして、その罪滅ぼしのために抱かれてもいいと言ったと……


 改めて、手を出さなくて良かったと思う。

 償い的な感じで経験したって、いい思い出になりはしない。

 むしろ、今度はこっちが罪悪感に苛まれるところだった。


「雅人さん。やっぱり……」

「悪い。分かってなかった」

「なら、改めてどうですか?」

「改めってって……?」

「私のこと、抱きますか?」


 そう言って里香は俺の方へ顔を向けてくる。


 反射的に俺も顔を向けると、頬を朱に染めた里香の潤んだ瞳と目が合う。


 据え膳食わぬは男の恥というが、ここは恥をかいても自分の意思を貫かせてもらおう。


「遠慮しておきます」

「私、魅力ないですか?」

「いや、そんなことはない」

「じゃあ何でですか? やっぱり、私にそういう経験がないからですか?」

「えっ、そ、それは――」


 待ってくれ、里香って処女なのか――


「やっぱり、そうなんですね」

「いや、そういうわけじゃないから!」

「じゃあ、お姉ちゃんみたいな子の方が」

「――」

「そこはすぐに違うって否定してくださいよ!」


 パチンと、やさしく頬を叩かれる。

 これで変な雰囲気が終わってくれるなら、安いものだ。


 それからしばらく間、里香に恥をかかせたことに対する文句を言い続けられ、それが落ち着くと、里香がそっと俺の胸に頭を預ける。


「雅人さん。これからどうするんですか?」

「どうするって?」

「ダンジョン。また行くんですか?」


 不安そうな瞳で見つめられ、俺はこの先のことを考える。

 

「しばらくは行かないだろうな」


 今日あんなことがあったのだ。

 普通に行きたいとは思わないし、今はお金もあるので、金銭的な面でも行く理由がない。

 加えて、今日の戦闘で愛剣が木端微塵になってしまった。

 新しい相棒が見つかるまでは、そもそもダンジョンに入ることはできない。


「なら、また私と一緒に出掛けましょ。今度は泊りで温泉とか」

「あの、そろそろ俺、本当に勘違いするよ?」

「勘違いしてくれていいですよ?」

「……」


 どうやら俺はまだ夢から覚めていないらしい。


「現実ですよ?」

「本当だ」


 頬をつねられると、普通に痛かった。

 

「私、雅人さんが望めば、いつでもOKですからね?」


 何をとは、あえて聞かず、俺はそっと里香を抱き寄せてから、徐々に強まりつつあった眠気に従うのだった。


 そして翌朝――


「雅人さん。これ――」

「マジか――」


 配信の一部に入ってしまっていたのだろう。

 紫冥将との戦闘を終え、里香が俺に抱き着いている画像がネットニュースの一面に大々的に表示されていた。


「吊り橋効果的な感じで、許してくれないかな」


 特にりかファンの追撃が怖い。

 そんな思いで呟くと、里香に思い切り頬をつねられるのだった。



 


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