65話 海の王
水上がなく、抜け出せない大海原……動きがにぶくなるだけでなく、いずれは息が続かなくなる……
そうなると何もしなくとも、三蛟の勝利となる。
どうにかして息継ぎする方法を模索する冬黒……
(そうだ……!)
冬黒は目の前に光の柱を放出する。光は水を弾き飛ばし、その空間のみ水がなくなる。つまり空気が入ってくる。
冬黒は即座にその場に入り込み、息継ぎをする。しかし、すぐに水が侵入してくる。こんな事ばかりしながらの息継ぎとなると……
はっとして秋葉を確認する。
秋葉はというと、平然としている。全く苦しそうでもない。
秋葉は能力により放った血液から、水中の空気を取り込む事が可能なのだ。
ある意味エラ呼吸を疑似的におこなえるようなものだ。
便利な能力だなと、冬黒は思った。
そうなると、この戦いは秋葉を中心に任せたほうがいいのかもと、冬黒は思った。
冬黒と違い、息継ぎの心配がないため、この戦いのキーになるかもしれない。
「コーリちゃん、これ……水じゃないでござるよ」
と、秋葉は言った。
水じゃない? いや、それよりも水中で普通にしゃべっている?
冬黒は試す。
「あ」
声を出してみる。口に水が入ることもないし、声も普通に出た……
「幻覚か!?」
「少し違うな」
三蛟は魔力の砲撃を放つ。冬黒と秋葉はそれを避けようと動くも……やはり水中の中にいるかのように、動きがにぶい……
なんとか紙一重で避ける事はできたのだが……
(幻覚という事に気づいても、この動きのにぶさは変わらない……)
「疑問か? 教えてやろう。吾輩の能力はな、幻覚ではない。能力の範囲すべてを水中として扱う」
「水中として……?」
今二人が浸かってる海、それそのものは幻覚と言っていいもの。しかし、水中内にいるかのような体の負荷は現実。
ただの空間を、水中内の負荷に変える能力……
ゆえに水の抵抗などが冬黒達を襲うのだ。
水そのものはないため、しゃべる事は可能。だが、水中として扱われるため普通の呼吸は不可能。
(動きもそうだが、呼吸が自由にできないのはキツイ……)
冬黒は息を止めるのに無駄な力を使わないため、しゃべるのをやめた。できれば動く事も最低限にしたい。
基本的な攻めは秋葉に任せ、いざという時に自分が決める……それが一番だと思った。
(動きはにぶくなろうとも、自分の光の魔力は負荷なんて気にせず放つ事ができる。だから攻撃は問題ない。問題なのは……)
「かあっ!」
三蛟は音波のような衝撃波を放ってきた。
(攻撃を避ける動きがしずらいって事……!)
負荷が強く、走ることは不可能。泳いで逃げるにしても限度がある。
だが、秋葉が血流を放ち、音波攻撃から冬黒を守る。音波は全て血流に飲み込まれ、完全に遮断する事に成功。
冬黒は口パクで礼を言う。
秋葉は自らリストカット及び、自傷行為を複数行い、大量に血を流す。
最初からフルパワーで行く。秋葉の覚悟を感じる。
水中として扱われている空間一帯、ゆえに流れた血液は水に滲むように浮かび上がる。
とはいえ、水は幻覚なのだが。
「色素無」
秋葉がそうつぶやいた瞬間、血は見えなくなった。
――否、見えづらくなったのだ。
どういう事かというと、秋葉の流した血の色が消え、水に溶け込んだのだ。
それゆえに、水と秋葉の血が目で判別不可能になった。
「さあ、ウチの血はどこに向かっていったでござるかな?」
秋葉はかわいく首をかしげて見せる。嘲笑うような笑みを浮かべながら。
肉眼では完全に見分けがつかなくなった。これでは奴の味方となりえる水の中から突然秋葉の血が襲ってきても反応する事は不可能であろう。
「バカめ。水は幻覚なんだぞ?」
そう言うと、三蛟は幻覚として見せていた水を消す。水中空間とし扱われる一帯そのものは変わらないが、目に見える水は消えた。
ならば溶け込んだ血も見えるはずだが……
「……?」
