第2話 ALL
深月アイラを応援する団体には、公式ファンクラブに加え、多くの非公式ファンサークルが存在する。
俺はそのうちの一つである『ALL』と呼ばれるサークルに所属していた。
ALLとはそのままの意味で、すべてをアイラに捧げること。
非公式ファンサークルの中でも廃人オタクの集団として有名だった。
そんなALLだが、入部には二つ条件がある。
一つ目は、ガチ恋勢ではないこと。
ALLは『純粋にアイドルを応援する者こそが真のドルオタである』という信念を掲げている。
もちろんアイドルの応援の仕方は多種多様であり、ガチ恋勢を否定するわけではない。
スタンスの相違によってサークル内で争う暇があったら1円でも多くアイラに貢ぐ、そのポリシーを貫くための条件だ。
二つ目は、探索者であること。
こちらは色々と理由があるので割愛。
純粋に探索者仲間が欲しいとか、探索者は稼ぎ良いので最も貢ぐサークルになりやすいとか、本当に色々ある。
俺が一緒にダンジョンに行く約束をしたのは、そんなALLの幹部たち。
ALLは4つの団体で構成されていた。
俺のような学生で構成される、学生部隊。
三十五歳未満で構成される、若手部隊
上記二つの条件を満たさない、中年部隊。
最後に女性ファンで構成される、女性部隊。
幹部は各部隊を統率するリーダーで、部隊の中でトップの実力を持つ者だ。
俺はというと、学生部隊の幹部である。
「おっ、雅人。こっちだ!」
午前十時前。
待ち合わせ場所である、上野の改札前で筋骨隆々の男性が俺を見て手を上げる。
彼は若手部隊を率いていた牧拓実さんといって、元自衛官。
刈り上げられた明るい茶髪が印象的な、爽やかな男性だ。
「拓実さん、早いですね」
「それをいうなら、他の二人はもっと早いぞ」
そう言って拓実さんは売店の方へと視線を向ける。
若い美人と恰幅の良いおじさんが二人、駅弁を物色している。
美人の方は宮辻真己乃さんといって、女性部隊のリーダー。元弁護士で、今年でちょうど三十だったはず。
おじさんの方は中年部隊のリーダーだった、木戸克哉さん。探索者をしながら、秋葉でメイド喫茶を趣味で経営している。
二人は俺が合流したことに気づくと、会計を済ませこちらにやって来る。
「雅人くん。案外、元気そうじゃない」
「つい昨日までは放心状態でしたけど」
「雅人くんは若いからね。おじさん心配していたんだよ」
「ご心配をおかけしました」
戻って来た二人と軽く挨拶を交わすと、用意していた切符で改札内に入る。
今までは1円でも多く貢ぐため、遠征の際は車を使っていたが、今は移動手段に拘る理由はない。
今日は贅沢にトップグレードの座席だ。
ダンジョンに入れば酔いも覚めるということで、四人でご当地ワインと食事を楽しみながら目的地へと向かう。
「そういえば、けっこう反響あったじゃない」
「ですね、まあ反応は二分でしたけど」
通路挟んで向かい側に座った宮辻さんが、SNSの画面を見せてくる。
さすがに告知なしで配信するのはどうかと思い、木戸さんのメイド喫茶アカウントで宣伝した。
ALLのアカウントはあったのだが、アイラ引退と同時に誰かがすぐに消したため存在しない。
告知は千件近く拡散され、反応は楽しみという期待と胡散臭いという嘲笑が半々といったところ。
炎竜に負けるなどあり得ないので、嘲笑した奴らはすぐに手のひらを反すことだろう。
ちなみに、現時点で配信の接続が百件以上ある。
それから配信のためのレクチャーを木戸さんから受けていると、あっという間に仙台に到着する。
仙台のダンジョンは東北で最も大きなダンジョンということもあり、アクセスが良い。
何と駅からバスで五分で移動できてしまった。
ダンジョン付近は探索者協会の仙台支部や、ダンジョンから取れる魔鉱石を加工する工場などがある。
俺たちは仙台支部の中で装備の装着を済ませると、外へ出る。
「それじゃ、久しぶりに探索しますか」
背中に片手剣の重さを感じながら、俺はみんなと一緒にダンジョンの入り口へ。
そして、ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、身体に力が漲り、軽くなる。
ダンジョン内に満ちている魔力と呼ばれるものが作用して起こる現象だ。理由は明らかになっていないが、これのおかげで俺たち人間はダンジョンを探索できる。
ちなみに、魔力は女性の方が感応しやすいらしく、身体能力向上の恩恵は女性の方が受けやすい。なので、ダンジョン内で男女の筋力による差は殆どないといっていい。
あと、魔力とは呼んでいるが、魔法とかは使えない。基本的に武器で殴る、これがダンジョンでの戦闘スタイルだ。
「雅人くん、配信の準備ができたよ」
「ありがとうございます。では」
カメラを持った木戸さんから促され、俺はカメラ目線になる。
皆と話し合った結果、配信はダンジョンに入ってすぐに行うことに決めた。
ALLの決起大会以外、人前で話す経験がないため僅かに緊張感を覚えながら、俺はカメラに向かって問いかける。
「えっと、見えてますか~」
配信を見守ると言っていた元メンバが数人いるので、まずは彼らの反応を伺う。
元メンバー:見えているであります!
元メンバー:学生リーダーが配信やってるw
元メンバー:学生リーダー生きてたかw
最初のコメント以外、普通に煽ってきているが今は気にしない。
元メンバーからのコメントに続いて、一般のコメントが入って来る。
一般人:これがALL幹部(廃人)かw
一般人:廃人ドルオタ乙w
あの、もう少し煽る以外のコメントないですかね。
まあ、初回配信なんてこんなもんだろう。知らんけど。
今回の探索は俺たちの憂さ晴らしのためのもの。配信はあくまでついで。
いちいち視聴者の反応に一喜一憂するなんて馬鹿馬鹿しいか。
「それじゃ、憂さ晴らし配信始めま~す」
やる気のない気だるい感じで配信開始を宣言する。
一般人:やる気なさ過ぎw
一般人:これが推しを失った廃人かw
元メンバー:学生リーダー立ち直ってないw
一般人:↑最初からじゃないのかw
コメント欄が段々盛り上がってきている。
「え~と。初めまして。某廃人アイドルサークルで学生リーダーをしてました。野田雅人です」
まずは俺を最初にメンバーが自己紹介をしていく。
宮辻さんの時だけ、コメント欄が黄色くなっていた。
どうやら、野郎どもが多いらしい。
「それでは、自己紹介も済んだということで。今回の配信の目的を」
元メンバー:宮辻さん希望
一般人:↑同意
「宮辻さん曰く『私は安い女じゃない』だそうで~す」
元メンバー:宮辻さん希望(10000円)
「あの宮辻さん。お金もらったんで、お願いしてもいいですか?」
「私、そんな安い女じゃないんだけど……まあ、いいか」
貢ぐ宛がなくなったからなのか、元メンバーが宮辻さん目当てで投げ銭してきたのでバトンタッチ。
宮辻さん本人は気づいているか知らないが、彼女のガチ恋勢は割とサークル内にいた。禁止されていたのはアイラへのガチ恋勢なので特に問題はない。
バトンを受けた宮辻さんが今回の配信ですることを語る。
今回のゴールは38階層で確認された炎竜を討伐することにある。
それまでは、38階層に到達する過程を楽しんでもらおうという企画だ。
「というわけで、今から早速攻略開始しま~す」
宮辻さんが解説を終え、俺はダンジョン攻略開始を宣言するのだった。




