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推しが引退して解散したサークルの元メンバーがダンジョンで憂さ晴らし配信するようです  作者: 9bumi
1章 初回配信

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第1話 通知

 東京の某ドーム会場。

 サイリウムの光で虹色に染まる空間で、一人のアイドルがライブをしていた。


 彼女の名前は深月(みづき)アイラ。大和撫子と呼ぶに相応しい黒髪ロングの美人であり、加えて歌も踊りも超一流。

 現代において、現役にして伝説のアイドルと呼ばれる逸材だった。


 そんな彼女が、突然引退を宣言した。


 アンコールを終え、会場を埋め尽くす五万人のファンのボルテージが最高潮に達した時だった。


         ※※※


 杉並区にある1Kの一室で、俺、野田雅人(のだまさと)は口を開けて天井を見上げていた。


 昨日、俺の人生にあった一筋の光が消えた。


 大学に入学して始めたアルバイト。

 そこで好きになった同僚をBSSされ、世界が完全に灰色に染まった時、彼女の、深月アイラの歌を聞いて救われた。


 それ以来、二年間の歳月の全てを彼女のために費やした。


 文字通り全てである。


 大学を休学し、危険なダンジョンに日夜問わず潜り、アイラに貢ぎ続けた。

 本当に幸せな時間だった。


 しかし、その時間は何の前触れもなく終わってしまった。


『私、深月アイラは今日のライブをもって引退します』


 最大規模となったドームツアー最終日。東京の某ドーム会場に集まった約五万人のファンの前で、アイラは突然そう言った。

 最初は信じられなかった。何かの冗談だろうと疑った。

 だが、アイラは本物のアイドルだ。

 軽はずみに、ファンの心を持て遊ぶような真似は絶対しない。

 故に、引退宣言が嘘ではないと分かった。


 引退する理由は、真剣に交際したい相手ができたことだった。

 加えて、アイラはご丁寧に相手まで教えてくれた。

 相手は今を時めく人気俳優の瀬ノ内アキラ。恋愛ドラマで共演したことをきっかけに、互いに心が惹かれたらしい。

 瀬ノ内アキラが女癖の悪いくそ野郎なら文句の一つも言えたのだが、彼は今まで演技一筋の人間だった。恋愛経験もなく、童貞であることをバラエティーで取り上げられたこともある。

 いつの日か見たネットニュースの記事で、アイラの旦那に相応しい男ランキングで一位になっていたことを思い出す。当時は腹がたったが、今思えば本当にお似合いだと思う。


 ただ、そうだとしても引退が早すぎる。

 アイラはまだ23歳。アイドルとしてさらにスケールが大きくなるはずだったのに……


 俺はアイラのガチ恋勢ではない。引退して瀬ノ内アキラと結婚して幸せになれるなら、それはそれで良いと思っている。

 だけど、一人のドルオタとして、もっと夢を見せて欲しかった。


「これから俺、どうしよう……」


 ぽつりと呟いてから、現実から目を背けるように俺は再びまどろみの世界へ落ちた。


         ※※※


 アイラの引退から一週間が経った。

 俺の天井を見つめる生活は変わっていない。

 床の至る所に、コンビニ弁当とカップラーメンの空き容器が散乱している。

 掃除しなければと思うが、気持ちが一向に上向かない。

 加えて部屋が汚いと余計に心が暗くなる。完全な悪循環だった。


「ん、協会から?」


 不意にスマートフォンが振動音を立て、通知が来たことを知らせてくる。

 見てみると、探索者協会のアプリからだった。


「へー、炎竜か。珍しい」


 内容は仙台のダンジョンでレッドドラゴン、通称炎竜が出たとのこと。

 炎竜はAランク指定の魔物で、時折こうして現れる。

 ダンジョンから魔物が外に出ることはないと言われるが、ダンジョン内では自由に動ける。

 比較的安全と言われる低階層に炎竜が上がって来ることも稀にあるため、探索者協会のアプリは、注意喚起と上位ランカーに向けた討伐依頼の通知が来るようになっている。


 大して自慢するようなことではないが、俺はこれでもAランク探索者。

 探索者のランクはF~A、その上に最高ランクのSとなっていて、Aランクは日本の探索者全体の1%しかいない。

 アイラのためにダンジョンに潜り続けていた結果、こうなってしまった。

 本当はSランクと同等の実力があると自負しているが、Sランクになると国からの依頼などで自由が奪われるためあえて本気を出していない。


「行って、みるか」


 アイラを推すことができなくなった今、特にダンジョンに潜る理由はない。

 強いていえば、憂さ晴らしだろうか。

 気が向いたので俺は依頼を受けることにした。


「せっかくだし、皆も誘ってみるか」


 推し活をするために、俺はとあるサークルに入り、幹部として活動していた。

 一般メンバーのチャットグループは解散しているが、幹部連中の方はまだ残っている。

 幹部の皆も俺と同じように、色々ため込んでいるかもしれない。

 俺はトークルームにメッセージを送る。


『皆さん、憂さ晴らしに明日ドラゴン狩りに行くけど、来る?』


 推し活時代の習慣が抜けていなかったのか、他の幹部たちは即座に参加のリアクションをメッセージにつけた。

 それから明日の出発時刻などを調整して、トークを終了する。


「この際、配信でもしてみるかな」


 現代において、探索者によるダンジョン配信は人気コンテンツの一つだ。

 推し活に影響がありそうだったので、当時はやっていなかった。


「昔、雑魚専門狩りだの馬鹿にされたしな、この際、見返してやるか」


 俺は一度閉じたトークルームに、配信したい旨を伝えると、即OKが出た。

 道具の方はなければ買うつもりだったが、メンバーの一人が持参するとのことだったので、その辺もばっちりだ。


「楽しみだな」


 この時の俺は知らなかった。

 まさかこの憂さ晴らし配信が、とんでもない人気を得ることになるなんて……な~んてな。


 三十年前、突如として世界各地にダンジョンが現れた。

 ダンジョン内は凶悪な魔物やその核である魔石と呼ばれる希少な鉱石の宝庫である。

 そして、日夜ダンジョンに挑む者たちこそが探索者である。

 これは、そんな世界で推しを失った探索者(激強廃人オタク)たちが、配信で意図せず数々の伝説を作り上げていく物語である。


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