67話 決戦の火蓋、あがる
「やりました……よ」
冬黒は勢いよく背中から地面に倒れる。その後、二人の人影が瞬時にやってくる。
青春と黄緑だ。
「ありがとう。助かったよ」
「冬黒くんナイスぅ~」
二人は冬黒を褒め称える。一方……
「ウチも頑張ったでござるけどね……」
血まみれで倒れてる秋葉が一言。見た目だけなら秋葉のがよっぽど重傷に見える。服は真っ赤に染まり、素人目でも致死量と思える出血をしているからだ。
能力の関係上、致死量なんかではないのだが。
「もちろん秋葉さんにも感謝してます」
「あれ? 生きてたの先輩」
感謝を述べる青春と違い、心底どうでもよさそうな態度の黄緑。
「あとで覚えとけでござる……」
「そんなことより青くん。早く早く!」
黄緑は青春をせかす。なぜかというと……
青春はオカリナを取り出し……奏でる。――瞬間、妖猫ヒルダが影から顕現。くるくると青春を中心にして回りだす。
すると、三蛟だった水蒸気がヒルダの口に吸い寄せられる。全てを飲み込むと、ヒルダをつつむ魔力が増大していく……
その影響か、辺りは漆黒の闇となる……
「成功……ですね。これでヒルダは妖魔神の領域に達したと思われます……これなら……四鬼を」
「「オレがなんだって?」」
「「――!?」」
突然周囲に響き渡る声。そして……
作られた漆黒の闇は、一筋の閃光によって切り裂かれ、辺りの景色が元に戻る。
……そして、官邸の屋上から青春たちを見下ろす何者かの姿が見えた。
遠目でも誰かハッキリわかる。周囲に響く強大な魔力……こんな力を持つものなど一人しかいない……
その人物は屋上から飛び上がり、青春達の立つ地へと……降り立つ。
――妖魔神四鬼、現れる。
「下らない事してるよね君達。一緒に来て配下の妖魔達倒してた連中……始末させてもらったよ」
「なに!?」
「これなーんだ」
四鬼の手のひらから、人の顔が浮き出てくる。壮年のおじさんの顔……
――これは……
「尾浜さん!?」「叔父さん!?」
青春と秋葉の叫び。そう、四鬼の手から現れたのは尾浜の顔。
前も青春の姉の姿をどこからともなく出してきていた。……それはつまり、尾浜は四鬼に喰われたという証拠……
四鬼に喰われた者はあらゆる人物の記憶から消えてなくなる。だが、こうして人前に喰った人物の姿を見せればその記憶は甦る。
「どうした~? オレが憎いかい?」
安い挑発だ。
だが仲間、秋葉に至っては身内が殺られたのだ。冷静ではいられないはず。
「……」
しかし、全員冷静だった。すぐさま四鬼に殴りかかりはしない。
「なんだつまらない。じゃあ死ね」
四鬼は無動作、何かをする素振りもなく、風の刃、かまいたちを青春めがけて放つ。
その速度は常人なら目にも移らないほどのスピード、音速レベル。
「させるか!」
しかし、黄緑が青春を担ぎ、その一撃を避けてみせる。
「へえ」
四鬼は感心した様子をみせる。ただ青春が避けただけならいざ知らず、わざわざ青春を助けにいった上で一撃を避けた。その速度はかまいたちを数段上回った速さでなくては到底できるものではない。
「この前とは違うね。……そうか、その妖魔のせいか」
青春を担ぐ黄緑のすぐ背後にいる妖魔。妖猫ヒルダが憎悪に満ちた目で四鬼を睨みつけている。
「「もう青春を傷つけさせない……お前は殺す!!」」
ヤンデレ妖魔のヒルダ、四鬼に対する怒りはかなりの物のようだ。
前回両断されたことよりも、青春の心を傷つけた、その一点で四鬼を恨んでる様子。
ヒルダからわき出る魔力は凄まじい……
配下の妖魔王三人を上回る魔力……
それも当然。その三人の妖魔王を取り込んだのだから。
ヒルダは妖魔神の領域に達してる。それは四鬼と同格を意味する。
「オレと同格……とでも思ったか? 妖魔神を名乗れる領域に貴様が立ってたとしてもだ、オレは何十、何百と妖魔神として力を蓄え、生きてきた。見たところ妖魔として生まれて間もないようだし、オレとは年季が違うんだよ」
「つまりクソジジイってこと?」
黄緑がツッコミを入れる。あながち間違ってはいない発言だが……
四鬼は眉をひそめる。癇に触ったのか……
「口が悪い小娘だね。オレにそんな舐めた口聞いた奴初めてだよ」
「あんたなんて怖くないもん。青くんいじめるなジジイ」
「ガキが……」
四鬼はまったくの無動作で、全方位に風の刃を放つ。
だが見切れる! 黄緑は青春を担ぎながら容易に回避。
「バーカ。当たんないよ~」
舌出して、憎たらしく挑発する黄緑。
「ならこれだけの物量ならどうかな?」
「へ?」
人が入る隙間がないほどに放たれた風の刃……いや、これはむしろ風の壁だ……密集されたその圧力が黄緑を襲う。
「ちゃらららっららー。ゴールデンアーム~」
変声を出し、黄緑は両腕を黄金が包み込む。黄金のガントレットと、いったところだろうか?
