第21話 日本最強の登場
休憩明けからは、里香と一緒に配信を行うことになった。
里香はアイラに負けない何かを欲している。
そのために、アイラが挑むことはないであろうダンジョンに希望を見出し、里香は今までダンジョン配信を行ってきた。
なのに、アイラがダンジョン配信を始めた。
里香からすれば当然、気が気でない。気晴らしがしたいと考えるのは自然なことだ。
「どうして、誘ってくれなかったんですか?」
「そ、それは……」
事情を知っているのだから、気を利かせて誘って欲しかった。
そんな感じだろうか……?
言われれば分かるが、それを察しろというのはハードルが高い。
何せ俺は異性との交際経験0だからな(涙)
「配信、今から参加してもいいですよね?」
「もちろんです……っ!」
グダグダ考えている間に、完全に外堀を埋められてしまった。
断るという選択肢はないので、即答だ。
というわけで――
「それじゃ、憂さ晴らし配信再開しま~す」
高級ランチを満足に堪能することなく。
ダンジョンに戻った俺はカメラを起動し、インカムに向かって配信再開を宣言する。
元メンバー:戻って来たか
りかファン:事情を聞こうか、雅人
一般人:↑りかファン怖いw
配信切る前に、りかファンに弁明必須みたいになってたな。
せっかく本人がいるので、ここは本人に答えてもらおう。
隣にいる里香へ視線を向ける。
「香月さん。答えてください」
「一人で配信するなら一声くらいかけて欲しかったな~って」
一般人:一人でやりたい時もあるくない?
りかファン:りかちゃんって寂しがりや?
「あの、何か言いましたか?」
一般人:言ってません!
りかファン:すみませんでした!
元メンバー:完全に調教されているw
普通なら割と説明がいるところだが、流石は香月りか。これ以上、聞くなという一言で、視聴者からの追及を終わらせた。
「それより野田さん。午後の目標は?」
「そうだな……状況にもよるけど、100階層くらいまで行ければベストかな」
新宿ダンジョンの現在の最高到達階層は153階層であり、階層が上がるにつれて踏破難易度は上がる。153階層というのも、Sランク探索者が7名パーティーを組んでやっと踏破したという話だ。
俺と里香の実力を踏まえ、二人で安全に踏破できるとすれば、100階層あたりと考えている。
俺の考えに里香が同意して目標が決まると、コメントが急増する。
一般人:100階層って、正気か?
一般人:この二人スケールが違うわ
りかファン:さすが我らのりかちゃん
りかファン:↑雅人もなw
視聴者たちが盛り上がってきたところで、早速探索開始だ。
まずは階層まで踏破している里香が先行し、それに俺が続く形で探索を進めること一時間。
「まずは70階層到達だな」
一般人:早すぎw
一般人:この二人が組めば当然
一般人:てか、香月りか強過ぎじゃない?
元メンバー:最近一気に伸びてる
りかファン:野田仕事してない
それに関しては本当にすみません。
ここに至るまで、俺は里香の後ろについて走るだけだった。
もちろん、俺も戦闘がしたいと言ったが、聞き入れてもらえなかったのだ。
多分、俺に気を遣ったとかではなく、単純に里香がストレス発散したかったのだろう。
俺も適度に戦闘をこなして、ストレスを発散したかったのに……
まあ、一人で暴れられるのもここまでなので仕方ない。次の階層からは、二人にとって未知の領域になる。
「ここから先は突っ走ったらダメだからな」
「分かってます。ちゃんと二人で戦いましょう」
色々発散してすっきりしたのだろう。
里香は明るい表情で俺の言葉に頷くと、次の階層に向けて一歩を踏み出す。
そして、着実に一つ一つの階層を攻略をしていき、88階層に到達した時だった。
「野田さん、あれ」
鍾乳洞のような薄暗い洞窟の中で、一体の西洋風の鎧が当てもなく徘徊している。
紫色の装甲は鈍い光を放ち、間接部分からは青い微炎が漏れ出ている。
武器は刃渡り一メートルほどの剣一本で、俺と変わらぬ体躯でありながら、炎竜王とは比較にならないほどの絶望のオーラが漂っていた。
探索者としての勘が告げている。
あいつと戦ってはいけないと。
一般人:急にどうした
一般人:何か鎧がさまよってる
一般人:高階層だとあんな魔物が出るのか
りかファン:てか、二人の様子が
元メンバー:明らかにおかしいな
現地にいない視聴者には、当然今の状況のヤバさが分からない。
それも仕方ないと思っていると――
上:あれは紫冥将だ
一般人:上……?
一般人:まさかあの上か……っ!
りかファン:誰?
元メンバー:日本最強の探索者だ
上宗一郎。元メンバーが言った通り、日本最強の称号を持つSランク探索者だ。
そんな男が俺たちの配信を見ているなんて……って、そんなことを考えている場合ではない。
俺は小声で日本最強に尋ねる。
「何ですか。紫冥将って」
上:説明している時間はない。早く逃げろ
一般人:ヤバいやつなの?
一般人:ら、ランクは?
上:SSSランク。いいから早く!
魔物のランクにSSSランクは存在しない。
つまり、紫冥将は規格外ということ。
日本最強が言うのだから間違いない。
マジかよ……
「野田、さん……」
「ああ。分かってる」
顔を青ざめさせる里香に小さく頷く。
今回ばかりは本当に勝てる気がしない。
日本最強の言う通り、ここは里香を連れて早く逃げるべきだ。しかし――
「どうしたものかな……」
紫冥将の兜の隙間から垣間見える切れ長の黄金の瞳は、真っすぐ俺たちを捉えていた。
※※※
雅人のことは注目の探索者ということで、宗一郎も注目していた。
今日も一人で配信すると聞いて、わざわざ最初から見ていたほどだ。
「だが、まさか紫冥将と遭遇するとは」
自室でノートPCの画面を睨みながら、上宗一郎は自分にできることを考える。
逃げろと最初に書き込んだが、状況を見るにそう簡単にはいかない。
今から助けに行くことは物理的に不可能であり、仮に行くことができても大した助けにはならないだろう。
そうなると、できることは一つしかない。
「思い出せ。俺が奴と対峙した時のことを」
十年前。紫冥将と遭遇した時、どうして宗一郎は生還できたのか。
鮮明に残る命がけの戦いを思い出しながら、宗一郎はキーボードを叩く。
上:絶対に紫冥将の攻撃を受けるな
雅人はチャレンジャー気質な部分がある。
剣を交えようとしても不思議ではない。
だが、それは悪手中の悪手。
「それだけは絶対にするんじゃないぞ」
自分のアドバイスが雅人に届くことを祈りながら、宗一郎は再び画面に集中するのだった。




