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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
3章 現実逃避

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第18話 偶然

 どうも、野田雅人です。

 現在、目黒の高級マンションに戻って、悶々としております。


「デートって、何すればいいんだ……」


 情けない話、生まれてこの方、デートの経験はない。

 加えて相手はあの深月さん。彼女に恥をかかせてはいけないというプレッシャーが本当に半端ない。


 俺は割と本気で困っていた。


「とりあえず服だけでも決めないと……」


 誘ってきたのが深月さんということで、プランの方は考えてくれると仮定しても、身だしなみ関連は自分で何とかしなくてはいけない。


「定番はやっぱりスーツか、いや堅いか……」


 調べてみると、学生のデートでスーツはあまりないらしい。

 ただ、推し活によって流行は二年前で止まっているため、スーツ以外にデートで使えそうな無難な服がない状態だ。


 こんなことなら、引っ越しのタイミングで色々と揃えておけば良かったな……


 手持ちで作れそうなコーディネートを探すと、オフィスカジュアルなるものを発見する。

 スーツのジャケットとパンツはそのままに、ジャケットの下にワイシャツではなくTシャツを着るらしい。


「こんな感じか……」


 紺のジャケットとパンツに、無地のグレーのTシャツを合わせてみる。

 探索者の活動を通して身体は鍛えられているので、着こなしは悪くない。

 あとは表情さえ硬くならなければ良さそうだ。


 服が決まったところで、今度は髪型を整える。こちらは、大学に進学する前に色々勉強していたので、特に問題なく整えることができた。


「さて、そろそろ良い時間かな」


 待ち合わせは午後3時に吉祥寺の駅前に現地集合となっている。

 時間まで1時間と少しあるが、移動時間を考えると出る頃合いとしてはちょうどいいはずだ。


 俺は大学に行く時と同様、茶髪ロングのウィッグを被り、家を出る。


 そして、電車を乗り継ぎ吉祥寺の駅前にたどり着くと、ある光景が目に入る。


「あれ、深月さんじゃ……」


 ベージュのキャップに同色のマスクをした深月さんと思しき黒髪ロングの女性が、チャラそうな男たちに絡まれていた。

 この辺ではあまり見かけない光景だが、彼女の容姿を考えると不思議ではない。


 さて、どうするか……


 このまま放っておいても、今朝の講義室と同様、深月さんなら簡単に撃退してしまうだろう。

 しかし、考えてみればこれは待ち合わせ場所に早く来なかった俺の落ち度だ。


 ここは男らしく、撃退してやろうじゃないか。

 幸い、腕っぷしならその辺の男には絶対に負けない自信はある。


 自信を持って、堂々と俺は困っている美女の下へ参上する。


「誰、あんた?」


 正真正銘の茶髪ロングのチャラ男が、俺を見て眉を顰める。


「この人の連れだけど?」

「はっ、あり得ないだろ。あったらヤバいわ」


 あり得ないとか失礼な奴だな。

 これでも一応、俺は有名人なんだからな!


 何と言い返えそうか考えていると、チャラ男は俺を無視して深月さんへ手を伸ばそうとする。

 そんなことしたら、俺がするでもなく返り討ちにって……えっ?


 てっきり今朝と同じように反撃に出るかと思ったが、深月さんは俺の後ろに隠れてジャケットの裾を掴む。

 そんな様子を見て、チャラ男たちが慌ただしくなる。


「おいおいマジかよ」

「本当に連れなんじゃね?」

「マネージャーとかか?」

「だったらヤバくね……」


 意味の分からないことを言い出したチャラ男たちは、なぜかそのまま去って行ってしまった。


 本当に何だったんだ……


 何はともあれ、まずは荒事にならなかったことを喜ぶべきだ。

 

「深月さん、大変だったね……って、あれ?」


 振り返り、深月さんに声をかけようとしたところで、俺は違和感を覚えた。


 深月さんじゃ、ない……?


 マスクとキャップでよく分からなったが、しっかり見ると目元が違う。

 クールな感じの深月さんに比べて、彼女の目元はパッチリしていて可愛らしい。

 というか、この目の感じは――


「まさか――」

「アイラごめん。待った?」

「――っ、アキラさん」


 疑念を口にする前に、こちらに一人の男性がやって来た。彼女と同じデザインのキャップとマスクを着けていて顔はよく見えない。

 だが、男性は彼女のことをアイラと呼び、彼女は彼のことをアキラと呼んだ。

 

 そういうことか。

 チャラ男たちの会話の意味がここでようやく分かった。

 本当にこんな偶然があるものなんだな。


「アイラ。彼は?」

「私が悪漢に絡まれていたのを助けてくれたの」

「そうでしたか。ありがとうございます……って、あなたは……」


 俺に頭を下げようとしたところで、男性――瀬ノ内アキラは瞳を見開いた。


「失礼を承知でうかがいますが、探索者の野田雅人さんでしょうか?」

 

 さすがは人気俳優といったところか、変装を一瞬で見抜かれてしまった。

 違うと答えても意味がないので小さく頷く。 


「やはり……」

「アキラさん、野田さんって……」

「この前、りかちゃんと配信してた人だよ」

「えっ、あの時の……っ!」


 どうやら女性――アイラの方は気づいていなかったらしい。

 少しショックであるのと同時に、アイラらしいなと思う。


 それにしても、りかちゃんか……

 少しだけ親しみが籠っていたような感じがした……って、ちょっと待てよ。


 勢いで色々と話したが、普通に考えてこの状況はかなりマズい。

 推していたアイドルとそのアイドルを推していた男、そしてそのアイドルを奪った男。

 構図だけ見れば、これは完全な修羅場だ。


 俺はガチ恋勢ではなかったので、瀬ノ内アキラに恨みがあるわけではないが、憂さ晴らし配信なんてやっている手前、体裁はかなり悪い。

 そして、そのことに二人も気づいたのだろう。

 二人とも少し気まずそうだ。


 ここは気を遣って俺の方から何か言わなければいけないところだろう。

 何と声をかけるべきか考えていると、一人の女性が近づいて来た。


「野田さん。お待たせしましたって……え?」


 律儀に待ち合わせ10分前にやって来た深月さんは、俺たちを見ると硬直する。


「どうして、二人が……」

「アキラさん」

「そうだね。野田さん、今日のところはここで失礼します。お礼の方は後日必ず」

「野田さん。ありがとうございました」


 深月さんの動揺する様子を見た二人は、最後に俺に一言ずつ言葉を告げて、この場を後にする。


 最後に完全において行かれた形になってしまったが、まずはその場で立ち尽くしている深月さんに声をかける。


「とりあえず、場所を移動しようか」

「はい……」


 力なく頷いた深月さんと一緒に歩いて公園まで移動し、ベンチに隣り合って座る。

 さて、何から話すべきか。

 悩んでいると、先に深月さんが口を開く。


「野田さん。嫌じゃなかったですか?」

「まあ、いい気分ではなかったかな」

「そうですよね。本当にすみません……」

「どうして深月さんが謝るの?」

「それは――」


 深月さんは小さく深呼吸してから告げた。


「私が、深月アイラの実の妹だからです」


 そうして、彼女は過去を語り始めた。


 




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