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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
3章 現実逃避

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第16話 復学

 俺が失恋してアイラに出会ったのは、大学一年の冬。

 クリスマス前に思い人をデートに誘おうとしたタイミングだった。


 まずはアルバイトで貯めたお金で、彼女のCDを数枚買った。

 その後、新年を祝うアイラのコンサートチケットが手に入った。当時はまだアイラブームの創成期だったのが幸いした。

 ライブに行って、俺は完全にアイラのファンになった。

 本格的に推したいという思いが、溢れて止まらなかった。


 しかし、学生のアルバイトで稼げるお金はたかが知れている。 


 学生であってもしっかり稼げる方法は、ダンジョンへの探索を置いて他になかった。

 ちょうど大学が春期休暇に入るということもあり、俺は探索者として活動を始めた。

 最初は長期のバイト感覚で、向いていなかったらすぐに諦めようと思った。

 

 そんな中、創成期ならではの握手会があり、そこで30秒ほど俺はアイラとお話しした。

 向いてるとか向いてないとか、関係なくなった。


 俺は大学を休学し、昼夜問わずダンジョンへ潜る日々が始まった。


 といった感じで、俺は大学を休学していたのだが、昇格の連絡が来てそれを辞退する口実の一環として復学を決意した。

 休学してから既に2年経っており、今さらな感じだが、入学した以上、卒業くらいはしたいと思っていたのも確かだ。

 また、ちょうど年度が替わるタイミングだっということも大きい。季節を考えたかは分からないが、アイラが3月に引退してくれたおかげだ。


「あとは、協会がどう返して来るかだが……」


 復学を理由に辞退できないか打診してみたが、残念ながら返事はまだ返ってきていない。

 今は色々と検討を重ねているといったところだろうか。

 牧さんたちにも同じく昇格の打診が来ていて、色々とごねているのでその影響もあるのかもしれない。

 

 どちらにせよ、昇格しないことを願うばかりだ。


「さて、それじゃ行きますか」


 緊急配信をしてから一週間と少しが経って迎えた4月初旬。

 俺は久しぶりにキャンパスへ足を向けるのだった。


         ※※※


 久しぶりに入った大学のキャンパスは、新入生と思しき初々しい感じの子たちが上級生からサークル勧誘を受ける恒例の光景で溢れていた。

 皆、出会いの季節で浮足立っているのが分かる表情で、実に楽しそうだ。

 

 サークルというと、俺はフットサルのサークルに入っていた。未経験だったが、緩い感じが良くて入ったことを覚えている。

 アイラの推し活を全力ですると決めた時に一瞬で辞めたけどな!


 思い出を懐かしみながら講義室へ入ると、まだ講義開始まで時間があるため空席が目立つ。

 これが開始5分前になると、後ろの席が全て埋まって前がガラ空き状態になる。

 

 変装用に茶色のロン毛ウィックを被っていることもあり、身バレは今のところしていないが、俺は一応有名人だ。

 身バレのリスクを下げるために、後ろ隅の席に陣取った。


 それからしばらくすると後ろの方の席が着々と埋まっていく。


 そして、講義開始まで5分を切った時だった。


 唐突に講義室が騒がしくなる。

 一瞬、俺の身元がバレてしまったのかとヒヤッとしたが、どうやら違うらしい。

 騒いでいる学生の声に耳を傾けると、どうやら学部一の美女が入って来たようだ。


 件の美女は、講義室後方に陣取る俺たちには目もくれず、そのまま講義室の最前方に腰を下ろした。

 周囲の空気から察するに、孤高の美女といったところだろうか。

 はっきりと顔は見えなかったが、黒髪ロングでスタイル抜群ということだけは分かった。

 どことなくアイラの面影があるような気がしたが、それは気のせいだろう。


 俺が休学している間に、ここまで注目を集める美女が入ってきていたとは驚きだ。


 美女に気を取られているうちに時間が来たようで、講義がスタートする。

 俺の所属学部は経済学部で、講義内容も当然それに関連する内容だ。

 何となく楽しそうという理由だけで選んだ学部だったが、小金持ちになって投資関連の話が来るようになったので、この手の話はありがたい。

 

 今後に役立つためになる講義だったということもあり、復学前では考えられない速さで講義が終わってしまった。

 

 ちなみに、件の美女は深月里香みづきりかさんというらしい。何度か教授に質問されていたので、その時に知った。

 アイラと同じ苗字だが、本当に血縁者だったりするのだろうか……


 そんなことを考えながら退散の準備をしていると、先に退散の準備を終えた深月さんがこちらへ向かってくる。

 そして、すれ違いざまに目が合ったところで、なぜか深月さんは立ち止まった。


「あの、俺に何か用ですか……?」


 学部一の美女に目を付けられるなんて、復学初日でやってられないんだが。


 俺の問いに、深月さんは目を見開く。


「やっぱり……」

「やっぱりって……えっ?」


 本当に状況が分からない。

 というよりか、深月さんがこんな風に声をかけること自体が珍しいのだろう。

 

 周囲の注目が俺に対して一心に集まっている。


「そ、その……」

「申し訳ありません。少し場所を変えてお話しましょう」

「あれ、その声……って、ちょ、ちょっと……っ!?」


 状況が正確に把握できないまま、俺は学部一の美女に腕を掴まれそのまま外へ連れ出されるのだった。


         ※※※


 結論から言うと、深月さんの正体は香月さんだった。


「まさか、野田さんが同じ大学の先輩だったなんて思いませんでした」

「それは俺も同じだよ」


 連れ込まれた構内の空き教室で、俺たちは互いにウィックを取って微笑を浮かべる。

 現役女子大学生とは聞いていたが、まさか同じ大学だったとは驚きだ。


「ちなみに皆は、深月さんが香月りかだってことは知ってるのか?」

「もちろん知らないです」

「だよな」


 まあ、それでも深月さんは目立ってるみたいだけど。


「孤高の美女優等生だったっけ?」

「恥ずかしいので、その話は止めてください!」

「はは。悪い悪い。ただな……」

「野田さん?」

「いや、何でもない。それよりこの後は大丈夫なのか?」


 俺の方は講義を入れていないが、深月さんは分からない。


「――っ、ごめんなさい。次の講義入ってました。すぐ行かないと。ではまた」

「ああ。気をつけてな~」


 ウィックを付けなおし、深月さんは最後に小さく会釈してから、急いで空き教室を後にする。


「さて、これからどうなるかな……」


 復学初日にして、俺は孤高の美女優等生に話しかけられた男になってしまった。


「変に目立ってなければいいんだけどな……」


 そんな嫌な予感を覚えつつ、俺は復学初日を終えるのだった。




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