空間から水が見えなくなっても、秋葉の血が目に見えるようにはならない。
「残念ながら、ウチの血は目に見えないように変色させる事が可能なんでござるよ。カメレオンみたいにね」
そうなると目で秋葉の攻撃に反応することはできない。どこから、どうやって、どのタイミングで仕掛けてくるか……三蛟には知りようもない事となる。
「だが、その程度で吾輩を翻弄したつもりか?」
三蛟は、自らを大きな水の球体で包み込む。
「攻撃がくれば、この球体に何かしらの変化が起きるはず。揺れるなり弾けるなりな……」
「……」
「さあ、どこからでも仕掛けてくるがいい……」
――瞬間、球体内部から水流が三蛟めがけて針のような形で飛んできた。
その水は固形物と化し、三蛟を串刺しに……
「な、にぃ!?」
「残念でござるなあ。あんたが作った球体の中にすでに、ウチの血が混じってたんでござるよ。最初から混じってたなら、変化もクソもないでござるからね」
水の球体は崩れだす。三蛟は秋葉の血で串刺しのまま。
勝機と見た秋葉は動く。
「終わりにしてやるでござるよ! 貫血泉……」
必殺技をおみまいしようとすると、三蛟の姿が水になり、地面にこぼれ落ちた。
「は!?」
残ったのは水たまりのみ。
「水の……分身か何かでござるか? 変わり身? となると、本体はどこに……」
キョロキョロと辺りを確認し、三蛟を探す。しかし、どこを見渡しても三蛟の姿は確認できない。
だだ、少しおかしい。
秋葉は間違いなく先程の不意打ちを当て、三蛟を串刺しにした。手応えはあったから避けられたとは思えない。
そうなると、串刺しにしてすぐに姿を消したのかと、秋葉は判断。
だが秋葉は今の今まで三蛟から目をそらしてはいない。まばたきすらしていないのだ。そんな秋葉が全く気づけず、そして遠く離れる事など可能なのだろうか?
そう思ってしまった事で初めて……
秋葉は三蛟から目を反らしてしまった。
その隙を逃さず、三蛟は水の弾丸を放つ。旗から見たらただの水しぶき。しかし、それは鉄の弾丸のように鋭く、人体を貫けるほどの圧力のかかった水だった。
冬黒が気づき、光の盾を秋葉の前に出現させ、守ろうとするが……
出現が遅れたため、何発かは秋葉に直撃! 両腕が弾丸により貫かれてしまう……
「がっ! は……ど、どこから!?」
秋葉は撃たれた衝撃でしりもちをつく。そして辺りを見渡す……
しかし、三蛟の姿は見受けられない……
撃たれた両腕から血がドロドロと流れ落ちる。出血は彼女にとって武器になるとはいえ、ダメージが大きい。
両腕は自由に動かせないほど、弾丸に射貫かれてしまったからだ。
だが秋葉はそんなことなんのその、といった態度で立ち上がり、腕から流れ出る血を尖らせ、臨戦態勢をとる。
「どこから仕掛けてきたかは知らんでござるが……もう油断はしないでござるよ」
周囲に気を配る秋葉。すると冬黒は光を放つ。光は秋葉の目の前で文字を描く。声をだせれない冬黒が、言葉を秋葉に伝えるための苦肉の策だった。
描いた文字は……
奴は水溜まりになった。
そう、秋葉は変わり身のように水分身を残し、本体が移動したものと考えていた。
だがそれは違う。
三蛟は自らの姿を水に変えただけ。つまりその場から逃げてなどいなかったのだ。
そして……気づくのが遅かった。
「残念だったなあ……吾輩は既に貴様の血の中だ」
秋葉が尖らせた血の中から三蛟の声がした。
「う! ぐっああああ!」
秋葉は全身を押さえながらうめき出す。血が止まらず、勢いよく流れ続ける。
いかに血液をコントロールできる秋葉といえど、これほどの出血はさすがにマズイ。
だが、三蛟の狙いは……そうではなかった。
秋葉の目が真っ黒に変わり……冬黒を見る。
「「さあ……戦いの第二ラウンドを始めようか?」」
――つづく。
「ん? どゆこと? もしや秋葉先輩……乗っ取られた?」
「次回 冬黒対赤里。え、マジ?」