「せーの!!」
黄緑は青春を担いだまま、拳の連打。風の壁を砕き、無理やり突破しようと試みる。
「甘いね。それくらいでどうにかできるとでも思ってんの?」
属性相性が良いとはいえ、そんな簡単に突破できるようなものではない。次第に黄緑が押され始めていく……
――が!
「「青春~!!」」
ヒルダが加勢! 黄緑の魔力により、ヒルダの腕もまたガントレットに覆われる。いや、それだけではない。ヒルダは黄金の鎧に包まれ、猫というより騎士のような姿に変わる。
黄緑と騎士の拳が、乱打乱打乱打! それにより風の壁が粉砕される。
そして黄緑は四鬼に向け突撃開始!
四鬼は感心する表情を見せる。
「やるなあ」
「死ね!」
「君がね」
四鬼は黄緑が至近距離に近づいて来るのを見計らってから、首筋めがけて、風の刃、かまいたちを放つ。
遠くからは見切れても、この距離なら避けれるはずがない。そう四鬼は思っていたのだが……
ヒルダの両手が、かまいたちを指で掴んで止める!
「なに?」
「隙ありい!」
風のかまいたちを掴むなんて芸当をされたことで、驚愕した四鬼に隙が生まれた。そこにすかさず黄緑の拳が唸る!
四鬼の顔面に拳がクリーンヒット。そしてすかさず青春は黄緑の胸から離れ、千、いや万を越えるナイフを生成し放つ!
その上に、ナイフに魔力を送り込み、切りかかる。
「図にのるなよ」
四鬼の周囲に放たれる烈風が、ナイフを破壊、そして青春をも吹き飛ばす。
吹き飛んだ青春はすぐさま黄緑の豊かな胸がキャッチ。
「お帰り青くん。怪我ない?」
「大したことないよ。チャンスと思ったんだけどね……」
結果的に当たったのは黄緑の拳のみ。それも大したダメージにはなってない様子だった。
四鬼は殴られた頬を触る。
「殴られた……こんなの初めてかも」
「パパにも殴られたことないとか? もっと殴るよ。青くんの敵だからね」
「痛いのは嫌なんだ。だからさ……」
四鬼の皮膚が赤く染まり、体が筋肉により膨れ上がる。
「バラバラにしてやろう人間共」
四鬼は軽く腕を振るう。たったそれだけの行動で強烈な突風が放たれる。
鎧騎士のヒルダが、全身で二人の盾となる。
風圧により、鎧は少しづつ砕けていく。
「そらそら」
続けて腕を振るう。突風はその度に威力をまし、ヒルダの身を裂いていく。
「邪魔だよデカブツ」
ついにヒルダの鎧は砕け、風圧に負けて吹き飛ばされてしまう。
だが吹き飛んだのはヒルダのみ。
青春と黄緑がいない?
「空か?」
「ご名答!」
黄緑の手には生成した剣。青春の手には長刀となったナイフが握られている。
「闇光死斬」
「光闇死斬!!」
二人は四鬼の前に降りながら技を……放つ!
――つづく。
「やっぱさ、青くんとワタシお似合いすぎだよね? ラブラブカップルは無敵!」
「次回 最高のコンビネーション。そう! だから勝つのはワタシ達!」




