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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
2章 コラボ配信

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14/30

第14話 確実に

 炎竜王の出現はダンジョンが誕生してから10回もない。

 それどころか、高階層フロアボス以外でSランクの魔物と遭遇すること自体がレアケースだった。

 そんな炎竜王に向かって歩きながら、俺は表情の硬い香月さんに語り掛ける。


「見てよ香月さん。同時接続数がエグイことになってる」

「余裕ですね、野田さん。どれどれって……えっ、50万……っ!?」


 驚くのも無理はない。

 過去に伝説的なダンジョン配信は幾度とあったが、その中で50万を超えたのはごくわずかだ。

 それに接続数は現在進行形で進んでいる。戦闘が始まれば、すぐに新記録を塗り替えることになるだろう。


「放送事故にならないように頑張らないとな」

「そんなこと言わないでくださいよ!」


 最後に冗談を言ってから、俺たちは炎竜王の間合いに入った。

 炎竜王のアメジストのような紫色の瞳が俺たちをとらえた、その瞬間。

 

「「――っ」」


 鼓膜をつんざくような咆哮と共に、地面が揺れる。


 一般人:音が聞こえなくなった

 一般人:マイク壊れたか

 元メンバー:これは仕方ない

 りかファン:二人の耳が心配


 心配しなくても声はちゃんと聞こえている。

 とはいっても、外に出たら耳に激痛が走ることにはなるだろうけどな。

 ダンジョンの身体強化の辛いところだ。


「早速、放送事故になったな」

「冗談言っている場合ですか」


 香月さんの言う通り、冗談を続けることはできない。

 咆哮に笑っている俺たちを見て、強敵と判断したのだろう。


 炎竜王が炎のブレスを吐いた。

 炎竜の火玉のようなものとは違う。

 その場、全体に燃え広がるような業火だ。


 俺たちはそんなブレスを反射的に二手に分かれて回避。

 ブレスが止むと、すぐに合流する。


 一般人:今のがブレス……

 一般人:Sランクヤバい……

 一般人:そしてそれを躱す二人

 一般人:ヤバい……

 

「最初は俺が前で戦う。香月さんはよく見てて」

「はい……っ!」


 香月さんは刃渡り50センチほどの双剣使いで、身動きが軽いのがウリだ。

 本当なら誘導や隙を作る役割に徹して欲しいが、いきなりは難しい。


 まずは俺が隙を作る様子を見て、肌で覚えてもらう。


 俺は地面を蹴って瞬時に炎竜王との距離を詰め、懐に潜り込むと腹部めがけて剣を振り上げる。


「ちっ、やっぱ固いな」


 他の部位に比べて柔らかいのは間違いないが、それでも傷が浅い。

 炎竜なら一撃で致命傷なところを、少し痛い程度にしか感じていない。

 やはり、香月さんに隙を作ってもらい、その隙に俺が強烈な一撃を与えるというのが、一番勝率が高そうだ。

 

 何度か同じように攻撃を仕掛け、炎竜王の動きを香月さんに見せてから、俺は問う。


「これで大丈夫そうかな?」

「はい。何となくですが、炎竜王の動きは分かりました」

「そっか、じゃあやってみようか」

「はい……っ!」


 自分を鼓舞するように力強く頷き、香月さんが仕掛けた。

 やはり、香月さんはセンスが良い。この短時間で見た俺の動きを完全にコピーしているどころか、自分なりにアレンジを加えて改良していた。


 難なく炎竜王の懐に入ると、香月さんは一撃を与える。


 ただ、炎竜王の想像以上の硬さと緊張のせいか、傷は浅く怯ませるには至っていない。

 だが、これでコツは掴めたはずだ。

 俺は何もせず、香月さんが隙を作ってくれるのを待つ。そして――


「野田さん……っ!」

「ナイスだ香月さん!」

 

 二回目で香月さんはしっかり炎竜王を怯ませ、俺はそのできた隙をついて踏み込みの効いた重たい一撃を左翼へ食らわせる。

 これにはさすがの炎竜王も平然とはしていられない。


 一般人:息ぴったりだ

 一般人:お似合い

 りかファン:悔しいが認めよう

 りかファン:今だけだがな


 視聴者の言葉を聞き流しながら炎竜王を見る。

 片翼に大きな傷を負った炎竜王は、バランスを崩し動きがままならない。


「野田さん、今なら――」

「いや、まだだ」


 これが普通の炎竜なら、このまま畳みかけて勝利だ。

 しかし、相手は炎竜王。そう簡単にはやられない。

 ここで仕掛けようものなら、返り討ちにあってしまう。


 俺は畳みかけようとしていた香月さんを止めて、一度こちらに合流するよう指示を出し、戻って来たところで告げる。


「相手はSランク。こっちは二人。無理は禁物だ」

「なるほど、分かりました……っ!」


 素直に聞いてくれた香月さんは、先ほどと同じように隙を作り、その隙に俺が小さくない傷を負わせていく。

 そうして、確実に相手の体力を奪い続けて約30分が経過した。


 一般人:そろそろか?

 元メンバー:ああ。だが

 元メンバー:最後まで油断はできない


 全身がボロボロになった炎竜王と、大きく肩を上下する無傷の俺と香月さんに視聴者が決着の時を予感する。

 しかし、元メンバーの言う通り油断はできない。

 Sランクの魔物は、ここからがしぶとい。最後の最後で、まるで火事場の馬鹿力のような攻撃を放ってくるのだ。


「香月さん。役割交代だ」

「えっ……っ」


 俺の言葉に香月さんが動揺する。


「最後に炎竜王の悪あがきが来る、さすがにそれは香月さんには荷が重い」


 だから、俺がそれをさばいて最後は香月さんに決めてもらう。


「頼めるか?」

「――はい……っ!」


 元気よく頷く香月さんに、思わず口角が上がる。

 

 一般人:おい、野田が前に出たぞ

 一般人:これどういうこと?

 元メンバー:最後は香月りかに任せるのか

 りかファン:雅人、本気か?

 りかファン:りかちゃんならやってくれる

 一般人:信じてるよ


 こちらの声は聞こえていないはずだが、視聴者たちも状況を察してくれたらしい。

 気になってみてみると、知らない内に同時接続数は150万を超えていた。


「帰ったら。これは大変なことになるな……」


 少なくとも、注目度は前回の比ではないだろう。


 これは戻ったらすぐに引っ越しの準備だな。

 港区と目黒区、どっちがいいだろうか……


 そんなことを考えながら乱れた呼吸を整え、俺は炎竜王に向けて地を蹴った。


 そしてこれが、野田雅人の伝説の始まりとなる。



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