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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
2章 コラボ配信

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第15話 勝利の後に

 後がなくなった炎竜王は俺の攻撃態勢を見るなり、こちらへ向かって突進を始める。

 鋭い牙で嚙みちぎろうとしているのが分かる簡単な攻撃だが、食らえば致命傷。

 十分なマージンを取って躱す。


 しかし、当然そんな単調な攻防では終わらない。


 攻撃を躱された炎竜王は、続けて二回、三回と切り返すように素早く嚙みつき攻撃を繰り返す。

 そして、それらも躱されると、今度は尻尾を鞭のようにしならせ、何十もの振り払い攻撃が繰り出される。

 

 いずれも今までにない攻撃パターンであり、食らえば確実に致命傷を負うことになる。

 そんな攻撃を今までの経験と勘で捌き切り、ようやくできた隙を見逃すことなく俺は傷だらけの腹部へ一撃を叩き込んだ。


 十分な手ごたえに応えるように、炎竜王が大きく怯む。


「香月さん……っ!」

「分かってます……っ!」


 俺が声を発した時には、既に香月さんは俺の真横まで来ていた。

 香月さんは炎竜王の頭部を踏み台にして宙へ舞うと、身体を横に回転させながら落下する。

 落下の勢いと身体の回転の力が合わさった強列な一撃が、炎竜王の背中へ放たれた。


 剣撃とは思えないガキーンといった音が響き渡り、同時に炎竜王がその場に倒れ紫色の半径30センチメートルほどの球体へと変わる。


 俺たちが勝利した瞬間だった。


「野田さん……」

「やったな、香月さん」


 信じられないといった様子の香月さんにサムズアップすると、ようやく実感できたのだろう。

 力が抜けるように香月さんが地面に座る。


 一般人:やったのか……

 一般人:多分……

 りかファン:俺たちのりかちゃんが

 りかファン:歓喜

 元メンバー:二人ともお疲れ

 元メンバー:さすがです


 どうやら視聴者たちも現実を受け入れるのがやっとらしい。

 こんな時マイクが使えればいいのだが、残念だ。


「香月さん」

「はい」

「もう少しだけ頑張れそう?」


 緊張の糸が切れている香月さんに尋ねる。


 本当は休憩させてあげたいところだが、ここは高階層のゲート間際。

 あまりのんびりしていると、決して弱くない魔物たちが平気で襲ってくる。

 ここはさっさと地上に戻るのが賢い選択だ。


 俺の問いに頷くと、香月さんはゆっくりと立ち上がる。

 幸い、まだ体力は残っているようだ。


 俺は炎竜王の大きな魔鉱石を片手に、香月さんと一緒にゲートを目指す。そして――


「りか……っ!」

「栞帆、心配かけてごめんなさい」


 無事に二人でダンジョンを出ると、香月さんは佐東さんと涙の再会を果たす。

 一度家に戻っていたらしいが、俺たちの配信を見てすぐに戻って来たらしい。


 対する俺はというと――


「よお雅人」

「雅人くん、やってくれたわね」

「おじさん、勝手はよくないと思うよ」


 皆にこっぴどく叱られた。

 考えれば三人とも普通に90階層踏破者だった。

 何で応援を呼ばなかったのだろうか……


「多分、ダンジョンデート気分が抜けていなかったんだと思います……」


 三人からの尋問に対して、そんな苦しい回答が精一杯だった。


 ちなみに、ゲートに辿り着てすぐにカメラはバッテリー切れを起こして、配信は切断されたらしい。

 最後の最後で醜態をさらさなくて良かったと思うばかりだ。


 三人からしこたま怒られた後は、池袋支部に行き香月さんと転移罠にかかったことを報告した。

 転移罠にかかった場合、協会にはその旨を報告することになっている。


 その時に聞いて初めて知った話だが、どうやら最近転送罠が増えているらしい。

 今日も俺たち以外に新宿のダンジョンでも転送罠による被害が出たとのこと。

 今までは月に一度あるかないかの転送罠だったのだが、これからは少し気を付ける必要がありそうだ。


 転移罠の報告と着替えを支部で済ませると、そのまま6人で打ち上げへ。

 場所は当然のごとく、某高級焼き肉店で、すべて俺の奢りだった。


 そして、楽しい打ち上げを終えると、俺たちはそれぞれ帰路に着く。


「見てください、野田さん。アーカイブがすごいことになってます」


 帰りの電車で、隣に立つ香月さんがスマートフォンの画面を見せてくれる。

 ちなみに同じ方向だったのは香月さんだけで、今は二人で帰っている状況だ。


 香月さんのスマートフォンの画面をのぞき込むと、先ほどの配信のアーカイブの再生回数が今の時点で300万を超えている。

 このペースでいくと、1000万を超えるのも時間の問題だ。


 改めて、自分たちがしでかしたことの影響の大きさを実感する。


「これで俺もようやく人気者か」

「もとから野田さんは人気者じゃないですか」

「えっ、どこが?」

「えっ……?」


 香月さん的には煽られまくっている俺が人気者に映るらしい。

 まあ、人気者の定義何て人それぞれなので気にしない。


 それから他愛のない話をしていると、先に香月さんの最寄り駅がやって来る。


「それじゃ野田さん。私はここで」

「ああ」

「それと例のお話をしたいので、今度二人で会いましょう」

「分かった……って、えっ?」


 今、何て言った?


 思考が整理できないまま、香月さんは降りて行ってしまう。


 二人で会おう……それって正真正銘のデートでは?


 今度こそ俺の勘違いではないと信じながら、俺は今日を終えるのだった。


         ※※※


 翌日。俺は部屋の整理をしていた。


 昨日の一件で、俺もすっかり注目の的。

 早々に今いる家を退散しなければ、プライバシーが完全に崩壊してしまう。

 初めて一人暮らしを経験した部屋ということもあり、名残惜しい気持ちはあるが、こればかりは仕方ない。

 ちなみに、牧さんと宮辻さんはストーカー云々の問題があったので、既に引っ越しを済ませている。


 物件は探索者協会に掛け合って、即日入居可能な高級タワーマンションを紹介してもらった。

 場所は目黒区。配信者といえばやっぱりといった感じだ。


「さて、残るはこれだな」


 朝一から始めていたということもあり、大方の整理は終わった。

 残すは、俺の青春ともいえるアイラグッズだった。

 メンバーの中には早々に処分した奴らもいたらしいが、沢山思い出が詰まっている分、俺にはできなかった。


 とはいえ、いつまでもアイラに縋りつくわけにはいかない。

 俺は新居に持っていくのは一つだけと決めて、選別を始める。


「やっぱ、これだよな」


 そう言って俺は一枚のシングルを手に取る。

 最初に俺が聞いたアイラの曲であり、失恋してどん底にいた頃の俺を救ってくれた曲が収録されている。

 この先、使うことがあるか分からないが、お守り的な感じで持っていようと思う。


「さて、時間も丁度いいな」


 スマートフォンで時間を確認すると、協会が手配した引っ越し業者が来る時間になっていた。


 そして、同時に協会から一件の通知が届いた。


 件名:Sランク昇格のご連絡


 うん、これは見なかったことにしよう。


「せっかくだし、復学するか!」


 この調子だと他のメンバーにも同様の連絡が届いていることだろう。

 皆は社会人という立場上、きっと断ることはできない。 

 

 だが、休学中とはいえ俺は学生だ。

 今から復学すれば、学業を理由に昇格を辞退できるはず……


 新居に入ったら、早々に復学手続きをしようと心に決めると同時に、インターホンが引っ越し業者の到着を知らせるのだった。


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