第20話 ボッチと待ち伏せ
日本には三大ダンジョンと呼ばれる、超大規模ダンジョンが存在する。
富士山の麓にある『富士山ダンジョン』に、大阪にある『なにわダンジョン』、そして最後が新宿区にある『新宿ダンジョン』である。
俺はそのうちの一つである新宿ダンジョンの1階層に一人で来ていた。
理由は言うまでもなく、憂さ晴らし配信をするためである。
「あ~、みんな聞こえてますか~?」
頭部に一人称カメラを付け、インカム越しに視聴者に問いかける。
一般人:聞こえてる
一般人:野田、久しぶり
りかファン:見に来たよ雅人
元メンバー:↑りかファンの好感度健在
問題なく配信できているということで、俺はいつも通り宣言する。
「それじゃ、今から憂さ晴らし配信始めま~す」
一般人:始めま~す
りかファン:始めま~す
元メンバー:始めま~す
「さて今日なんですが、新宿ダンジョンに来てます」
一般人:へえ
一般人:何で?
「それがですね。最近、ちょっと落ち込むことがあったんですよ」
一般人:落ち込むといったら
一般人:あれしかないか
りかファン:何?
元メンバー:↑アイラの配信
「そう。アイラの配信です」
元メンバーが言った通り、つい最近、アイラがダンジョン配信を始めた。
それも瀬ノ内アキラと二人でだ。
里香と思わぬ形で距離が縮まって、いよいよリア充の仲間入りかと、少しテンションが上がりかけたところでこれだ。
配信の内容は、初級探索者のアイラにBランク探索者の瀬ノ内アキラが色々教えるというもので、場所は吉祥寺のダンジョンだった。
里香とデートした時、偶然二人に会ったが、あれは配信前の事前の下見だったのだろう。
一般人:深月アイラの配信がどうした?
一般人:ストレス溜まったか?
りかファン:気持ちは分かるが
元メンバー:たったそれだけで?
元メンバーの言う通り、それだけでわざわざこんな配信はしない。
「ヒントはここが新宿ダンジョンということです」
一般人:分からなん
一般人:新宿だから何?
元メンバー:分かったわ
一般人:↑何なに?
元メンバー:↑配信時の瀬ノ内の発言がヒント
さすが元メンバー。よく分かっている。
とはいえ、このチャンネルの視聴者であの二人の配信を見ていた人はあまりいないだろう。
「実は瀬ノ内アキラ、新宿ダンジョンを60階層まで攻略しているらしいんですよ」
さすがにBランクというだけあって、それなりに実力はあるらしい。
芸能人ということもあって、一人でダンジョン攻略というわけにはいかなかったはずだが……
「そして俺はというと、新宿ダンジョンは1階層も踏破していません」
そう、俺はまだ新宿ダンジョンを1階層たりとも踏破したことがない。
新宿ダンジョンは最も挑む探索者が多いダンジョンであるが故に、ALLの活動をするのには不向きだったのだ。
そのため、俺以外の幹部も俺程ではないが、新宿ダンジョンの踏破率は低い。
一般人:で、それがどうしたん?
一般人:俺は分かったぞ
りかファン:↑同じく
ここまでくると、分かった視聴者もちらほら出てきた。
この辺りで、そろそろ答え合わせといこうじゃないか。
「恥ずかしい話、瀬ノ内アキラに負けてると思うとやるせない気持ちになりまして」
一般人:なるほど
一般人:実に恥ずかしいい
りかファン:が、実に雅人らしい
というわけで、やるせない気持ちを発散させるために、こうして憂さ晴らし配信を始めた。
「ちなみに、他のメンバーは忙しいようで今日はボッチです」
今はSランク昇格に関して色々と揉めてたり、後は他の配信者から結構コラボの依頼が来ているらしくその対応などで忙しいらしい。
ただし、俺にはコラボのオファーは一切来ていない。
最近、人気が出てきたと思っていたのだが、甘かった。
やはり、他のメンバーの背中は遠い。
「というわけで、他のメンバーのファンには申し訳ないけど、今日は俺一人です」
一般人:まあ、我慢してやるか
一般人:野田も普通にすごいからな
りかファン:雅人ガンバ!
元メンバー:安定のりかファン
「じゃあ、まずはちゃちゃっと60階層まで行っちゃいましょうか!」
一般人:ちゃちゃっとw
一般人:やっぱ規格外w
りかファン:さすが俺たちの雅人
意気揚々と宣言してから、俺はダンジョン攻略を開始した。
※※※
配信開始から3時間後。
「ぐぬぬ。思ったより時間がかかった」
一般人:どこが?
一般人:3時間で60階層到達って
一般人:普通にあり得ないw
元メンバー:普通1階層30分はかかる
予定なら2時間くらいでたどり着けたところが、1時間も余計に多く時間を要してしまった。
里香と仲良くなった反動で身体がなまったせいか、それともアイラの配信で精神が思ったより疲弊していたのか。
理由は何とも言い難い。
というより、今はそれどころではない。
ここで何と、事件が発生してしまった。
「え~、皆さんにここでお知らせがあります」
一般人:急にどうした?
一般人:またやらかした?
元メンバー:今回ばかりは分からん
俺は視聴者の疑問を片耳に、後ろを向く。
「何と、ここで香月りかさんと鉢合わせました」
一般人:おおぉ……
りかファン:ここで、りかちゃん!
元メンバー:これまたなぜ
一般人:てか、何か怒ってない?
最後の視聴者の言った通り、ただ里香と、香月さんと合流したわけではない。
なぜか彼女は60階層のポータルを出てすぐのところで、俺を鬼の形相で待ち構えていたのだ。
おかしいな。
つい最近、仲良くなったはずなのに……
「その、こういった感じなので、ここで一端、昼休憩を挟もうと思いま~す」
今回は割と長丁場になりそうだったので、元から休憩は取るつもりだった。
初回配信の時は食事をとらずにぶっ倒れた反省のはちゃんと活きています。
というわけで、丁度いいタイミングといえばタイミングだった。
「それじゃ、一、二時間後くらいに再開ということで~」
一般人:マジかよ!
一般人:これは仕方ないw
りかファン:野田、何した?
元メンバー:↑あとで弁明必須
香月さんが怒っている理由は何となく分かるが、まずは高級ランチでご機嫌取りかな?
「それじゃ、《《野田》》さん」
「はい……行きましょうか」
鬼嫁の尻に敷かれたような気分で、俺は香月さんと一緒にダンジョンを一度出るのだった。




