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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
3章 現実逃避

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第21話 日本最強の登場

 休憩明けからは、里香と一緒に配信を行うことになった。


 里香はアイラに負けない何かを欲している。

 そのために、アイラが挑むことはないであろうダンジョンに希望を見出し、里香は今までダンジョン配信を行ってきた。

 なのに、アイラがダンジョン配信を始めた。


 里香からすれば当然、気が気でない。気晴らしがしたいと考えるのは自然なことだ。


「どうして、誘ってくれなかったんですか?」

「そ、それは……」

 

 事情を知っているのだから、気を利かせて誘って欲しかった。

 そんな感じだろうか……?

 言われれば分かるが、それを察しろというのはハードルが高い。

 何せ俺は異性との交際経験0だからな(涙)


「配信、今から参加してもいいですよね?」

「もちろんです……っ!」


 グダグダ考えている間に、完全に外堀を埋められてしまった。

 断るという選択肢はないので、即答だ。


 というわけで――


「それじゃ、憂さ晴らし配信再開しま~す」


 高級ランチを満足に堪能することなく。

 ダンジョンに戻った俺はカメラを起動し、インカムに向かって配信再開を宣言する。


 元メンバー:戻って来たか

 りかファン:事情を聞こうか、雅人

 一般人:↑りかファン怖いw


 配信切る前に、りかファンに弁明必須みたいになってたな。

 せっかく本人がいるので、ここは本人に答えてもらおう。


 隣にいる里香へ視線を向ける。


「香月さん。答えてください」

「一人で配信するなら一声くらいかけて欲しかったな~って」


 一般人:一人でやりたい時もあるくない?

 りかファン:りかちゃんって寂しがりや?


「あの、何か言いましたか?」


 一般人:言ってません!

 りかファン:すみませんでした!

 元メンバー:完全に調教されているw


 普通なら割と説明がいるところだが、流石は香月りか。これ以上、聞くなという一言で、視聴者からの追及を終わらせた。


「それより野田さん。午後の目標は?」

「そうだな……状況にもよるけど、100階層くらいまで行ければベストかな」


 新宿ダンジョンの現在の最高到達階層は153階層であり、階層が上がるにつれて踏破難易度は上がる。153階層というのも、Sランク探索者が7名パーティーを組んでやっと踏破したという話だ。

 

 俺と里香の実力を踏まえ、二人で安全に踏破できるとすれば、100階層あたりと考えている。


 俺の考えに里香が同意して目標が決まると、コメントが急増する。


 一般人:100階層って、正気か?

 一般人:この二人スケールが違うわ

 りかファン:さすが我らのりかちゃん

 りかファン:↑雅人もなw


 視聴者たちが盛り上がってきたところで、早速探索開始だ。


 まずは階層まで踏破している里香が先行し、それに俺が続く形で探索を進めること一時間。


「まずは70階層到達だな」


 一般人:早すぎw

 一般人:この二人が組めば当然

 一般人:てか、香月りか強過ぎじゃない?

 元メンバー:最近一気に伸びてる

 りかファン:野田仕事してない


 それに関しては本当にすみません。


 ここに至るまで、俺は里香の後ろについて走るだけだった。

 もちろん、俺も戦闘がしたいと言ったが、聞き入れてもらえなかったのだ。

 多分、俺に気を遣ったとかではなく、単純に里香がストレス発散したかったのだろう。


 俺も適度に戦闘をこなして、ストレスを発散したかったのに……


 まあ、一人で暴れられるのもここまでなので仕方ない。次の階層からは、二人にとって未知の領域になる。

 

「ここから先は突っ走ったらダメだからな」

「分かってます。ちゃんと二人で戦いましょう」

 

 色々発散してすっきりしたのだろう。

 里香は明るい表情で俺の言葉に頷くと、次の階層に向けて一歩を踏み出す。

 

 そして、着実に一つ一つの階層を攻略をしていき、88階層に到達した時だった。


「野田さん、あれ」


 鍾乳洞のような薄暗い洞窟の中で、一体の西洋風の鎧が当てもなく徘徊している。


 紫色の装甲は鈍い光を放ち、間接部分からは青い微炎が漏れ出ている。

 武器は刃渡り一メートルほどの剣一本で、俺と変わらぬ体躯でありながら、炎竜王とは比較にならないほどの絶望のオーラが漂っていた。


 探索者としての勘が告げている。

 あいつと戦ってはいけないと。


 一般人:急にどうした

 一般人:何か鎧がさまよってる

 一般人:高階層だとあんな魔物が出るのか

 りかファン:てか、二人の様子が

 元メンバー:明らかにおかしいな


 現地にいない視聴者には、当然今の状況のヤバさが分からない。

 それも仕方ないと思っていると――


 かみ:あれは紫冥将しめいしょう

 一般人:上……?

 一般人:まさかあの上か……っ!

 りかファン:誰?

 元メンバー:日本最強の探索者だ


 上宗一郎かみそういちろう。元メンバーが言った通り、日本最強の称号を持つSランク探索者だ。

 

 そんな男が俺たちの配信を見ているなんて……って、そんなことを考えている場合ではない。


 俺は小声で日本最強に尋ねる。


「何ですか。紫冥将って」


 上:説明している時間はない。早く逃げろ

 一般人:ヤバいやつなの?

 一般人:ら、ランクは?

 上:SSSランク。いいから早く!


 魔物のランクにSSSランクは存在しない。

 つまり、紫冥将は規格外ということ。

 日本最強が言うのだから間違いない。


 マジかよ……


「野田、さん……」

「ああ。分かってる」


 顔を青ざめさせる里香に小さく頷く。

 今回ばかりは本当に勝てる気がしない。

 日本最強の言う通り、ここは里香を連れて早く逃げるべきだ。しかし――


「どうしたものかな……」


 紫冥将の兜の隙間から垣間見える切れ長の黄金の瞳は、真っすぐ俺たちを捉えていた。


         ※※※


 雅人のことは注目の探索者ということで、宗一郎も注目していた。

 今日も一人で配信すると聞いて、わざわざ最初から見ていたほどだ。


「だが、まさか紫冥将と遭遇するとは」


 自室でノートPCの画面を睨みながら、上宗一郎は自分にできることを考える。


 逃げろと最初に書き込んだが、状況を見るにそう簡単にはいかない。


 今から助けに行くことは物理的に不可能であり、仮に行くことができても大した助けにはならないだろう。


 そうなると、できることは一つしかない。


「思い出せ。俺が奴と対峙した時のことを」


 十年前。紫冥将と遭遇した時、どうして宗一郎は生還できたのか。

 鮮明に残る命がけの戦いを思い出しながら、宗一郎はキーボードを叩く。


 上:絶対に紫冥将の攻撃を受けるな


 雅人はチャレンジャー気質な部分がある。

 剣を交えようとしても不思議ではない。

 だが、それは悪手中の悪手。


「それだけは絶対にするんじゃないぞ」


 自分のアドバイスが雅人に届くことを祈りながら、宗一郎は再び画面に集中するのだった。



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