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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
3章 現実逃避

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第17話 案の定

 翌朝。復学二日目の講義室。


「なあ、ちょっと話があるから面かしてくれよ」


 前日と同じように早めに教室に入った俺に、一人の男子学生が声をかけてきた。

 茶髪にパーマのかかったイケてる系男子で、俺とは正反対の人間。

 うちの学部は大まかに分けると、俺みたいな人畜無害系男子と、彼のようなイケてるウェイウェイ系男子の二系統に分けられる。

 そして当然、彼は後者に分類される。


「面かしてくれって、今でも使うんだな」

「は?」

「悪い。何でもない……」


 少し茶化せば許してくれるかと思ったが、ダメだった。

 これはちゃんと相手をするしかなさそうだ。


「要件は深月さんのことか?」

「ああ」

「……」


 俺は心の中でため息をつく。


 昨日、深月さんに声をかけられた時点で予測できていたが、案の定、面倒なことになった。


 本当は断りたいところだが、残念ながらそれは難しい。


 大学の講義には、必ずといっていいほどペアもしくはグループを組んで取り組まなければいけない課題がある。

 大抵その手の課題は成績に占める比重も大きいため、こなせないと単位の取得が厳しくなることが多々あるのだ。

 こういった連中に下手に目をつけられると、誰かと組もうとした際に色々と足かせになって、成績に影響が出る可能性が高い。


「分かった」


 という訳で、俺は渋々ついていくことにした。


 連れていかれたのは、講義室に一番近い男子トイレ。中には俺に声をかけてきた奴、茶髪パーマくんの他に、似た系統の男子たちが4人いた。


 今日は朝一の講義ということでいつも以上に人の集まりは悪く、講義室の近くのトイレであっても人は来ない。


 つまり、この事態は自分で収拾しなければいけないという訳だ。


「それで話って……?」


 事情は何となく察しつつ改めて聞いてみると、茶髪パーマくんが前に出る。


「あんた、深月さんとどういう関係なんだ?」

「知り合いです……多分」


 俺が知っているのは配信者の香月りかさんであり、深月里香さんとは昨日初めて知り合った。

 香月りかは深月さんの素なのか分からない以上、俺と深月さんの関係は知り合いとすらいえるか怪しいレベルだ。


 とはいえ、そんな事情を彼らは知らない。

 すぐに彼らの表情が曇ってくる。

 そこで俺は、もう少しだけ言葉を付け足す。


「別に付き合ってるとかではないので、安心してください」


 あっ、二人くらいホッと表情が緩んだ。

 美女優等生の名は伊達ではなく、しっかり彼らの心を射止めているらしい。


 だが、茶髪パーマくんの表情はさらに雲った。


「そういう意味で聞いてるわけじゃない」


 茶髪パーマくんの言葉に、表情を緩めていた二人が首を振って再び険しい表情になる。


「じゃあ、どういう意味ですか?」

「深月さんはずっと俺たちが狙ってた」

「狙ってた……ああ……っ!」


 彼らが言いたいことが分かった。


「自分たちが狙ってた深月さんをぽっと出の俺に横取りされて、自分たちの学部内での地位が下がるのが嫌ってことか!」

「……っ」


 露骨に五人が嫌な顔をする。

 どうやら図星だったようだ。


「確かにそれなら、呼び出したくもなるよな~」


 アイラの女性ファンが急増し始めた頃、同性ファンと触れ合いたいというアイラの希望で、一度女性限定のファンミーティングがあったのだ。

 ぽっと出の女性ファンたちが贔屓されたことに、古参の俺たちは全員、今の彼らと似たような気持ちになった。


 だから、俺を呼び出した彼らの気持ちをすごく分かる。

 ぽっと出の分際で、調子に乗るなって言いたいよな!


「お前、舐めてんの?」

「……」


 共感したつもりだったのだが、かえって相手の機嫌を損ねる形になってしまった。

 多分、深月さんの件は彼らにとって真剣に向き合うべき問題なのだろう。

 それなら、茶化されたと感じてしまっても無理はない。


 ただ、そうなると……


「俺は何をしたらいいんだ?」


 結局、彼らの要求が分からなければ俺にはどうしようもない。


「そうだな。とりあえず深月さんに近づくな」

「なるほど……分かった」


 要求があるなら最初から言って欲しいものだ。


 後から絡まれても面倒なので、ここは素直に彼らの要求に従うことにする。

 深月さんには悪いが、学内で目立つことは避けたいので、俺にとっても悪い要求ではない。

 後でそれとなく事情を話して、理解を得ることにしよう。


「話も済んだし、戻っていいか?」

「ああ。約束は守れよ」

「はいはい」


 適当に返事をすると、俺はその場を後にする。


 そして、講義室に入って席に戻ろうとしたところで、一人の美女と目が合う。


「おはようございます。野田さん」

「お、おはよう……深月さん」


 どうして、彼女が俺の隣の席に座っているのだろうか?


 なるべく関わらないと約束した途端にこれだ。

 俺は恐るおそる後ろを振り向く。


 茶髪パーマくん一行が俺に殺意を向けていた。

 当然だ。俺が同じ立場でもそうしている。


 これは困ったな……


「野田さん。どうかしましたか?」

「いや、その……」

「――ああ、なるほど」


 言葉に困っている俺の様子から何かを悟ったのか、深月さんは立ち上がると、そのまま茶髪パーマくんたちの下へ移動する。


「な、何かな。深月さん」

「私、前に言ったわよね。今後一切、関わらないでって」

「いや、それは言葉の綾的な……」

「そんな訳ないでしょ?」

「……っ」


 深月さんのマジレスに、思わず茶髪パーマくんが固まる。

 少し言い過ぎな気もするが、本人が嫌がることを裏でこそこそ継続していたと考えると、深月さんの対応は正しい。


「分かったわね? それじゃ」


 最後に念押ししてから、深月さんは自分の席へ戻り始める。しかし――


「ま、待ってくれ深月さん……っ!」


 プライドがそれを許さなかったのか、茶髪パーマくんが深月さんの細い手首を掴んで引き留めた。そして――


「気安く何、触ってるの?」


 心の底から冷たくなるような声と共に、茶髪パーマくんはその場でなぎ倒され、思い切り尻もちをついた。


 現実には魔力がないため、ダンジョン内と同じことはできない。

 だが、ベースとなる体力や筋力はダンジョン探索の積み重ねによって上がっていく。

 先日Aランクに上がった深月さんの身体能力なら、並みの男子大学生は手も足も出ないだろう。


 少し可哀そうな気がするが、引き時を誤ったのだから仕方ない。


 心が完全に折れた茶髪パーマくんを仲間たちが介抱する中、深月さんが俺の下へ戻って来る。


「私のせいでご迷惑をおけしてすみません」

「いや。別に気にしなくていいから」

「本当にすみませんでした。それと、よろしければ一緒に前で講義を受けませんか?」

「そうだな……」


 もはや講義室中の視線はすべて俺に集まっているといっていい。

 別に前で受けたところで、これ以上目立つこともないだろう。


 俺は穏便な学生生活は諦めて、深月さんの横で講義を受けることにする。そして――


「野田さん。今日の午後って空いてますか?」

「それはまあ、空いてるけど」

「なら、夕飯でも一緒にどうですか? そこで例のお話をさせて頂ければと」

「そうだな。分かった」

「ありがとうございます」

「……って」


 あれ?


 色々どうでもよくなって適当に返事したけど、これって正真正銘のデートでは?

 今回ばかりは前みたく勘違いのしようがない。


 ついに俺もリアルデートデビューか……


 そんなくだらないことを考えていると、講義が始まるのだった。




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